貴石奇譚

貴様二太郎

開演

 0.極夜国

 極夜国ノクス

 そこは朝も昼も夜も、常に闇に包まれた常夜とこよの国。温かな太陽の代わりにこの地を照らすのは、冷冷れいれいとした白い月の光。

 そんな極夜国に住んでいるのは、貴石きせきの加護を受けた人々――石人いしびと――たち。


 彼らはこの世に生を受けるとき、左右どちらかの瞳に必ず自分だけの守護石をもって生まれてくる。金剛石ダイヤモンド紅玉ルビー蒼玉サファイア翠玉エメラルド変彩金緑石アレキサンドライト……

 これらが守護石と呼ばれるゆえんは、それぞれの貴石には必ず何かしらの力が宿っているから。不屈、勇気、誠実――その加護は実に様々で、同じ石でも全く違う力が宿っていることもある。加護の力も、強いものから些細なものまで千差万別。


 そんな石人たちの中でも強い力を持つ者は、圧倒的に貴族に偏っていた。彼らは古い血を脈々と繋ぎ、力の強い者同士で結びついてきたからだ。


 金剛石の王家、

 三大公爵家のコランダム、ベリル、クリソベリル――


 けれど。そうまでして心とは別に理性で血を繋いできた彼らでも、決して抗えない本能というものがあった。


 半身――それは石人にとって、最高の幸せと最高の不幸をもたらすもの。出会ってしまったらもう抗うことなどできない、呪いのような魂を縛り付ける伴侶。


 彼らは探す。己の石に導かれ、魂の片割れ、すべてを捧げるべき存在を。たとえ故郷を捨てることになっても、相手が同族でなくても、死が訪れるそのときまで探し続ける。

 


 消えてしまう思い出に涙する黒玉ジェットの娘、譲られた力に思い悩む蒸着水晶アクアオーラの少年、満たされる心を探して流浪する藍玉アクアマリンの青年、変彩金緑石アレキサンドライトと歯車に導かれる亜人の少女、人造宝石YAGが宝物の人騒がせな魔法使いの青年…… 

 赤虎目石レッドタイガーアイに導かれ、貴石たちは舞台で踊る。


 さて、これより幕を上げるのは、巡る貴石の物語。


 ――貴石奇譚――

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