第12話 カラスの呪い

 ゼロの今のやり方は専制的であり独裁的であり、暴君的なやり方だろう。


 ゼロ自身もこれが正しいやり方だとは思ってはいない。しかしこの腐り切った状況を打破するには必要な方法だと割り切ってやっていた。


 どうせ俺一人が悪者になればいいんだと。いや3人か。


 次にゼロが行った事は一般からも入学生を募った事だ。つまり貴族でなくても平民や獣人、亜人にもその門戸を開いた。


 しかし試験はそれなりに厳格な物だった。ちゃんと勉強し腕を磨いてないと入れない門である事は確かだ。


 ただし貴族でないからと言う理由で不合格にするような試験官は絶対に許さなかった。


 ゼロに睨まれたら蛇に睨まれた蛙以上に恐ろしい。試験官も襟を正すしかなかった。


 そしてこの時数人の平民と獣人が入学して来た。この学園始まって以来の事らしい。


 そしてゼロはまた貴族以外からも教官の採用をした。それは冒険者や騎士や魔導教会からだった。


 問題がなかった訳でもない。それは経済的な事だった。この学園は基本的に貴族からの援助が大きな割合を占めていた。だから貴族達が大きな顔をしていた訳だ。


 なのに貴族に反感をかったり、貴族の子息を退学させたりしたら当然のその援助はなくなる。


 特にゼロが教師になり剛腕を振るうようになってからはその援助も減って来ていた。


 副理事長のコシュバはこの先どうしようかと頭を痛めていた。しかしゼロはそれも承知していた。


 だからゼロは課外活動として生徒達に魔物の討伐をやらせた。今までは実力が伴わず、こんな事も出来なかったのだが、ゼロ達が指導するようになってからは生徒達の腕も上がり、そこそこの魔物なら討伐出来るようになって来た。


 これを学園の収穫物として冒険者ギルドに売り、収益として学園に入れる事にした。


 それと共にゼロは下級ポーションの制作にも手を付けた。医療ギルドと話をつけて魔法学園ブランドとして安価で効果のあるポーションを販売した。


 そして学園の一部を一般に開放してそこで学園グッズや魔物の骨や皮で加工した装飾品、または石鹸等の家庭品も販売した。


 これが評判を呼んで盛況だった。これらは学園の経営に役立った。そしてゼロ達が討伐して来る大物魔物は高価な値段で買い取ってくれた。


 それらを入れると学園の経営も軌道に乗って来た。まさか「死神」に経営の才能があったとは。


 そして二人の教師の評判も上々だった。初めはただ恐れられるだけだったが、シメは理解しやすい適切な指導をしてくれると言う事で騎士達には評判だった。


 それはそうだろう。この世界では皆感覚で物事を覚えようとする。それをゼロやシメは理で教える事が出来るのだから。


 ハンナに関しては、あの圧倒的な魔法力で畏怖と共に羨望の対象となっていた。


 教官達の態度も貴族偏重主義から少しずつ真の実力を評価する方向へと変わって来た。またそうせざるを得なかったと言うのも事実だが。


 こうして病んだ魔法学園が少しづつ健全な状態に戻りつつあった。


 そしてゼロはそろそろここは良いか、次はカラスだなとカラスが籠っていると言う所に向かう事にした。


 そこは王城の中心の地下にある魔界門の監視所だ。王城の正門ではゼロが王家の王君代理紋章を見せて何の問題もなく通り抜けた。


 魔界門までの道は4年前に行った事がある。迷う事はなかった。魔界門の前では今もカラス一門の魔導士達が交代で監視をしていた。


 そこに辿り着いてみると数人の魔導士達が魔界門を監視をしていた。そしてその中の一人がゼロを覚えていたらしい。


「カラス様の戦友のゼロ様であらせられますよね」

「あらせられると言う程の者ではないがゼロだ」

「お待ちしておりました。ゼロ様が来られたら是非お連れ申してくれと言いつかっております」


 カラスめ、大げさな奴だと思いながらゼロ達はその魔導士について行った。


 そこは詰所兼休憩所の様な所だった。その奥に更に部屋があると言う。そこはどうやらカラス専用の部屋らしい。


 ここから先はわたくし共では入って行けませんので宜しくお願いいたしますと言われてしまった。


 ゼロ達がその部屋に入ってみると、そこにはむせ返る様な瘴気が漂っていた。


「何だこれは」

「お師匠様、これは」

「ねぇ、これは一体何なの。気分悪いんですけど」


「やぁゼロ、来てくれたのか」

「おいおい、何やってんだお前、死ぬ気か」

「あたいだってまだ死ぬ気はないわよ。でもこうなっちゃったのよ」


「何がこうなっちゃっただ。何だこれは。これは何処かで嗅いだ匂いに似てるが」

「お師匠様、ここには魔呪(まじゅ)が充満しております」

「ああ、それも厄介な魔呪だな。お前の魔法で何とかならなかったのか」

「それがさーどんな魔法も効果がなかったのよ」


「この魔呪が始まってどの位になる」

「それそろ1年位かな」

「ハンナ、呪いの魔法ってそんなに持つものなのか」

「いいえ、この手の魔法は随時魔力を供給しなければならないはずです」

「しかしここは言ってみれば結界内だ。誰にそんな事が出来る」


「ねぇ、あんた。今度もまた面白い弟子達を連れてるわね。一人はあんたと同じ魔力なし、もう一人は、何なのこの子は、ゼロマの生まれ変わり?」

「ああ、ゼロマの妹分みたいなもんだ。俺の弟子でもあるがな」

「でもこの子って魔法使いよね。それも途方もない」

「へーわかるのか」

「舐めないでよ、伊達に600年も生きてないわよ」

「そうだったな。お前はバケモノだったな」

「あんたと一緒にしないで欲しいわね」


「何なんですかゼロさん。600年も生きてるなんて。御伽話の世界ですか」

「ここはそう言う世界なんだよ」


「ところでハンナ、これ何とか出来るか」

「呪詛その物なら何とか出来ますが、この供給されている魔力源を突き止めない事には」

「やはりそう言う事か。おい、カラス。もう少し待ってろ。何とかしてやる」

「あんた、本当に出来るの」

「まぁ、任せとけ」


 ゼロはこの呪詛は悪魔の使う魔法の一種だと思っていた。そしてあの部屋の瘴気は魔界の瘴気だ。


 ゼロが魔界にいた頃散々嗅いでいた瘴気と同じだった。


 しかしどうやってここまでその魔力を送っているかだ。恐らくはこの町自体にその根源があるんだろう。


 そうか、あの時ヘッケン国からこの国に運んだ魔素球は四つあった。一つはゼロが壊したがまだ三つ残っているはずだ。


 もしそれが供給源になっているなら、この町の何処かに設置されているはずだ。


 『先ずはクルブ屋からか』


 ゼロはクルブ屋に奇襲を掛けて主人を脅し搬送先を聞き出した。


 流石にゼロの持つ王家の王君代理紋章を突き付けられては逆らう事は出来なかった。


 それら全てはマテップ公爵家に運び込んだと言う事だったが、そこからでは王城までは距離があり過ぎる。


 恐らくはもっと近くで分散してるだろうと思い、ハンナを飛行魔法で飛ばしてその魔素を検知させた。


 こう言う事に関してはハンナの方が長けている。しかし流石のハンナでもこの検索には苦労していた。


 そうだろう。そんなに簡単に分かれば普段でもそれは検知出来たはずだ。


 それが分からないと言う事は非常に巧妙な方法で送っているに違いない。


 では魔力センサーの精度をもっと上げてみるかと、ゼロは半重力装置を使って浮かび上がりハンナの後ろについた。


「お師匠様、お師匠様も魔法使いなのですか。どうしてその様な飛行魔法を」

「これは飛行魔法ではないが、まぁ似たようなものだ」

「いつも思うのですが、本当にお師匠様は不思議な方ですね。本当にヒューマンなのですか」

「種族別ではヒューマンだろうな」

「そうですか。分かりました」


 何が分かったのか分からないが一応はそう言う事にして、ゼロはハンナの背中から気力を注ぎ込んだ。


 その力をハンナは魔核で魔力に変換して強大な魔力を薄く引き伸ばして再び検索した。


 そうすると三か所から微かな魔素が関知出来た。しかしそれはその場所を少し離れると突如として消えていた。


 そして王城にはその三か所からの魔素の力が集まっていた。


「何だこれは転送魔法か。しかしそんな物を常時発動する事は出来ないだろう。なら何だ」

「お師匠様、もしかするとこれは転送の魔道具ではないでしょうか」

「なる程、魔道具なら設置さえしておけば魔力を内蔵している限り半永久的にでも使えると言う事か。随分と手の込んだ事をしてくれる」


 魔素球の場所は伯爵家が一か所と男爵家が二か所だった。そのどれもがマテップ公爵家に繋がる者達だった。


「なる程、黒幕はマテップ公爵と言う事か。先ずはこの三つを叩き潰しておくか」


 ゼロはシメに連絡して、この三か所同時攻撃を指示した。


 三つの魔素球は破壊され、三家の戦力は壊滅状態になった。


 その上でゼロ達は再び王城の魔界門に戻った。


「お前の魔呪の魔力源は切った。後はその魔呪魔法の解呪だ」

「それは無理よ。あたいだってこんな魔法は知らないんだから」

「ハンナ、出来るか」

「はい、お師匠様」


 ハンナはこの魔法の解呪に掛かった。時間は掛かったが要約カラスの体から呪いが取り除かれた。


「ねぇ、どう言う事。何なのこの子は。どうしてこんな事が出来るのよ。それにこの魔法は・・・」

「いいじゃないか。治ったんだからよ」

「それはそうだけど。ともかくありがとうね」

「珍しいな、お前が礼を言うなんて」

「あたいだってね、礼くらい言うわよ」


「お師匠様、おかしいですね。これほどの魔法使いの方ならこんな呪詛に掛かるはずがないのですが」

「お前また手を抜いてたんじゃないのか」

「そんな事する訳がないでしょうが。でも待ってよ。そうよね、あたいがこんな魔法に掛かるなんて」


「おい、これってもしかしたら魔道具じゃないのか」

「魔道具ですか。それならわからない内に体に取り込まれていると言う事もありますね」

「魔道具ってなによ。あたいはそんな魔道具なんて持ってないわよ」

「お前のその手首に付けてるブレスレットは何だ」

「ああ、これ。これは王様に貰ったのよ。王様とお揃いだってね」

「ちょっと見せてくれ」


 ゼロが丹念に調べて、ブレスレットの内側に微量の魔紛石を見つけた。


「なる程、これか」

「これって何よ」

「魔紛石だ」

「魔紛石?何よそれ」

「お前は魔紛石を知らんのか」

「知らないわよ、そんな物」


『そうか、これは悪魔しか知らないんだったな』

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