第5話
サザエさん、ちびまる子ちゃん、クレヨンしんちゃん。そしてドラえもんなどが嫌いだ。
そこにはありもしない理想の家族が描かれているからだ。それは現実の家族像から大きくかけ離れているものが多い。
夫婦仲が良く、子供たちはのびのび生きている。
だがこれは
私は家族を養っていくことに必死だった。
どうしたらもっと家族をしあわせに出来るだろうか?
いつも私はそればかりを考えていた。
そして頑張れば頑張るほど、家族は私から離れて行った。
私の家は貧しかったが父と母は私と妹のために真面目によく働いてくれた。
父は実家が大地主で元銀行員だったこともあり、両親は借金を酷く嫌った。
財産はなかったが借金もなかった。持ち家もクルマもなかった。
ギャンブルをするでもなく、父は肉体労働を苦にすることもなく、家でナイターやプロレスを見ながら酒を飲み、私と妹の成長を楽しみに生きているような人だった。
母は中学しか出ていないこともあり、子供の教育にはあまり関心がなった。
そして不思議と学歴がないことに劣等感も感じない人だった。
私がテストで100点を取っても母は喜ばなかった。
でも涙もろく情に厚い母だった。
私たちは貧乏だが仲の良い家族だった。お互いに家族想いだった。
私は妹と歳が離れていたこともあり、自分の娘のように妹を可愛がった。
自分が買ってもらえなかった48色の色鉛筆も妹には私が買ってやった。
就職してからは高校の学費はもちろん、ピアノを欲しがっていた妹に電子ピアノを買ってやったこともあった。
妹は私を兄というより父親のように慕ってくれた。
いつも私の後ばかりをついて来るような妹だった。
妻の麻理恵は私の家族を見てよく驚いていた。
「あなたの家族は「ありがとう」ってよく言い合うわよね?
私の家族はそんなことがあまりなかったなあ」
私はそれが当たり前だと思っていた。そう育てられていたのかもしれない。
「友親、お醤油取って」
「はいよ」
「ありがとう友親」
買物に行って帰ると、
「友親、雨の中ご苦労様。ありがとうね?」
と、いつも母から労いの言葉をもらった。
私たち家族はそれを自然に言っていたが、普通の家族ではあまり言わないと妻は言っていた。
それは、
家族なんだからありがとうなんておかしい
私にはそう聞こえた。
思えば自分の家族の中でありがとうを言うのは私と娘だけだったような気がする。
妻や颯太からは「ありがとう」と言われた記憶は殆どない。
たまに外で家族の話をすると、
「加納さんのご家族はしあわせよね? 何でもいっぱいしてもらって。
うちの主人にも聞かせてあげたいくらいよ。休みの日はいつも家で寝てばかりだから」
「きっとお疲れなんでしょう? 私はいつも暇ですから」
私は休日だからと言って昼まで寝るということはなかった。
寧ろ休みの日こそ早く起きて、今日は家族をどこに連れて行って何を食べさせて何を買ってやろうかと考えて、ひとりでワクワクして外出の準備をしていたものだ。
家族を笑顔にすることが何よりの私の生き甲斐だった。
家族たちはうれしそうに笑っていた。
少なくとも私にはそう思えた。
雄のライオンは自分の子供を「
確かにアフリカのサバンナに「千尋の谷」はないし、それどころか集団のハーレムで生活するボス・ライオンは、前のボス・ライオンから交代すると、その前のボス・ライオンの雌たちを自分のものにし、前のボスの子供たちは喰い殺してしまうと聞いた。
私は誕生日や父の日、母の日、還暦祝いなどをする家族はあまり好きではない。
子供はなるべく早く家を出て、親は子供や孫から子離れするべきだと思う。
親は子供をしっかりと成人させ、子供は自分のチカラで自由に生きるべきなのだ。
親と子はやがて決別するべきなのである。自然界に生きる殆どの動物たちがそうであるように、子供は親を気にかけ、心配して介護することもせず、親を頼らず自分で生きてゆくべきなのだ。
私は「家族孝行」だと思っている。なぜなら家族に私の面倒を看てもらおうとは思ってはいないからだ。
これ以上の家族想いはないと、今、独居老人になってそう思う。
孤独死? 誰にも看取られることなく死んでゆく人生。
それは自由に生きて来た私にとって、止むを得ない代償だった。
自業自得
後悔はない。子供は親のことなど考えずに自分の人生を歩めばそれでいい。
だが妻の麻理恵には多少の財産は残してやりたいとは思う。
それは私が家族の愛し方を間違っていたからだ。
私は事業に行き詰まり、ある時ひとりで昼食を食べながらNHKのテレビを見ていた。
『風のハルカ』という連続テレビ小説だった。
娘役の村川絵梨と父親役が渡辺いっけいだった。
由布院で貧しい生活の中で育ったハルカが父親と別れて大阪で暮す母親の元で本当の幸福を知るという物語だった。
その時、駄目な父親、渡辺いっけいにハルカは言う。
「お父さんは逃げている!」
私はそのシーンを見た時、箸を握りしめて号泣した。
娘の優香にそう言われているような気がしたからだ。
「俺は一体何をしているんだ!」
私はその時、すべてのものから逃げたかった。
だが再びチャンスは訪れた。
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