第8話 Silver Case 2
部屋の中央には低い木製の長テーブルがあって、その長辺の両脇には焦げ茶色をした革のソファが置かれている。部屋の隅には食器棚が設置され、その傍には
僕はソファに座って、静かに洗礼の担当者を待つ。緊張を和らげようと深呼吸を繰り返していると、やがて一人の男が紙一枚とボールペンを持って部屋に入ってきた。
「お待たせしてすみません」
野太い声に、僕は一瞬だけぎょっとしてしまう。その男はスキンヘッドに黒いサングラスを掛けた、
彼は持ち物を一旦机に置き、食器棚からガラスのコップ、空いた箱から水のペットボトルを取り出して、僕の向かいに腰を下ろした。
「同意書にサインを一筆、お願い致します」
そう言って、彼はさっきの紙とボールペンをこちらに提示してくる。僕は同意書にざっと目を通した。要するに、『僕は自らの自由意思に従い、道徳的能力増強治療薬を服用します』という意思表明を求めているらしい。僕は指に決意を込めて、自分の名前を紙に書き記す。
担当者は書き終わった同意書を確認し、スーツの上着ポケットから銀色の四角いケースを取り出した。彼がそれを僕の目の前で開いて見せると、そこには透き通る青色をしたカプセル剤が、台座のくぼみに納まるようにして据えられていた。
「これが道徳的能力増強治療薬、『神の落涙』です。慈悲深き主が浮世に
僕は少し考え直す時間をとってから、「はい」と肯定の意を示した。冷たく硬質な感触のするコップを手に取り、僕は開封したペットポトルから水を注ぎこむ。そして、一粒の青いカプセル剤を指で摘まみ、口に放り込んで水と一緒に飲み干した。
僕は洗礼担当に口を開けさせられると、
「——確かに」
問題はなかったようで、僕はそっと口を閉じる。
「これで洗礼は終わりです。それでは明日からの研修をよろしくお願い致します」
そうして、僕は洗礼室から送り出された。
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