漆黒の彼女
@antedeluvian
漆黒の彼女
6月7日から9日まで開催された乃木坂46の35枚目のアンダーライブについて、筒井あやめさんを中心に見ていきたいと思う。
再三再四、アナウンスされてきたとおり、今回のアンダーライブは乃木坂46の歴史上初めて4期生以下の期生のみによるライブとなった。
ここで活きてくるのが、2021年から4期生、2022年から5期生が取り組んできた「乃木坂スター誕生」シリーズの存在だろう。
毎回、メンバーたちには何かしらの課題が与えられる。
表現に向き合うための時間の中で、彼女たちは模索し、自分なりの答えを見出してきた。
様々なアーティストと表現を共にすることで、既存の乃木坂46の枠組みを超えた表現の在り方に触れてきた。
そのパフォーマンスの豊かさとこれまで乃木坂46が積み重ねてきた乃木坂46としての在り方が混然一体となった時、それらがステージの上で「乃木坂46の未来」として結実したのだろう。
4・5期生曲からのスタートというセットリストからも、未来の提示をイメージしたものであることが窺える。
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余談だが、今回のアンダーライブに初日のみの参加となった奥田いろはさんが歴代の舞台・ライブの同時並行経験者などと同様に「乃木坂46の現場で舞台のことを出さないようにする」みたいなジレンマを抱えているのではという心配がある。
乃木坂46のライブと舞台とでは歌い方や表現方法は異なる。
その狭間で大変な思いをしているのではないだろうか。
それでも彼女ならば、これから先も訪れるであろう二つの異なる世界の間で最適なパフォーマンスを導き出せるだろう。
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アンダーライブには、緩く導入されているライブごとのキャプテンという制度。
今回はそのポジションに松尾美佑さんが入ることとなった。
彼女自身が憧れとしている梅澤美波さんのポジションをなぞるようなもので、そこに対する彼女の思いも複雑なものがあったと感じる。
そして、座長である筒井あやめさんと共に、清宮レイさんと関係性の強いメンバーでもある。
筒井あやさんはメンバーからも言われているが、ライブでは顔に汗をかかないサラサラ人間である。
いつも穏やかで安定していて、涼やかである。
だが、彼女を知るメンバーたちは言うのである。
筒井あやめは熱い人間だ、と。
黒という色は光を反射しない。だから、最も穏やかで安定しているように見える。
しかしながら、光を吸収してしまうような漆黒の物体は代わりに熱を放射する。
筒井あやめさんという人は、そうした漆黒の物体のように周囲の光を吸収しているような存在なのではないか。
今回のライブで彼女を支える立場となっていた松尾美佑さんはとても真っ直ぐな人だ。
今回が最後のメインのライブ活動となった清宮レイさんはまさに太陽のような人だ。
そんな2人の、そして、他の13人のメンバーたちの輝きを筒井あやめさんは静かに、しかし、着実に吸収していた。
物質は温度が上がるとどんどん不安定になっていく。
筒井あやめさんの場合、座長という立場を与えられたことで、自分の胸の中にある思いを言語化する機会が半ば強制的に与えられることとなった。
それが熱を帯びた彼女をさらに不安定にさせた。
それはこれまでにない彼女の変化だった。
物体は温度が上昇していくと、光を放つようになる。さらに温度が上がっていけば、プラズマを発するだろう。
それが筒井あやめというアイドルの真価なのだと思わされた。
漆黒の物体のように穏やかで安定していた彼女は、これまでも熱を発して光り輝いていた。
しかし、あのステージの上では違っていた。
プラズマのように不安定そうに声を震わせ、涙を流しながら、「乃木坂に革命を起こせるような人なりたい」と口にした。輝きはいつにも増して明るかった。
あれが誰も買期待していた彼女の真の姿だったのだと思う。
名前を与えるということは、力を与えるということ。
齋藤飛鳥さんは、そうやって種を蒔いていたのかもしれない。
自分がそばにいなくても、乃木坂46の未来を作ることができると体現した。
あれは一瞬のプラズマの閃光だった。
だが、その光の中に確かに未来はあったのだ。
「レイちゃんこそアイドルに向いている人だ」と彼女は言った。
清宮レイという存在こそが彼女にとってのアイドルだった。
彼女の光は筒井あやめさんの中に吸収され、息づき、再び広い世界へと解き放たれようとしている。
もう筒井あやめは輝き方を知っているのだから。
written by antedeluvian
漆黒の彼女 @antedeluvian
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