1-6-2

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ――」


 里奈は頭を抱えて焦りまくっていた。


「誰よ、早起きすれば棒に当たるって言ったヤツは、超ド級の爆弾にぶち当たったじゃないの、いやそもそも犬も歩けばだっけ、ああ、今はそんなのどーでもよくって、問題はこの爆弾をどうするかで、もうっホントにどうしようっ」


 翌日の早朝のことだ。


 里奈はいつも通りの時間に起きた。


 圭太の世話をしなくっても、もう早起きは習慣づいていた。


 気分は過去イチでサイアクと言っていい。このまま部屋にいればどんどんドツボにはまりそうだった。


 そこで離宮の庭を散歩に行くことにした。


 庭の一部分が雑木林になっている。

 

 小道があり、道沿いを歩くと、小舟が浮かぶ池に出る。


 池のそばには東屋があって、先日、案内の際に「いい休憩ポイントですよ」と里奈たちに教えてくれた大人の綺麗なメイドさん。


 名前はシール。


 そのシールがこんな早朝に東屋にいた。


 一人ではない、楽しそうにお喋りしている。


 相手は里奈もよく知っている――ソルトだった。


「これってイケナイ関係ってやつよね、圭太がずっとソルトさんは女癖が悪いって言ってたけど、結局、ホントだったってこと? どーしよう、黙ってた方がいいのかなぁ、でも、神崎先輩と亜美ちゃんには教えてあげた方が……ソルトさんには注意だって、あの二人、ソルトさんに気を許してるみたいだし――よし、最後に念のため、もう一度、確認しとこ」


 里奈が木の裏から顔だけを出す。


 メイドがいた。目が合った。


 さっきまで東屋にいたはずなのに、すぐそこに。


 メイド――シールはニコニコと微笑みながら、


「おはようございます、リナ様」


「うひゃぁっ」


「さあ、行きましょう」


 シールは里奈の手首をつかむと、東屋の方へずんずん歩き出す。


 見つかったっ!?


「あぅあぅあぅ」


 あたし、どうなるの!? ピンチってやつじゃない!?


 里奈は抵抗する暇もなく、東屋に連れて来られてしまう。


「お兄ちゃん、リナ様をつれてきたよー」


「……え? お兄ちゃん?」


 椅子に座るソルトが呆れた目をしている。


「誰もつれてこいなんて言ってないだろう。私はあそこにリナがいると見つけて、それを君と情報共有しただけじゃないか」


「えー、どうせなら一緒にお話した方がいいと思わない?」


「はあ、まったく。リナ、すまない。考えなしのこれが無理矢理つれてきてしまって」


「これはさすがに酷くないかなー」


 気安いやり取り。


 特にいつもは大人っぽいシールが今は幼く見える。


 里奈は二人の顔を行ったり来たりしながら問う。


「あの、ソルトさんとシールさんの関係って……」


「言う機会がなくて紹介が遅れたね、シールは私の従姉妹だ」


「はーい、お兄ちゃんの従姉妹のシールです。年は22才。こう見えて王城に勤めて9年目のまあまあのベテランになります。よろしくねっ」


 そう言ってウィンクするシール。


 里奈はこくりとうなずくのが精一杯だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る