1-5-2

 王国騎士団異界部隊。


 新設されたこの部隊に圭太たちは強制配属させられた。


 目的は貴族への牽制だそうだ。


 貴族にとって異世界人は利用価値があるらしい。どうにかして自分の陣営に引き込もうとする。


 だからそれなりの肩書きが必要となる。


 王国騎士団は国王が最高指揮権を持っている。


 貴族のゴリ押しが通用しない組織ってわけだ。


 いや、話は理解したよ?


 異界部隊という肩書きがあれば里奈たちの身が安心って話だろ?


 だったら、その隊長をソルトにすんじゃねー。


 女癖の悪い隊長なんてこれっぽっちも安心できないじゃねーか。


 しかも、この離宮の管理者にはソルトが就いた。


 そんなのマスターキーを悪用すれば寝込みを襲うなんて簡単だ、ヤツならやりかねない。


 幸いにも各部屋には内鍵がついていた。


 圭太は里奈たちに女性陣の内鍵の義務化を提案した。


 里奈には「考えすぎじゃない?」と言われたが、詩織と亜美は「信頼は難しいわね」「たまに目が怖いです」と小声で話し合っているのが聞こえてきた。


 詩織と亜美はソルトの危険性をよく理解しているようで圭太はほっとした。

 

 だというのに、なぜソルトが日中に行う王国の教養の勉強会に2人はほいほいと参加するんだ。


 危険性を理解したんじゃなかったのかよ!


 密室で女癖の悪い先生と無知な教え子、うーすい本みたいになるだろうがい! 俺の女が汚されてしまう!


 本当なら、圭太はソルトの勉強会なんてブッチする気満々だった。


 でも、2人が参加したことで、圭太が参加しないわけにはいかず、里奈もついてきて、結局全員参加になってしまった。


 授業を聞いてみて分かった。


 ソルトのヤツ、何気に教えるのがうまい。


 口がうまいイケメンとか、ますます警戒心が高まった。


 今日の授業内容はドレッグという化け物についてだった。


 資料映像を見た。


 そう、映像。ビデオカメラで撮ったヤツだ。しかも、日本で売っても通用するような充電式の電化製品だ。異世界ファンタジーものの定番の魔導具なんてなかったんや……。


 いや、魔導具自体はあるのだ。


 昔は一般人も魔導具をバンバン使っていたらしい。


 ただ、魔導具――つまり、魔法を使えば使うほど、ドレッグが発生することが分かり、魔導具が廃れていき電化製品が広まった。今では、どの家庭もオール電化。

 

 話をドレッグの映像に戻す。

 

 粘性のそれはファンタジー生物の代表格、スライムに似ていた。


 ただ、見た目のかわいらしさはない。


 体表が常にドロドロと流動的で、不気味な印象だった。

 

 そのドレッグは森の中をゆっくり這いずっていた。

 

 体の表面から突起物を伸ばすと、木の幹に絡みつく。

 

 そして、その木はあっという間に枯れ木になってしまった。

 

 ドレッグはその後も、突起物を四方八方へ伸ばし、森はみるみるうちに枯れ果てていく。

 

 今回の映像は植物だったが、ドレッグはあらゆる命を喰らう。


 動物も、そして、人間も。


 ドレッグには地上の武器は通用しない。


 倒せる武器は異世界人が召還時に女神から与えられるとされる神器というチート武器のみ。


 圭太にはその自覚はないが、神器を持っているらしい。


 来週からは神器の使い方も学ぶことになる。


 神器とか、すげー学びたい。


 俺ツエーしたい。


 でも、ソルトからこのまま学ぶのは危険すぎる。


 なぜなら、今日の勉強会終わりに、詩織と亜美が積極的に話しかけていたからだ。


 知識欲が刺激されたのは分かるよ?


 でも、距離が近すぎだって。


 そこは女喰いのソルトの射程圏内だぞ!


 圭太はベッドの上で頭を抱える。


「ソルトのヤツを排除したい。でも、神器については学びたい。俺はいったいどうすれば。うごごごごごごご」


 じたばたと転げ回る。


 と、ノックの音。


「圭太、ちょっと話があるんだけど、開けてくれない?」


 里奈?


 こんな夜遅くに何の用……はっ!


 これは、Y・O・B・A・I ってやつか!


「ちょっ、ちょっと待ってろ、い、今、開けるんのぉっ」


 いってーぇ。慌てたせいで足をひねった。


 クールになるんだ、石川圭太。


 足の痛みを取り繕って扉を開ける。


「やあ」


「今、すっごい音がしたんだけど」


「……気のせいだ。それより、中に入れよ」


「ここでいい。すぐ済むし」


 ここでって、廊下でぇっ!?


 すぐ済むぅ!? そんなインスタントな感じでドーテー卒業しちゃうんすか、俺!?


 里奈はトレードマークのポニーテールをほどいて肩でゆるくまとめている。


 幼馴染みで見慣れているはず。


 なのに、月明かりの薄暗い廊下では一段と綺麗に見える。


 圭太の心臓がドキドキと高まる。


 里奈はうっすら頬を染め、髪の毛先をいじりながら、


「えっとね、その、話っていうのは――」


「………あ(察し)」


 これ、本当に話にきただけのヤツっすね。


「何よ?」


「なんでもないでーす。それで何? 早く話せって」


「なんで急に機嫌が悪くなってんのよ」


「いいから」


「もうっ。それで、話っていうのは、あたしってさ、ずっとあんたのお世話をしてきたじゃない?」


「うん、まあ、両親がちょくちょく出張してたからな」


 隣の家に住む里奈が、朝に起こしに来て、朝食を作って、昼用の弁当を持たせて、晩ご飯を作る――それが日常だった。


「でも、今、圭太の世話してるのはメイドさんでしょ?」


「そうだな」


「なんか、それが落ち着かなくって。だから、日本にいた時みたいにあたしが世話をしたいんだけど……」


「はぁ?」


「だからっ! あんたのお世話をあたしがするって言ってんの! ちゃんと聞いてなさい!」


「いや、聞こえてないわけじゃないんだけど……」


 想像の斜め上すぎてぽかんとしてしまっただけで。


「で、どうなの?」


 そこで圭太は――


 ++++++

(選択肢)

 1.佐々木里奈

 2.メイド


 =>「2」を選択

 ++++++


「メイド」に世話をしてもらうことにした。


 明日の朝もお姉さんメイドのシールに起こしてもらいたい!


「や、なんで本職のメイドがいるのに里奈に世話してもらわなくちゃいけないんだ? ふつーにメイドにしてもらうだろ」


「そ、そうよね。変なこと聞いたわ……」


「そーだよ。せっかく時間ができたんだ、俺の世話なんかせず、好きに過ごせよ」


「うん、そうする……じゃあ、おやすみなさい……」


「おう、おやすみ」


 里奈は帰っていった。


 去り際、表情を曇らせているようにも見えたが、気のせいだろ、廊下が薄暗かったもの。


 はー、やれやれ、人騒がせなヤツだ。


 圭太は部屋に戻ってベッドにダイブした。


 ++++++

(リザルト)

・佐々木里奈の好感度が下がりました。

 ++++++

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