「あれから、フィーナ様はここへいらっしゃいませんね 」


 振り向くと、いつの間にかやって来たエリアーナが騎士団室に入ってくる所だった。フィーナとは反対に、エリアーナは毎日ここへと足を運んでくる。



 「明日、ジークハルト様は辺境伯領へ向かうというのに、何を考えているのでしょう 」


 「さぁな 」

 

 タイランに言われて、あれからずっと考えているが、幾ら考えても分からないのだ。

 それよりも、彼女は拗ねたまま、最後まで俺に会うつもりは無いのか。



 考えながら外に視線を移すと、そそとエリアーナが側に寄って来る。


 「本当にフィーナさんはジークハルト様のことを愛していらっしゃるのでしょうか? わたくしでしたら、ジークハルト様のお側を離れませんのに 」


 ひたと身体を寄せ、するりと細い腕を絡みつかせてくる。



 「……マリウス殿下に誤解されますよ 」


 腕を離そうとすれば、きゅっと力を込められた。どういうつもりなのかとエリアーナを見ると、エリアーナはうるうるとした瞳でこちらを見つめてくる。


 「やはり、そう思われていたのですね。マリウス殿下とは何もありません。私のお慕いしているのは…… 」



 その時だった。バンと開いたドアの先に、瞳を見開いたフィーナが立っていた。


 「フィ…… 」


 「はぁ、こんな時に浮気なんてしてる場合ですか? 」


 「え、あ……? 」


 フィーナの視線の先には、俺の腕に絡みつかせたエリアーナの手があり、慌てて振り解く。



 「フィーナ、違うぞ。俺は浮気なんて 」


 「まったく、人が寝ないで作業していたのは誰の為だと…… 」


 ブツブツと呟くフィーナの側に走り寄れば、フィーナが大きな瞳で、キッとこちらを睨み上げてくる。

 4日ぶりのフィーナに、不謹慎にもジークハルトは怒った顔も可愛いななどと思っていた。

 


 「そこに居る方といちゃいちゃしたいのであれば、私との婚約を破棄してからにしてください 」

 

 そう言うと、フィーナは持って来た台車を重そうに部屋に押し入れる。乗せられている荷物の多さに、ジークハルトは驚いた。


 「これは? 」


 「完全回復薬フルポーションと、状態回復薬です。フローズヴィトニルは氷属性の魔物ですから、凍傷と火傷用を多めに用意しました。それから、防御効果のある魔法石を騎士団の方の人数分と…… 」


 「どういうことだ? 防御セイ魔法石クリッドを、人数分だって? 」


 魔法石は滅多に見つかるものではない。特に防御セイ魔法石クリッドは珍しく、非常に高価で、市場にも滅多に出回らず高値で取引きされるものだ。

 驚いているジークハルトを見て、フィーナが箱から緑色に光る石を取り出す。それは紛れもなく、防御の魔法石に見えた。



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