第3話 異国料理、現地より日本アレンジのが美味しい説

姉の自慰を目撃してしまったことで、精神的にも大人に成長できたと思うしかない…。ポジティブに考えよう。年齢も一つ大きくなるようで、僕は誕生日を迎えることになった。例年、姉はどこで稼いだのか、高価な物を渡されるのが通例なのだが、今年はどうなることやら…。


「「「お誕生日おめでとう~~~」」♡♡」


階段を降りると家族のみんなからの祝いの声がして来た。成人を迎える誕生日ということでかなり盛大に祝ってくれるようで、朝からマグロの漬け丼を食べることになった。両親からの小さい頃はどうだったのエピソードが始まった。またいつもの長いのが始まったよと軽く呆れながらも聞いていると、


「ぅ..........弟君.....ほんとに、、ほんとに生まれてくれてありがとねぇぇ……」


両の手を祈るように固く握り、目線の高さまで持っていくと祈るようにさめざめと涙を流し始めた。我が姉は今日もぶっ飛んでいるようだ。僕も両親も完全に慣れ切ってしまっているので、もう椅子からも降り、神に祈りを捧げるような格好で泣きじゃくる姉を完全に空気のように扱い、食事を進める。朝食が終わり、学校に向かう準備が終わったころまだ姉は号泣している。だんだん勢いが増してきているのは気のせいだろうか。家を出てからしばらく歩いていると、トタトタと走ってこちらに向かってくる音が聞こえてきた。振り返るとそこには姉が。


「すげーな、ねーちゃん。なんで追いつけるんだよ。」


「18歳の弟君と過ごせるのは1年だけだからね♡♡片時も無駄にしたくないのよ♡♡」


「19になっても姉弟なのは変わらないだろ?」


「”18歳”の弟君ってのが大事なの♡♡合法dkなのよ♡♡合法よ♡♡」


「ねーちゃんってしゃべんなきゃ最高の姉なのに。」


「ふぅ♡私への罵倒はむしろご褒美なのを知らないのね♡」


「本当にしゃべらんでくれ。」


「はぁ♡♡今日の弟君もかっこいいわぁ♡私は君のためだけに生まれてきたの♡♡」


「おとーとくん、えちしよぉぉ♡♡おねーさんがホテル代払うし、おこずかいもあげるからぁぁ♡♡」


「はぁぁぁ♡♡おしりかわいいぃ♡」


度重なるセクハラに耐え、無事に学校に着いた。どうやら18歳になった僕への売春はOKだと勘違いしているらしく、教室に入っても値段を交渉してくるL○NEが止まらなかった。


「ホ別10までならいいよ?♡♡」


もちろん既読無視し、新たな1日を始める。

そして放課後、チャイムと同時の帰宅ラッシュに負ける事なく最速を目指す。これが帰宅部の流儀!!…というよりも誕生日のご飯とプレゼントが楽しみすぎるのだ。両親からのプレゼントが無くなってからしばらくたつのだが、姉だけは18年間欠かすことなくプレゼントを送ってくれるのだ。今日の晩御飯は何だろうかと玄関をあけると、洋風な香りでシーフードを感じる。我が家では記念日の時にはパエリアが通例となっているので、今日もパエリアで間違いないだろう。パエリアはスペインの料理なのだが、きっとスペインで食べるより日本で食べるほうが美味しいだろう。すべての異国料理においても言えることだと僕は思っているのだが…。完成まではしばらく時間がかかるようなので部屋で暇でもつぶそうかとスマホをいじっていると、隣の部屋から姉がドタバタと忙しそうに動き回る音が聞こえてきた。すると、ガチャ、と目の前のドアが開き、土下座姿の姉が参上して来た。まあ、いつもの事なので軽く流してやろうか…。


「弟君♡どうか、どうか私を殺してください♡♡」


「なにいってんすか....。」


「私、考えたの....。人生最大の幸せって何かなって。結婚かなあって思ったんだけどね…。違うなって。私、心の底から弟君を崇拝して、遺伝子まで服従しちゃってるの♡♡殺してください♡♡」


「お引き取りください。」


取り敢えず、扉を閉めた。


「ちょっとまってよ!!」


ガバっと、再び開けられた。


「た、誕生日プレゼントあるから♡♡」


このタイミングらしい。今年はどんなぶっ飛んだものなのかと少々期待している。


「ふふふ♡♡目をつぶってね♡♡」


姉がキスする距離まで這い寄ってきたのを肌で感じる。ギュッと口を閉じて防御体制に入るが、予想とは裏腹に狙われたのは手だった。恋人繋ぎで両者の手が0距離で接しているはずなのだが、触覚は人肌とは思えない冷たさを感じている。どうやら、何か挟んでいるようだ。


「ねぇ♡開けてみて♡♡」


耳元でポソポソと囁かれる。ゆっくりと目を開けるのに合わせて、徐々に繋いだ手を放してくれる。そこには、1枚のカードが…。


「これ、クレジットカード何です♡ご主人様が好きに使っていいカードですよ♡♡」


「え、い、いや、いらないなあ。」


「ダメ♡♡絶対に使わないとダメですからね♡♡」


「わかった。わかったよ…。」


圧に押されて、しょうがないからもらっておこうかと財布に入れると、満足そうな表情を浮かべる。


「んじゃ、好きに使うからね。」


冗談で言ってみると、


「ハァァァァァ♡最高っ♡破滅させてくださいぃぃっ♡♡」


目の奥ハートを浮かべて、膝から崩れ落ちてしまった。

そんな姉を横目にご飯を食べに階段を降りる。お腹すいたなあ。

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