時を奏でる人工勇者

Yosugami

代須上 蒼真はヒーローになりきれない

バタッ。

(一体どうしてこうなるの?)

地面に倒れ込んだ俺の意識は徐々に暗闇に消えていくのだった・・・。


20分前。

ヒュンッ、、ドサッ。虚空から現れた俺はお尻を強く打つ。

「痛っ、痛たたたた。」

お尻が本当に痛い!!おれは暫くの間地面に転がって痛さにもだえていた。

(ここは、、、森?)

あれっと俺が首を傾げていると

「大丈夫?」

上から降ってくる声が俺の安否を尋ねてきた。

「え、あ、うん。まだおしりがジンジンするけど、、、ってどちら様?」

「そう。それは残念。」

「はい?」

シュッ。どこからかともなく飛んでくる短剣。

「うわっ危ねえっ!!」

慌てて横に転がりそのまま立ち上がる俺。

「お前!!いきなり何すんだよ!」

驚いて大きな声をあげる俺。着いてそうそう死にそうになったんだが?

「気にすることはない。私なら苦しまず殺せる。」

そう言って声の持ち主が木の上から降りてきた。フードを被って顔を隠しているが声からして女性だろう。背、体格は共に俺と同じくらい。

「いや結構気にします!,,,,本気?」

無言。なんなのこの人、怖いっ。

「待てって。俺はお前と会った覚えがない。人違いじゃないのか?」

代須上よすがみ 蒼真そうま。」

思わず目を見開く俺。その様子を見ていたフードの女性はニヤリと笑う。しまった。本人確認されてしまった。腰に手を伸ばしチャキ、と音を鳴らせるフード女。俺も背中に掛けている剣に手をかける。

シュッ。キーン、キンキンキン。

森の中に剣のぶつかる合う音が響く。剣が交わる瞬間にくる新たに襲いかかる斬撃。俺はぎりぎりのところで受け流す。一つ一つの攻撃は重くないが、恐ろしいほど鋭く速い。

キンキンキンキンカーン。

9回目の斬撃を弾いた俺は、フード女からの距離をとった。

「はあっ、はあっ、はあっ.......」

(強い。それにまずいな、とんでもない疲労感だ。)

何か手はないかと頭をフル回転させてみるが、新しい作戦やら戦略が浮かんでくる様子は一向にない。物語のかっこいい主人公のようにはいかないようだ。

(だめだ、こういうときこそ頭働かないんだよ...)

「つらそうだな。」

「転移に体力使ってこっちはへとへとなんだよ!」

「救ってやろう。」

(’ころして’ね‼‼‼どこの宗派ですか‼‼‼)

再び動き出すフード女に応じて重い体を動かす俺。ところが剣を交える前に突然フード女は後ろに飛び下がった。

シュッ。

虚空を舞う俺の剣。俺は驚きながらも戦闘姿勢を崩さない。

(なんだ?)

「――――。―――――――――――。――。」

何を言っているかは聞き取れなかったが、フード女はちらりと俺を一瞥し、木々を渡ってどこかに行ってしまった。

(何がなんだかわからないけどが助かった、、、)

「ふ

「きゃーーーー!!!誰かーーー!!!」

安心した俺が一息つこうとする前に、助けを欲っしているであろう叫び声が、フード女の向かった反対の方向から聞こえてきた。いや、聞き間違えかな。うん聞き間違えだ。

「・・・ふ

「いやーーー!!!」

幻聴だ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「大きな出すんじゃねえよ。まっ、こんな深い森の中誰も助けに来ないがな。」

そうだそうだー、残念だったな嬢ちゃんなどの声がそれに便乗する。山賊10数人の視線の先では嬢ちゃんと呼ばれた少女が、壊れた馬車の近くでうずくまっていた。その目には大粒の涙が浮かんでいる。

「くっ、、、お嬢様、、、ウグッ。」

体を引きずって近づいてきた馬車の護衛の男は、山賊のリーダーの男の持っていた一際大きい大剣で貫かれた。ついにぐったりしてしまう男。

「へっ、きもちわりい。ごきぶりかよ。」

「ぁあ゙あ゙あー、、、パパ、ママ、、、」

「しかししつけーなーこのおっさんもじょーちゃんも。お前だって殺そうと思うえば殺せるんだぞ?」

そう言って泣きじゃくる少女を睨めつける。

「まあまあお頭。そいつは高くつきますから殺しちゃだめですって。」

そうひょろっとした男が言うとお頭と呼ばれた男はにやりと笑い、少女に近づく。

「そうだったな。よし、お前ら、獲物もゲットしたし引き上げるぞ。」

「獲物ってそれ?そんなの美味しくないでしょ。趣味悪いなあ。」

「ああん⁉」

驚き半分苛立ち半分で振り返るリーダー。そこにあるのは倒れた5人の仲間と見知らぬ服を着た謎の男。

「て、てめえ。なにもんだ。」

「さあね。通りすがりの疲れている旅人だよ。」

(くそっ!おかしいだろっ!一体全体なんなんだよこいつは!)

当然の感想である。突然やってきた、さらに変な格好をしている、そんなやつに仲間の半分がでやられたのだ。さっきまで喋っていた奴らが。フッと笑う謎の男。残った山賊たちが怯んだ瞬間に走り出し、。え?

(うん。もうヘトヘトで戦えん。ここはあの少女を抱えて逃げ一択だー!)

謎の男こと代須上 蒼真は剣をさやにしまって少女を抱きかかえ(お姫様抱っことも言う)、そのまま逃走を開始した。

「、、、え?」

「、、、まあお頭こんな日もありますよ?」

「、、、そ、そうだな、、」

残された山賊たちの間には気まずい空気が流れていたのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

木々がうっそうと生い茂り、荒れ放題の森の中。その中を蒼真は颯爽さっそうと駆け抜けていた。さっきから酷使している体が痛む。

(一応できるだけ離れないと。まだ追いかけて来るとは思わないけど、、、)

息を荒くしている蒼真に意外と早く涙が収まった少女が話しかけてきた。

「ねえ、お兄ちゃん、あれ。」

「ん?」

蒼真は緩やかに足を止めると少女が指差す方向を見つめる。

(うん?なんだあれ?、、、猿?)

木の高い枝に座り込んでいる小さめの猿がいた。そいつはこちらを見つめ、手には石を握って、石?超高速で飛んでくる石。俺の頭にクリーンヒット。痛すぎる。倒れかける体を踏ん張らせ、俺は抱えていた少女を下ろした。

「お前、、、お前ええええ、、、許さねえ、、ゼッタイに殺す‼」

俺は俺の頭にクリーンヒットしやがった石を拾い上げ、くそザルを狙って全力で投げた。この石投げは、今までの人生で一番腕の筋肉を使った瞬間だと確信できる。時速160kmぐらい出ていたのではないだろうか。しかし結果はだめだめ、石は猿から遠く離れた方向に飛び去ってしまった。

「お兄ちゃん、動物をいじめるのはだめだよ!優しくしなきゃ!」

しまいには10歳ほどの少女に叱られてしまった。

「ああ?」

少女をしっかりと睨む大人気のない俺19歳。ひっと声を上げて後ろに下がる少女。涙目になる少女の顔が段々とぼやけてくる。

(ああ。だめだ、、、意識が、、、、、なんで、どうして、、どうして一体こうなるの?)

そう思いながら俺は地面に倒れ込んだのだった。


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