第7話

 ギルバートに手を引かれて獣道を抜けると、森の外へ出る事が出来たエリス。


 そのままギルバートが歩みを進めていくと、一頭の馬が大きな木の下で涼んでいた。


「リュダ、待たせたな」


 どうやらギルバートの馬らしく、『リュダ』と呼びかけながら頭を撫でると、彼に擦り寄ってくる。


「……あの、ここは……」

「ここはサラビア国の外れにあるルビアン街道だ。ここから俺の住む場所まではだいぶ距離があるからな、このリュダで移動する」


 ギルバートを言いながらリュダの頭を撫でるとリュダは立ち上がり、


「ほら、リュダは大人しいから怖がらずに乗ってみろ」


 エリスにリュダの上に乗るよう促した。


「え!? 私が、馬に?」

「姫様には難しいかもしれないが、慣れれば簡単だ。ほら、怖がらずに乗ってみろ。支えてやるから大丈夫だ」

「……で、でも……」


 当然馬に乗った事など無いエリスは戸惑いの色を浮かべるも、


「……分かり、ました」


 ギルバートを信じて言われた通り、まずは側にある切り株を踏み台代わりにして左足を上げてあぶみに掛け、右手を鞍壺くらつぼの向こう側に持ってくる。


 それから右足で踏みきりギルバートに支えられながら両手で体を引っ張り上げて左足で鐙に立ち、右足を大きく上げてリュダを跨いだ。


 彼の言葉通りリュダは大人しく、エリスが背に乗っても微動だにしない。


「上手いな。どうだ? 馬に乗った景色は」

「……ちょっと、怖いです……」

「まあ、直に慣れるさ」


 それからエリスの後ろにギルバートが軽々と跨ると手網を握り、


「それじゃあ、しっかり掴まってろよ」


 両足のかかとでリュダのお腹を軽く蹴ると、それを合図にリュダが動き出した。


「きゃあっ」


 動き出した事にびっくりしたエリスは小さく悲鳴を上げる。


「平気だ。振り落とされたりしないから、怖がらずに前を向いてみろ」


 優しげに微笑みながらエリスを安心させるギルバート。


「は、はい……」


 初めは怖がって俯いていたエリスも、リュダが走り出してから暫くすると慣れてきたのか顔を上げられるようになっていた。それというのも、ギルバートが後ろで身体を支えてくれているからだとエリスは思う。


「どうだ? 慣れてくると大した事は無いだろ?」

「そうですね……あの、ギルバート……さん」

「何だ?」

「ギルバートさんは、何故あの森に?」

「ああ、仕事の帰りに少し寄り道をしていたら、野犬が数匹何かを探しているのか、興奮した状態で歩いているのを見掛けて気になってな。少し調べていたらお前が倒れていた」

「そう、だったんですね」

「あの森は最近色々と物騒なんだ。特にお前が倒れていたあの小道は、迷い込むと厄介だ。あそこで力尽きていたのはある意味運が良かったんだ」


 ギルバートの話を聞いたエリスは、彼に見つけて貰えて本当に良かったと心の中で安堵した。

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