逃げるアリバイ

天川裕司

逃げるアリバイ

タイトル:逃げるアリバイ



イントロ〜


皆さんは、ヘビが怖いですか?

そもそも爬虫類が苦手と言う人は多いようで、

ヘビやカエルなど、もともと好きじゃない人は多いでしょうか。

ですがその爬虫類が殺害現場にいたらどうでしょう?

その絵図を想像してみるだけでも奇妙な図に映るでしょうか。

もしそんな現場に遭遇するような事があったなら、

少し冷静に立ち止まり、考えてみる必要があるかもしれません。



メインシナリオ〜


ある所に大金持ちがいた。

彼女の名前は多羅屋(たらや)レコ。


レコの家系はもともと財閥で、両親が不慮の事故に遭い今レコは独り身ながら、

都内から少し郊外に外れた豪邸に住んでいる。


レコはもともと男嫌いで結婚する気は無い。

でも日々の寂しさを紛らわすため、ペットを飼うことが好きだった。


そして今日も彼女は最寄りのペットショップに寄っている。


ト書き〈ペットショップ〉


レコ「この猫ちゃんも可愛いわね」


店主「この子は従順ですぐになつきますよ」


店主はいつものように彼女にロシアンブルーを勧める。


レコ「そうね。この子にしようかしら」


今日もいつもの日常の光景。

でもそんな日常の光景に、ある日、信じられない光景がやってきた。


ト書き〈ストーカー〉


レコ「…何か目をつけられてるような…?」


彼女の周りに男の気配がし始めたのだ。

いわゆるストーカー?

そのことが気になり始めてから、彼女の周りでさらに妙なことが起き始める。


郵便受けが荒らされていた?

閉めたはずの門扉が少し開いていた?

夜に道を歩いている時、自分の歩くペースと同じペースで誰かが付けて来るような感覚がする?


ト書き〈自宅〉


そして極めつけは…


レコ「なに…これ…」


自宅の玄関に、買った覚えのない花が置かれていた。

その花は鉢植えで、玄関のポストになど入るはずがない。

「誰かすでに自宅に侵入している…?」

この恐怖が瞬く間に彼女を襲う。


もちろんすぐ警察に通報したが、犯人はこの手の犯罪のプロなのか?

手がかりが全く掴めず、その犯人像の輪郭すら残さない。


警察は「目下、全力で捜査に当たりますので」

とは言うが、犯人が実際捕まるまでの警察の尽力は

こんな時、独り身の女にとってはなかなか功を挙げない。


彼女はその日から、不安の毎日を送る事になってしまった。


ト書き〈事件〉


そして、ついに事件が起きたのだ。


警察「やられた…」


今回ばかりは警察の力が及ばず、彼女は自宅リビングで死んでいた。

奇妙だったのは、その現場にサンゴヘビが侵入していた事。

サンゴヘビは猛毒を持つヘビの種類で、毒が回るのが早く、噛まれてすぐ適切な処置を施さなければ助からない。


しかも彼女の部屋に侵入していたのはブラジルサンゴヘビ。

陸生のヘビの中では最も強い神経毒を持つ種類。


警察「なぜこんな所にこんなヘビが?」


警察の疑問はそれ。普通ならこんな所にこんなヘビはいない。

しかし動物園やペットショップ、現代(いま)ではペットとして飼う人たちも結構多いのかもしれない。

危険種はペットとして飼うのが禁じられているが、

いざ飼おうとする者がそんな決まりを守る事はほとんどない。


警察はその辺りも視野に入れ、この事件を他殺と決めて捜査を進めた。


他殺の線がすぐに浮かんだのは、彼女が強姦されていた事。

おそらく死んでから強姦されていた。

おそらく犯人はサンゴヘビを彼女の家に侵入させて目的を遂げていた。

それしか考えられない状況だった。


そして捜査の第一ポイントに上ったのはあのペットショップ。

彼女が毎日のように訪れていたそのペットショップには、

爬虫類も多く飼育されており、その中に彼女を殺したサンゴヘビも置かれていた。


ト書き〈事件解決?〉


一瞬、店主が犯人かと思われたが、真犯人はすぐに挙がった。


岡部「放せぇ!コラァ!放せよお前らぁ!」


彼女にストーカー行為を働いていたその異常者。

名前は岡部智弘(おかべ ともひろ)と言い、

この男はすでに彼女の家に侵入していた事が明らかになった。


彼女の家の周りをうろつくようになり、門扉を開けたり、ポストの中身を詮索したり、

彼女の持ち物を物色したり、あの花を置いたのも彼だった。


これだけの状況が揃えば、彼が疑われるのも無理は無い。

しかし彼はずっと彼女の殺害を否認していた。


そして捜査が進むにつれ、この男・岡部が

あのペットショップに度々通いつめていた事も

店内の防犯カメラから明らかになっていた。


岡部「彼女の事が大好きで、彼女の行く後をそのたび追い回していた事は認める…。でも俺じゃない!俺は彼女を殺してなんかないんだ!」


しかも岡部の自宅には、サンゴヘビが2匹飼われているのがわかった。


警察「これだけの状況証拠が揃って、まだ言い逃れするのか?」


警察がそう問うのは当たり前だった。

購入履歴を検証すると、岡部は別の店でサンゴヘビを

2匹買っていた事が明らかになった。


そして彼女がいつも通っていた

あのペットショップの店主のアリバイは、

おそらく彼女が殺されていたその当夜、

友人を通して明らかになる。


店主はその夜、友人の家に遊びに来ており、

彼女が死んだその時間帯、その友人の家でテレビ鑑賞していた事が判った。


そしてまた捜査の展開により、彼女の被害が明らかになる。

彼女の自宅から銀行通帳と印鑑が盗まれており、

他にも金目のものや彼女の私物が盗まれていた。


そして決め手はあのサンゴヘビが、

彼女が通いつめていたそのペットショップのゲージから、

そのゲージの鍵を開け、抜け出て、彼女の家に侵入していた事がわかったのである。


店主がその友人の家でテレビ鑑賞をしていたのは、夜の9時から10時ごろ。

そして彼女が殺されたのは、その夜の9時から10時ごろ。

ヘビの毒を受け、そのあと強姦されて殺されていた。


おそらく強姦されたその直後に、

彼女の私物や金目のものが盗まれたと警察は考えた。



解説〜


まず動物や昆虫による殺傷・殺害なら、

あわよくば罪に問われまい…とした犯人側の浅はかさがある。


しかしその線はすぐに崩れ、警察が他殺と見抜いた事から

すぐにアリバイ工作が必要となる。


岡部は彼女に付いた唯のストーカー。

彼女を殺してはいなかった。


もし殺害して強姦するのが目的ならば、

それまでに彼女の家に侵入していた事から

彼女をその時に殺していた可能性も否めない。


またサンゴヘビが凶器となるなら、

彼はそのサンゴヘビを2匹購入しながら

その2匹ともがまだ彼の家に居た。

ヘビは現場で押収されている事から、

2匹ともが自宅にいるのはおかしい。


そして殺害時間とその経過。

店主は友人の家でテレビ鑑賞をしていたと言うが、

その時間帯、その家に友人が一緒に居た事のアリバイは立証されない。


真相は単純にこうである。


店主とその友人はグルだった。

友人の目的はその彼女を強姦する事。

そして店主の目的は彼女の家にある金目のもの。

彼女の私物はおそらくその友人が盗んでいた。


友人のアリバイは立証されていない。

そこに今回の事件解決のヒントがあった。


友人はその時間帯にヘビを彼女の家に侵入させ、

彼女を殺すよう運んでいった。

そして目的をその通りに遂げた後、彼女の私物を盗む。金目のもの以外。


そしてそのすぐ後、大体夜の10時過ぎに店主が彼女の家にやってきて、

銀行通帳や印鑑など金目のものを盗んだ。


字義通りに解釈すれば、ヘビが自分でゲージの鍵を開けて抜け出すなど不可能なこと。

鍵を開けたのは人間。つまりその店の店主。

店主は友人にヘビを持たせ、協働して犯行に及んだ。


そして又あわよくば、彼女に付いていた

ストーカーこと岡部の存在も掴んでいたので、

一連の犯行を彼の責任に擦(なす)りつける事は出来まいか、

と目論んだ。


今回の1番大きな意味怖のポイントは、

欲望に目がくらんだ人間は、普段からは考えられない

あまりに杜撰で幼稚な犯行にもその達成を夢見、

行動してしまうというその短絡さ。


こんな現場に遭遇した時、

その人間の短絡さ加減がどこに隠れているか?

それを見つけるのが、真相を紐解くヒントになるかも。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=3GPr1552wZg

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