第2話 倒叙法の基礎
三田村香織の書斎は、あらゆる推理小説の名作で埋め尽くされていた。壁には数々の賞状が飾られ、そのすべてが彼女の実力を物語っている。高橋恭平は、その中で少し緊張しながらも興奮を抑えられなかった。
「まずは倒叙法の基本から始めましょう」と香織は言い、机の上に広げたノートを指さした。「倒叙法の最大の特徴は、犯人の視点から物語を始めることです。読者は最初から犯人が誰であるかを知っているため、通常の推理小説とは異なる緊張感が生まれます。」
高橋はメモを取りながら、香織の話に集中した。
「例えば、犯行の詳細を丁寧に描写することが重要です。犯人の動機、計画、そして実行までを詳細に描くことで、読者は犯人の心情や状況を理解しやすくなります。その上で、探偵がどのようにして犯人を追い詰めるかを描くことが、この形式の醍醐味です。」
香織は続けて、自身の過去の事件を例に挙げることにした。「これは私が実際に手がけた事件を元にした短編です。犯人はある企業の幹部で、会社の不正を暴露しようとした同僚を口封じするために殺害しました。」
高橋は興味津々で耳を傾けた。香織はさらに具体的なシーンを説明した。「犯人は、同僚の家に忍び込み、特殊な毒薬を使って彼を殺害しました。毒薬の効果が遅れて現れることを利用して、自分がアリバイを証明できるように細心の注意を払いました。」
「ここで重要なのは、犯人がどのようにアリバイを構築したか、その過程を詳細に描写することです。そして、探偵がそのアリバイを崩す過程を丁寧に描くことで、読者に推理の楽しみを提供します。」
香織は、自身のノートを開き、具体的な文章の例を高橋に見せた。「例えば、探偵がどのようにして毒薬の存在を突き止めたか、またその効果を知っていた人物を特定するシーンを描きます。これにより、犯人が計画した完璧な犯罪が崩壊していく様子を、読者に鮮やかに伝えることができます。」
高橋は感心した様子で頷きながら、「実際の事件を基にした短編を書くことで、よりリアルな描写ができるんですね」と言った。
香織は微笑んで答えた。「そうです。現実の事件はフィクションよりも奇妙で複雑なことが多い。それをどのようにして物語に取り入れるかが作家の腕の見せ所です。さあ、私たちも一緒に短編を書き始めましょう。」
こうして、香織と高橋は倒叙法の短編小説を書き始めた。香織の指導のもと、高橋は犯人の視点から物語を描き、犯行の詳細を緻密に描写する技術を学び始めた。彼の目には、新たな物語の世界が広がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます