第13話 魔王復活の前兆か

「ねぇ、教えてよ。その魔紛石って何なの」

「魔紛石と言うのは魔王の魔力の欠片と言われている。500年前の戦いで魔王が破れた際、復活を狙って自分の魔力の欠片を世界にばら撒いたと言う話だ。そしてこの魔紛石を集めると魔力が高まり、魔王の復活を早めると言われているらしい。それとまたこの魔紛石を体に取り入れると魔力が増すらしい。そして呪詛の様に攻撃用の魔力を上げる為にも使えると言う事だろう」

「そうなんだ。それでそれを分からない様に魔道具を使ってあたいの体に入れたと言う事ね」

「まぁ、そんなとこだろうな」


「でもそんな魔紛石の話なんか聞いた事もないわよ。あんたどうして知ってるのよ」

「この前魔界に行った時に聞いた話だ」


「えっ、ええっ、ゼロさん魔界なんかに行った事があるんですか。それって悪魔の巣じゃないんですか」

「巣と言うよりも悪魔達が住んでる世界だ」

「信じられませんね。お師匠様が魔界に行ってたなんて。やはりお師匠様と言うべきですかね」


「まぁそれはさ、色々事情があったのよ」

「えっ、カラスさんは知ってたんですか」

「まぁね。それよりも問題は王様のブレスレットよ。早く外さないと」


 こうしてカラスは直ぐに王に会い、事情を話してそのブレスレットを回収して来た。


 王はこのブレスレットは二つとも珍しい物だと言って旅の土産としてマテップ公爵から貰ったものだと言っていた。


 やはりここでもマテップ公爵が関わっていた。これで裏から王家の転覆を狙っているのがマテップ公爵だと言う事がはっきりした訳だが、これだけではマテップ公爵の罪を問う事は出来ない。知らなかったと言われてしまえばそれまでだ。もっと確たる証拠が必要だ。


 如何に絶大な魔力を持つカラスと言えどもこの程度の事で王の血筋に当たるマテップ公爵を潰す事は出来ないだろう。カラス自身が王家に近いだけに。


 しかしとゼロは思った。今までは魔紛石を直に使って魔力を上げる様な事をやっていたが、今回は巧みに魔道具でその存在を隠していた。


 余程魔道具の扱いに長けた奴が関与しているのだろう。そうなるとマテップ公爵では少し無理がある様に思えた。


 この種の扱いはこちらの世界の住人では無理だろう。きっと他に黒幕がいる。それも悪魔に連なった誰かが。


 前回のシャロガンといい今回の事と言い。もし悪魔が関わっているとするなら、人間界への侵略が速過ぎないかとゼロは思っていた。


 確か南の四天王は2-30年は人間界には侵略しないと言っていたはずだ。


 にも拘らず、もしこれが人間界への侵略の一環だとしたら魔界で何かが変わったのか。


 四天王の誓約を破る何かが。もしそんな事があるとしたらそれは魔王の復活か。そして魔王が人間界への侵略を意図したとしたら。


 500年前に魔王を倒した勇者パーティの生き残りであるカラスは最大の敵であり殺したい相手だろう。


 そしてもし魔王が復活したなら、この前の次元のズレの高魔力も新たな勇者召喚の儀式と言う事で理解出来る。


 かなり世界がやばい状態になって来たなとゼロは思っていた。


 しかし今は先ずマテップ公爵だ。こいつを取り除かなければならない。しかもそこに魔素球が関わっているとなると尚更だ。


 今回の魔紛石に関してはゼロの細工によって魔素球から外に出したらその効果はなくなる。しかし魔素球の中でなら魔紛石はまだ生きている。


 残念ながらカラスに使われた魔紛石はゼロが細工する前の物だったのだろう。これも含めて処分が必要だ。そしてマテップ公爵の裏にいる誰かの解明も。


 これはカラスには難しいだろう。なら王家に関係のない冒険者であるゼロ達が最適と言う事になる。


 魔法学園の件もある。敵対し横槍を入れる者は叩き潰す。それがゼロのやり方だ。


「それじゃみんな行くか」とゼロとシメとハンナはマテップ公爵の館に向かった。


 一方マテップ公爵家では子飼いの三つの貴族家が壊滅したと言う報告を受けていた。しかもその三家はカラスを葬る為の魔素球を配置している所だ。


「一体誰がこんな事をしたと言うのだ。犯人はわかったのか」

「その件については只今調査中であります」

「許さん、許さんぞ」

「落ち着いてください、マテップ様、例え誰が邪魔しようと我々の勝利は揺るぎません」


 そう言ってマテップ公爵を宥めているのは執事であるカリブデンだった。


 このカリブデンは長らく仕えて来た執事のボルノーグが失脚した後釜になったのだが、どうしてボルノーブが失脚したのかは全く謎だった。


 それ以降は執事と言うよりはマテップ公爵の参謀の様な立場を取っていた。


 そんな所にゼロ達が乗り込んで来た。いきなり公爵家に乗り込むなど滅茶苦茶も良いところだ。普通なら狼藉者として死罪だろう。


 執務室のドアが弾き飛んでゼロ達3人が入って来た。その後ろにはゼロ達の侵入を阻もうとした家人や護衛の騎士がいたが全く役に立っていなかった。


「何だ、その方らは。狼藉者か。ここを公爵家と知って入って来たのか」

「そのつもりだ。久しぶりだな公爵さんよ。魔法学園では世話になった」

「何?貴様はあの時のカラス委任の教師だとぬかした奴か」

「公爵にしては口が悪くはないか」

「うるさい。こんな所まで勝手に入って来よって、成敗してくれるわ、そこに直れ」


 その時ゼロは隣にいる執事を見て全てを理解した。


「なる程そう言う事か。公爵さんよ、何故こんな所に悪魔がいるんだ。あんたはいつから悪魔の手先になった」

「何を馬鹿な事を言っておる。何処に悪魔がいるというのじゃ」

「あんたの隣にいるだろう。まさかその悪魔を執事だと言わないよな」

「これはわしの正真正銘の執事じゃ。言葉が過ぎよう。みなの者こ奴らを捕縛せよ」


 しかしそのドタバタ劇は長くは続かなかった。直ぐに全員床に這わされて静かになった。


 その時マテップ公爵は後ろの壁の隠し扉を開けて10人の魔法使いを呼び出した。


「この者達は我が国でも最高位の第5位階魔法の使える魔導士じゃ。死ぬがいい」


 それぞれ5人から炎と氷の魔法が飛び出した。なる程、効率としては良い。相反する魔法で攻撃されるととっさに対応出来なくなる。


 どちらか一方の魔法に対応している間に反対の魔法に対しては違う性質の魔法を発動出来ない。良い攻撃だ。


 しかもそこそこには強力だ。


 しかしハンナにはそのどちらも関係なかった。そもそも魔法そのものを無効にしてしまったのだ。


 炎魔法も氷魔法もゼロ達に届く前に消えてしまった。


「何故だ。何故我らの魔法が効かん」

「お前らそれでも魔導士か。下位魔法が上位魔法者には効かんと言う事を知らんのか」

「馬鹿な、我らの魔法は第五位階の魔法だぞ。ではその獣人は我ら以上の魔法が使えると言うのか」

「こいつは魔法学園の最高の魔法教師だ。お前らとは格が違うんだよ。いいぞハンナぶっ飛ばせ」


 ハンナの放った烈風魔法で全員が壁に貼り付けられ、更に圧力を受けて体が壁にめり込み体がひしゃげ始めていた。全員再起不能だろう。


「き、貴様、何をした」

「魔法学園が教える本物の魔法を見せてやっただけだ」

「貴様許さんぞ。わしの力を甘く見るなよ」


 マテップ公爵が隠された力を出そうとした時に、執事のカリブデンがそれを止めて、

「ここはわたくしめが対処いたしますので、どうか領地にお帰りになって戦いの準備をお願いいたします」


 そう言って転送魔法でマテップ公爵を送ってしまった。


「また余計な事をしてくれたな、悪魔」

「貴方もしつこい方ですね。わたくしは悪魔ではないと何度も申し上げております」

「なる程、それではこれでどうだ」


 その時ゼロから持ち出された物は降魔石だった。


「こ、これは何だ。まさか降魔石か、何故お前が」

「魔族だって持ってるんだ。俺が持てっても可笑しくはないだろう」

「そんな馬鹿な事があってたまるか」


 そう言いつつも執事の姿は徐々に悪魔に変わって行った。いや、本来の姿が露になったと言う事か。


「よくもやってくれたな。いいだろう。ここに居る全員の魂を食ってやろう。高貴な者の生贄になるんだ有難く思え」

「それは違うだろう。お前は下郎だろう」

「ふん、ヒューマンの分際で。お前らは悪魔の位など知らんだろう。貴族悪魔には下位悪魔、中位悪魔、上位悪魔とあるがその上にも位がある事を知っているか」


「魔将とその上が魔界将か。そのトップが確か魔界将軍だったか」

「何故貴様はそれを知っている。大したものだ。それだけでもこの世界を蹂躙出来る戦力だ。そしておれはその最上級にいるのだよ。驚き恐怖しろ」


 その悪魔から放出された魔圧は途方もない物だった。流石のハンナもシメも遂に膝をついてしまった。


「お師匠様、流石にこれはちょっときついですね」

「ハンナ、シメ、こんなものは慣れの問題だ。気圧、魔圧を上げろ」

「な、何だと、何故お前らはまだ生きている。上級悪魔でも即死すると言うのに」

「それだけ俺達は丈夫なんだろうよ」


「そんな馬鹿な事があってたまるか。まぁいいだろう。俺の手であの世に送ってくれるわ」

「そう言えば四天王の所には確か護衛の悪魔がいたな。そいつらは魔界将軍に匹敵するとか。つまりお前がその一人か」

「貴様は何故それを知っている。それは魔界将軍しか知らぬはずだ」

「お前は何処の四天王についている。北か南か東か、それとも西か」

「どうやらお前は余計な事まで知っている様だな。死ね」


 その悪魔が手から炎を打ち出そうとした時、ゼロが震脚で床を踏みつけた。


 その波動で悪魔は数個先の部屋まで飛ばされ魔法は途切れてしまった。


「よう、お前。この技を知ってるか」

「な、なにを」

「これはな、西の魔界将軍ガルーゾルの得意技の一つだ。お前ではガルーゾルには勝てんよ」

「き、貴様は一体何者なんだ」


 悪魔が立ち上がり体勢を立て直そうとした時、ゼロの双魔剣で首を刈られた。


「お師匠様、これが悪魔の上位種なんですか」

「ああ、そうだ。上から3番目辺りと言った所か」

「うそ、まだ上に二人もいるんですかゼロさん」

「そいつらは特別だ。魔王と魔界四天王だからな」


「じゃーもし彼らが攻めて来たら」

「心配するな、お前らでももう少し修行すれば戦えるようになるさ」

「そんな、簡単に言わないでくださいよ」

「ふふふ、それは面白うそうですね、お師匠様」

「あのね、ハンナさん」


 ともかく一段階は終わった。しかし本体を逃がしてしまったのでこれからが本番だ。


 取り敢えず今回の事を王に報告に行った。当然そこにはカラスもいた。


 叔父が悪魔の手先になってこの国を乗っ取ろうとしていると聞いて王は驚いていた。


 しかしゼロがマテップ公爵家から持ち帰った悪魔の死体を見せられては信じるしかなかった。


 もしここでゼロがこの悪魔を殺していなければ、王も間違いなく殺されていただろう。


 魔界門の件と言い、今回の件と言い、王家は、いやこの国は二度ゼロに助けられた事になる。


 そこで王はゼロに特別裁決権を与えた。緊急時に限り必要とあれば王としての決断を許すと言うものだった。


 これは途方もない権限だった。言ってみれば王の代行が出来ると言う事だ。


 ただこれをゼロが使うかどうかはゼロ次第だ。ともかく今はマテップ公爵の討伐だ。


 当然敵も全兵力を揃えて待っているだろう。ここでこちらも王の兵力を動かしたら、途方もない戦争になってしまう。


 そこで今回はセロ達が決着を付けると言い出した。しかしどうして。


 たった三人で何が出来るのかと王は訝っていたが、カラスが彼らに任せたら大丈夫だと言った。そして自分も行くと。


 カラスにそこまで言われたら王としても承諾するしかなかった。そこで王はカラスに討伐の全権を委ねた。


 こうしてゼロとシメとハンナとカラスの4人でマテップ公爵領に向かう事になったのだが、ゼロとハンナはそれぞれの配下と騎士団を呼び集めた。


 それはヘッケン国のダニエル率いる「自警団カリヤ」とダッシュネル率いる獣人国カールの「遊撃騎士団」だった。


 この双方の戦力は全員が一騎当千の強者だ。

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