第31話 魔界対抗戦決勝そして

 遂に南部地区と西部地区の魔界対抗決勝戦となった。


 南部地区の代表は傭兵であるキサメだ。西部地区の代表はボルキスと言う悪魔だった。


 どうやらボルキスは南部地区の先鋒カルクと同じ接近戦闘タイプの悪魔だった。しかしその実力はカルクを遥かに凌駕する。


 キサメは左右にステップしまるで残像を残すようなスピードでボルキスの胴切に行ったがキサメの剣は両手に嵌めたガンレットアーマーで全て防がれてしまった。


 しかもそこから打ち出される拳は衝撃波を作り出し対象物を全て破壊してしまう。


 かすっただけでも体が痺れて動けなくなってしまう。しかしキサメもまたその衝撃を全て避けていた。


 基本的に剣の間合いと鉄拳の間合いでは剣の方が遠い。だから本来は鉄拳の方が不利になるのだがこのような衝撃波の打撃があれば鉄拳の欠点は消えてしまう。


 むしろ衝撃波を打ち出すボルキスの方が有利だろう。そしてボルキスの場合は魔法は一切使わない。


 彼は肉体派だった。力で抑えて行くタイプだ。剛拳は岩をも砕き衝撃波はどんな攻撃魔法をも消滅させる。


 並みの使い手で勝てる相手ではなかった。その点キサメはよく戦っていたと言えるだろう。


 しかし剣が有効でなければキサメに勝算はない。


 キサメが正眼に構えた所にボルキスがその剣を打ち払うように弾いて反対の拳で突きを入れてきた。


 この間合いに入られてしまえばキサメに勝機はない。ボルキスの拳がキサメの顔面に届こうとしたその時にキサメは剣を捨て左手で外からボルキスの拳を内に受け流し右拳で突きを入れた。


 その拳は見事にボルキスの中段に深々と突き刺さりボルキスは耐えられなくなって体を九の字に曲げた。


 当然普通の突きではない。波動寸勁だ。


 そこに左のフックがボルキスのテンプルを捉えてそのまま眠らせてしまった。


 勝負ありだ。今回の決勝優勝者はキサメ、そして南地区選抜チームの優勝となった。


「なーカロール、さっきから思ってるんだがあいつらちょっとおかしくないか」

「何がさ」

「何がさじゃねーよ。さっきのあれは何だよ。あいつは剣士だぞ。剣士がどうして接近戦やってんだ。しかも滅茶苦茶強いときてやがる」

「まぁそれもありなんじゃないの」

「おまえなー」


 確かに最後の二人に関しては納得の行かないことだらけだった。別に試合に負けた事はいい。


 次回勝てばいいだけの話だ。それに本当の殺し合いなら南地区に負ける気はしなかった。


 ただ一つ引っかかる事があった。それはあの二人が使った技のタイミングと技そのものだ。


 あれには見覚えがあった。あれはゼロが使った技に似ていた。


 しかし何故あいつらがゼロの技を。それともあれは他人のそら似。別の似たような技なのか。


 どっちにしても確認はしなければならないだろうなとガルーゾルは思った。


 カロールもある種の疑問は持っていたがそれはガルーゾルの疑問とは少し違っていた。


 何故ならカロールは魔界でただ一人ゼロの正体を知る悪魔だったからだ。


 もしゼロつながりだとしたらそれもあり得るかもと思っていた。しかし今は様子を見るしかないと思っていた。


 ナナシ達が属する駐屯所では軍を上げてのお祭り騒ぎだった。西地区には前回の戦争で辛酸をなめさせられた。


 完全なリベンジとまでは行かないが少なくとも向こうの武力に打ち勝った事はとても喜ばしい事だ。


 軍団長、部団長からも対抗戦に参加した者達に労いの言葉と金一封が配られた。


 特に最後の三戦をを勝利に導いたナナシとキサメには称賛の嵐だった。


 そのお祭り騒ぎが終わった後キサメはナナシに話を聞いていた。今回の私の戦いはどうでしたと。


 ナナシはそれなりには評価してくれたがまだ課題山積だとも言われた。


 それはキサメにもわかっていた。あの二人の魔界将軍を見た時自分の力の足りなさを実感した。今のままではまだあの二人には勝てないと。


 ただ今回の目的は一応達成された事になる。なのでこのままここにいても良い事はない。長くいればいるほど正体のばれる可能性が高くなる。


 そろそろ切り上げ時だろうとナナシもキサメも思っていた。


 翌朝早く皆がまだ二日酔いと戦いっている時にこっそりと駐屯所を抜け出して魔素球のあった場所に向かった。


 もう少しで元の場所に戻れると言う時に大地がうなって竜巻が起こった。


「おい、優勝者の軍の功労者がこんな朝早くたった二人で何処に向かおうと言うんだ」

「こ、これは西地区の魔界将軍様、ですよね」

「ああ、俺の名前はガルーゾルと言うんだ。覚えておいてもらおうか」

「承知いたしました。それで私達に何か御用でしょうか」


 キサメは緊張と共に最大限の防御準備をしていた。


「まぁ、そう緊張するなって。少し聞きたい事があっただけだ」

「はい、どのような事でしょうか」

「お前らに師はいるのか」

「師と言われましても。強いて言うならこちらのナノさんが私の師です」

「ほーお前がこの剣士の師だと言うのか。しかしお前は魔法使いだったんじゃないのか、剣も使うのか」

「はい、一応武芸一般は」

「ほーそれはそれは」


 その時一気にガルーゾルの魔力が上がり強烈な魔圧がナナシ達二人を襲った。


 それは途方もない魔力だった。魔界将軍クラスでないと耐えられないような。


 キサメはもう少しで膝を突く所だったが辛うじて踏み止まった。ただナナシは平然とそこに立っていた。


「ほーこの俺の魔圧を受けて平然と立っていられるとは大したものだな。ではお前の師は」

「私の師は今はいません」

「今はいないだと。では死んだと言う事か」

「まぁそんな所です」


「なるほど。ではお前らの目的は何だ」

「強くなる事でしょうか」

「俺を倒せるほどにか」

「はい、出来れば」


「はははは、面白い事を言うやつだな。今だかってこの俺に面と向かってそんな事を言ったやつはいないと言うのに。いいだろう気が向いたら戦いに来い。待っててやる」

「ありがとうごいざいます。ではいずれまた。失礼いたします」


 こうして魔界最大の脅威の一角との遭遇は事なきを得て終わった。


 その後ガルーゾルはカロールの城に向かった。


「あの二人に会って来たんでしょう」

「ああ、会った」

「で、どうだったの。勝てそう」


「ああ、あの剣士ならな。しかしあの魔法使いの方はわからん。底がみえねぇ、まるでゼロみたいなやつだった」

「ゼロみたいね。まさかだわよね」

「何がまさかなんだ」

「何でもない」


 一方キサメの方は。


「さっきのあの悪魔をどう思った」

「強いですね。今の私ではまだ」

「そうか、そうだな。しかしそう悲観する事もないだろう」

「そうですか?」

「ああ」


 こうして魔界の悪魔の強さを知ったナナシとキサメは再び表の世界に戻って来た。


 そしてこれから二人は何処に向かって何をしようと言うのか。

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