第1話 始まりの物語〈他の人目線〉つまりMOB視点

「ふざけるのはいい加減してくれ!」


 俺は叫んだが、反応は無い。くそ、マジで性格の悪い奴らだ。

 俺はぶつくさと文句を言いながらも……待てよ?逆にチャンスじゃね?と思った。


 ここで女性達にアピールすればクラス一の美人、真子ちゃんと付き合えるかも!

 ……ふふふふふ。


 俺は急に未来がより開けた気がして立ち上がる。

 そうと決まれば、まずはモンスターなんてあっと言う間に倒してやらないとな!


 俺は浮かれながら少し歩く。

 するとそこにモンスターが現れる。


 ──────「は?」


 俺は勝手にこうイメージしていた。いわゆる通過試験的なもので大したモンスターは出なくて、だけど最後に超強い敵が現れてそれをチート能力で倒して俺最強〜ってやるという。


 そんな妄想は見事に打ち砕かれる。


「「「「GGGGAAAa!」」」」


 高さ3mほどの大柄なモンスターが立っていた。

 そいつは身の丈ほどの大柄な大剣をゆっくりとこちらに向ける。そして──、


「ぇ?……なんで俺、倒れて……」


 体を貫くような衝撃が走り、俺は強制的に体が倒れる。

 起き上がろうとしても、体が動かない。

 かろうじてなんとか起き上がると。


 ──────「ひ、ゃあああああ!……あ、足、俺、俺の足足足……足……」


 膝からしたが無くなっていた。そこから真っ赤な体液がボタボタと垂れて、血溜まりを作り……その足を貪り食う大柄なモンスターと目が合ってしまった。


 あ────、


 最後に見えたのは、手にした剣を振り下ろす悪魔の姿だけ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺は先程の場所で目を覚ます。

 胸の鼓動が収まらない、何かが胃の中を伝ってせりあがってくる。


「ゲボ、……ごぼぼぼ……ごぼぼぼ…………はぁはぁ……はぁ……げほ……」


 俺は自分の足を無意識に触れる。良かったまだ着いている。


 見ると周りでも阿鼻叫喚の様相が広がっていた。男女問わず皆吐いたり泣いたりしている。

 俺も先程の光景を思い出し、体の震えが止まらなくなる

 ──────あんなのを倒せ?と。


 剣を抜くなんて考えにすら至らなかったぞ?


「おい!お前あんなの勝てるわけが無いだろ!」


 俺がそうやって言った途端、その男を含むいつの間にか集まっていた騎士と冒険者のような見た目のヤツらがにやりと笑うのを見て、俺は確信する。


 ──────「こいつら、はなから俺たちを外に出すつもりなんて無いんだ!」と。


『おやおや?皆さんチート能力は貰ったはずでは?

 その有様を見るに……

 やはり異世界人は心が弱いのですかな?』


 ふざけんな!と俺は怒鳴ろうとしたが、既に疲れ果ててしまっていた。


『ちなみにこのダンジョンには基本的に『ゴブリン』『スライム』『ワーウルフ』しかいませんよ?』


 そう言いながら男は内心でこうつぶやく。〈まぁ実際は上位個体ですけどね〉


『さて?まだまだ時間はたっぷりあります……早くしないと一生奴隷、かも知れませんよ?』


 俺は自分の腹を殴り、吐き気を抑えながら立ち上がる。


 ちくしょう、諦めてたまるか……せっかくの異世界なんだぞ!


 そんな俺を見て、再びみんなが立ち上がる。


『いい意気込みですね…………ではまた』


 そう言うと再び飛ばされる。


 俺は息を吸い込み、魂の限り叫ぶ。

「──────やってやるよこの野郎!」



 ◇◇◇◇◇



 ところ変わって出口。傭兵と騎士が会話していた。


「また悪趣味なことを好むねぇ……この国の王様だと言うのに……」

「まぁ異世界人なんて信用ならないし、試すってのは賛成だぜ?……しっかし可哀想だよなあ……なんせ……」

「ここにいるのはの奴しか勝てないようなモンスターばっかだからな……俺3年ぐらい見てるけど今まで出てきたヤツ殆ど見たことねえもん……」

「しかもこの後に三体ボスモンスター倒さなきゃ出られないんでしょ?……マジで無理ゲーでしょ……まぁ異世界人は利用価値が高いから1度心を折るのが重要だもんな」

「心を折って勝てないと植え付けてから勝てるように先導していく……まぁ立派な洗脳行為だよな……」


 そんなことを話しながら座っていると、洞窟の方から何かが回転する音が聞こえてくる。


「「?!誰だ!」」


 2人は慌てて臨戦態勢を摂るが、そいつには1ミリも敵意を感じなかった。


 ──────「あの……出口ってここですか?」


 そいつはボロボロの服にモンスターの体液を纏わせ、ゆっくりと歩いてきた。


 その服装から間違いなく先程の異世界人の中の独りだと理解した2人は。


「あんた、まさか……クリアしたのか?!嘘だろ、この洞窟を!!」


 そう尋ねた。すると女はまるで気にすることなく。

「?勿論ですけど……ゴリ押しすれば普通に行けたんで……」


 そんな事を平然と述べた。2人は信じられないという顔をする。もし自分達でもクリアできるかは怪しいレベルのものを、こんな女性が、しかも異世界人がという事実に困惑する。


「あんたすげえけど……その……まだこの先にボスが居るんだ……だからそいつを倒して初めてゴール何だよ……」


 そう申し訳なく言うと、女は──、


「はぇーまだ居るんだ。ま、いっか……さっさと潰すとしようかな〜」


 そう言いながら門の方に歩いていった。


「!そうだあんた名前は!……それだけ教えてくれ」


 思わず名前すら聞き忘れるところだったが、すんでのところで思い出し尋ねる。


「?文名 律可ですが……何かついてますか?不思議な顔……まるで狐につままれ……この世界って狐いるのかな?……」


 ◇◇◇◇◇◇


 門を開けて中に入っていく姿を2人は見届ける


「なぁ、でも確かあのボスって普通にやべえやつばかりじゃ無かった?」

「そうなんだよ……だから流石に……」









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