~盗癖~(『夢時代』より)

天川裕司

~盗癖~(『夢時代』より)

~盗癖~

 コーン畑が広がる中、炎天下にて、私達は(父親を含め他二名を連れて)車でドライブがてら、誰かを追って居た様だった。途中の古本屋兼駄菓子屋でアイスクリームも売って居り、私は何気にアイスクリームを食べたく成って父親に言い、車を下りてから古本屋へ立ち寄った。父親とインディアンの様な二人は遠くまで広がるコーン畑を見ながら伸びをしたり少し喋ったり、他愛無い事をして居り、私はいつもの癖でその三人を待たせながら暫く興味のある本を探して、なかなか駄菓子屋へは行かなかった。そうして居る内に父親が私に催促しに来て、私は「はいはい!わかりました、わかってますよ、もう一寸待ってて下さいね、…」とか何とか言いながら直ぐ様読み掛けの本を店の主の目前でパタン!と伏せて置き捨て、当の目的で在った駄菓子屋へ向かった。看板には〝アイスクリーム売ってます〟等と書かれて在るのに実際入って見ると、どこにもそれらしき物が無く、一頃前のシャッター式のアイスクリーム入れ(機)をも少々注意深く探してみたが結局無く、「チェ」なんて言いながら又退店し、父親の運転する車に乗り込んで又走って行った。実際、誰を追って居るのかも、我々がどこから来たのかも解らずに、又その二人のインディアンは走って居る途中で知らず内に車から下りて居る様で、車の横を猛ダッシュで走って並走して居たり、又カーラジオを父が付けた際に流れて来る音楽に身を任せて狭い車内で少々うざく踊ったりして居り、私はそれでもその三人を自分の仲間だとして〝何かを追ってコーン畑を走る旅〟に付き合い、その三人と一緒に居た様である。

 走って居る途中、ピーナッツが私の右胸と服の間に入った。私は車の中に在ったレジャー用のお菓子からピーナッツを少々手の平に何粒か乗せて、食べながら窓外の景色を見て居た様だ。それが、途中で少々道がでこぼこと悪く成った所為か、車体が揺れ、その拍子に何粒かのピーナッツが手の平から跳ね上がって私の右胸の所に転がり込んだ様だ。くそぅ、とか思いつつ私は田園風景の様な景色を楽しんで眺めて居ながら、転がり込んだピーナッツを全て掻き出す事に努めて居た。左手の人差し指で何度も何度も何度も取り出そうとするが一向に取り出せず、否既にもう、そのナッツが服の中でどこに行ったか分からなく成って居た。右利きの私は慣れない左手でしか掻き出す事が出来ないその状況に嫌気が差して来て、〝もういいや〟という風に放って置き、事がなかったかの様に又景色を見る事を楽しんだ。何故かピーナッツは、どこに行ったのか分からないまでも、右の胸辺りに潜んで居ると私には分かって居た。

 している内に既にインディアンの姿はなくなり、私は父との二人旅を或る義務の様なものに追い立てられてして居り、先程カー電話で、〝母親が田舎(愛媛県)から東京(の愛染橋か何か言って居た様な気がする)迄行かなければならない〟、というのを聞いて居り、私と父親はその母を助けるべく、又どこに向かって居るのか知れないがとにかく母のもとへと車を走らせて居た。やはり母親は右片麻痺を患って居た様である。沢山の困難(天災の様なもの)が私と父とを襲った。嵐から台風から豪雨から地震の様なものから(近くで大岩が転げ落ちて来てその為に地鳴りがして居た様にも後から思えた為)、間に合うか合わないかで鬩(せめ)ぎ立てる時間の問題まで、たった数キロの中で一つ一つが映画のシーンの様に大袈裟に襲って来る。私と父親はそれでもめげずに当然の様に母親のもとへ駆け付けようと、静かに躍起に成って居た様だった。

 時間の問題が奏してか、私と父親はいつの間にか時間のラグを擦り抜け、江戸の頃に戻って居た様子で、辿り着いた矢先で誰か(天変地異が襲って来ても助けて貰える様に、と)自分達の仲間に成ってくれる人を探して居た所、少し向こうで、神田川の様な川で溺れて居る、丁髷(ちょんまげ)をして着物を着た町人の様な人が恐らく何人か居るのを見付け、それを救ってその恩を撒いた揚句に自分達の仲間にしよう、と算段し、助けようとした。しかし我々が助けに行こうとして近付いた際、現代の武装服に身を包んだ狙撃手に鉄砲で我々共々その溺れて居た町人も撃たれそうに成った。我々はその時代錯誤を当然の様に受け入れて後、音を聞きつけてやって来た他の町人が我々(父親と私)に馬を貸してくれて、〝早く逃げろ!〟と催促した。いつに来たのかわからないが、私と父親は以前に一度、この町に来て居た様で、その町に居た女と或る関係を持って居た様だ。父親はどうか知らないが、私は忘れて居る。今日のこれ等の一連にはどうやら(多少)女が原因して居た様だ。その女が狙撃手を呼んだのか馬を貸してくれたのかはわからないまま、とにかく私達親子は深く考える間もなくその狙撃手から逃げた。逃げながら私達(親子)は何についても当たり前の事を言って、今、狙撃手から逃げる事、又母親のもとへ行く事、を算段して居り、その当たり前の事はその二つの場合に於いて私達を守る際、自然に強かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

~盗癖~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ