第30話 魔界対抗戦
この日、西南対抗戦の幕は切って下ろされた。
会場のコロシアムは熱気にむせ返っていた。兵士や傭兵は勿論のこと市民もこの会場に詰め掛けていた。
当然ながら賭けも始まっていた。この辺りは表の世界と同じだ。
ナナシとキサメは周りを見渡しその最上階にいる魔界将軍と呼ばれる者達に目が行った。
左右の陣営に5人ずつ。流石は将軍と呼ばれるだけはある。魔力量の桁が違った。
その中でも特に西の将軍の中にとんでもない者達がいた。それはカロールとガルーゾルだった。
それほど二人の力は特出していた。それこそキサメは彼女か彼が魔王ではないかと思ったほどだ。
ともかくとんでもない相手だ。勝てるのか私に。
そして試合は始まった。
第一戦は先鋒のカルクと西の魔人オークキングだ。オークキングは本来魔物だがそれに悪魔が取りついて獣魔人と化したバケモノだ。
カルクも力任せの戦いをするがそう言う意味ではこのオーク魔人も引けを取らない。しかも大きい。凡そカルクの2倍くらいはありそうだ。
この戦いはもう体の潰し合い。どちらかが粉々になるまで叩き合っていた。
余りの打撃衝撃に試合場の錬鉱石で作られた床も至る所でひび割れ陥没していた。それほどの戦いだった。
結果は双方の試合続行不可能と言う事で引き分けになった。
第二試合は次鋒のグルーゼンと相手はやはりマンティコアの獣魔人だった。
獅子の体とサソリの尾、そして顔の部分に悪魔の顔が乗っていた。知恵のある魔物だ。そして敏捷性と力がある。
それに対してグルーゼンは全く気後れはしていなかった。よほど自分のスピードに自信があるんだろう。
試合開始と共にグルーゼンの姿が消えた。それは超高速で移動しているので目では捉えられないのだ。
そして隙を見ては四方八方から波状攻撃を仕掛けていた。グルーゼンの持つ爪は魔獣の爪に等しい。一カキで相手の肉をえぐり骨を割く。
例え鉄の鎧を着ていても引き裂いてしまう。それほどの爪だ。
それに対して獣魔人は筋肉強化を行って表皮と筋肉を剛体と化していたがそれでもグルーゼンの攻撃を全て無効化は出来なかった
獣魔人は血を流しながらもそのチャンスを待っていた。
血まみれになった獣魔人にグルーゼンが止めを刺そうと獣魔人の首をもぎ取ろうと姿を現した時に、その獣魔人の口から咆哮が迸った。
それはグルーゼンの聴覚と三半規管を破壊し運動機能をマヒさせてしまった。その咆哮は超音波の咆哮だった。
相手は肉を切らせて骨を断つ作戦に出た様だ。
これによりグルーゼンは戦闘不能となって第二試合は西の獣魔人の勝ちとなった。
この試合は勝ち抜き戦なので、今回の勝者獣魔人が継続して試合を進めた。
相手は中堅のカトングだ。彼は魔法を使う。勝利したとは言えかなりの血を流した獣魔人はその戦力が大分落ちていた。
そこに火炎魔法を撃ち込まれ獣魔人はあっさりと負けてしまった。これで一勝一敗一引き分けとなった。
西の第三戦の相手はこれもまた獣魔人、ワイバーンの変身体だった。
どうやら彼らが属する部隊は西側で獣魔人部隊と呼ばれているそうだ。
南の魔法使いに対して距離を取って空中戦に持ち込もうと言う腹だろう。
本来距離があれば魔法使いが有利になる。しかしそれが空中で動き回る標的に対しては魔法も威力と精度が落ちる。
それに対してこの獣魔人は空中から火炎咆哮と翼による衝撃波を放ってくる。
それに対して地上で応戦するカトングは分が悪かった。防御結界を張るも物凄い威力でその結界すら弾き飛ばしてしてしまう。
人間同士の戦いならもっと色々な技や戦術を使う所なんだろうが元々魔力量が多い悪魔は力押しで通してしまうケースが多い。またそれだけの力があると言ってもいい。
結果は魔力切れでカトングの負けとなった。
これで一勝二敗一引き分けだ。
南側は遂に副将ナナシの出番となった。今の所負けが込んでるとは言え、軍団長は残った二人に勝負を賭けていた。この二人なら必ず勝てると。
ナナシは魔法使いとなっていた。だからワイバーンの獣魔人も前回と同じ空中戦で挑んで来た。当然だろう。
獣魔人の火炎咆哮に対してナナシは定番の防御結界で防いでいた。
こんなもの数分も持たんわと獣魔人は更に火力を上げてきた。
しかしいくらワイバーンの火炎咆哮と言えども永久に火炎を吐き続けられる訳ではない。
一定量を吐けば魔力の補給が必要になる。また火炎咆哮と衝撃波攻撃は同時には行えない。
それらの欠点がワイバーン獣魔人にある事をどれだけの者が知っていたか。
ワイバーンの火炎咆哮が止んだ瞬間ナナシは結界を飛び出して飛び上がりワイバーンに迫っていた。
まさか魔法使いが飛んで突っ込んで来ようなど誰が想像しただろうか。
ナナシの拳がワイバーンの顎に接触しそこから強烈は波動がワイバーンの脳を揺すった。
殺してはいないがその一撃でワイバーンは意識を失い落下しそのまま沈黙してしまった。
「おい、カロール。あいつ今何をやったんだ。あいつは魔法使いじゃないのか」
「一応は魔法使いだけどさ、別にあんな事やってはいけないって規則はないしさ・・・」
「規則も何も、大体魔法使いにあんな事が出来るのかよ」
「さーあたしには無理ね。あんなかったるい事やる前にこの世から消してやるわよ」
「おまえなー」
これで二勝二敗一引き分けだ。西側にはまだ二人残っている。
このままナナシが続けて戦うのだと思ったが何を思ったかナナシは次の試合を放棄しキサメに譲った。
これは負けには当たらない。単なる選手交代だ。
そして準決勝もしくは決勝とも言える組み合わせは大将のキサメと西側の副将との対戦となった。
キサメは剣士だから剣で対応した。実は魔界では剣士と言うのは比較的少ない。
それに対して相手側の副将は獣魔人ではなく大鎌を持った悪魔だった。一応は戦士と呼べるのだろう。正に死神の鎌とも言う様な鎌だった。
しかしそれは普通の鎌ではなかった。そこに魔力を通す事で魔鎌になる。
各種の攻撃魔法能力を備えた鎌だ。相手の能力次第では脅威となる。
試合が始まりその鎌相手にキサメは健闘していた。いや、まだ余裕があった。
相手は下っ端の悪魔ではない。
「なぁーカロール、あいつって魔影団の班長だよな」
「ええ、そうね。魔鎌を持たせたら軍団内で敵はいないと聞いたわ」
「じゃー何故あんなに手こずってるんだ」
「単純に相手の技量が上って事じゃないの」
「南にあんな剣士の兵隊がいたか」
「いないわよ。あれは傭兵だって聞いたわ」
「傭兵か、なら素性が分からないって事だよな。ちょっと調べてみてくれないか」
「わかったわ・・・?」
「どうした」
「見えないのよ」
「何言ってる。お前は竜眼の持ち主だぞ。それがどうして見えない」
「何か鑑定阻害の魔法が掛かってるみたいよ」
「普通の鑑定眼なら阻害出来る魔法もあるだろうがお前の竜眼を阻害出来る魔法なんかあるのか」
「普通はないはずなんだけどね、どうなってるのかしら。もしかして、まさかね」
確かに竜眼を阻害出来る魔法など存在しない。ただし聖魔法の使える者の阻害魔法なら別だ。
遂にキサメは剣のみで魔鎌を使う悪魔を切り伏せてしまった。これで残りは大将戦を残すのみとなった。
「どうだ、戦いの感触は」
「はい、まだ行けそうです」
「そうか、最後の大将はカルクの様な戦闘専門の様だがレベルはカルクよりも遥かに上だ。剣のみに固守する事はないぞ」
「はい、わかりました」
「なぁ、カロール。あいつら何者だと思う。どうも胡散臭いんだが」
「そうね、調べてみる必要はあるかもね」
そしていよいよ最後の大将戦が始まろうとしていた。
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