第7話 足舐め
♡ ♡ ♡
森を歩くあいだ、ゼイツ
「私とちがって、お姉様はみんな美人なんです。一人だけ、おしゃれや結婚に興味のない破天荒なお姉様がいて、変わったことを教えてくれるんです。森や、動物のこと……」
おじい様がひゃっくり百回してウシナウ草が全滅しちゃった話したら笑ってて、そのほかにも他愛のないことで笑ってくれた。私は思いつくままにおしゃべりしてしまったけど、黄色いしっぽのきつねの話だけはしなかった。一年前に死んじゃった私の大切なペットで、思い出すだけで涙がでちゃうから、心の奥にしまってふたをしてあるのです。
「あ」
また、ウシナウ草のような繁みを見つけてしゃがみこんだけれどちがった。見つけてはちがう、の繰り返しで元気がなくなってくる。ほんとに見つかるかな……。
「俺どこで見たんだ?」
とゼイツ准将が口に手を当てて考えてる。
「思い出しておくから、そろそろ戻るか」
「はい。付き合わせてすみませんでした」
ふいに脇腹の辺りを持って体をひょいと持ちあげられた。きゃっ、くすぐったいのもあって息がとまった。ゼイツ准将は私を岩の上へ座らせ、それはちょうど、彼から少し見あげられるような高さになった。
「な、なんですか?」
「休憩」
たしかにヒール靴が痛くなってきてたから、座れて楽だけど……でもお尻が乗るところが狭くて、バランスをまちがえたら転げ落ちてしまいそう。そのうえ、ゼイツ准将が右足のヒール靴を脱がし、私にひざをあげさせる。えっ、ぱんつ見えちゃう。私は慌ててワンピースの裾で隠そうとしたんだけど、バランス崩しそうになってうしろに手をついた。
「あっ、ゼイツ様、なにするの?」
「そういえば今日の分、まだシてないよなあ」
……!?
「し、しましたっ。しましたさっき!」
「そうだっけ? 覚えてねえな」
ゼイツ准将はそう言うなり、私の足にかぶりついた。
「!!」
驚いて足をひっこめようとしても、がっちり握られている。ちょっとまって、なんで、そんなトウモロコシをかっ喰らうみたいにたべないでっ。痛くしないでくれてるのはわかるんだけど、歯がくすぐったくて私は悶絶した。
「あんっ♡ うぎっ ひあんっ♡ ううっ」
変な声でちゃう、変な声でちゃう、誰かが見てたらどうするの? 私は必死で、声がでちゃうのをがまんした。
ああ、ってゼイツ准将が低い声をもらし、あったかい舌が指の股を行き来する。恥ずかしすぎる。逃げたいのに、足、全然はなしてもらえない。もうスカートの裾なんて気にしていられなかった。背中があっつくなってきた。頭のなかも白くなってきた。私は自分の体を支えるひじをがくがくさせながら、頼んだ。
「やめて、やめて、ほんとにやだ!」
「はっ」
ゼイツ准将が我に返った。
私ははあはあしながらワンピースの裾だけは戻したけど、体はふらふら。岩からおちそうで、准将が気づいておろしてくれた。右足だけはだしで草をふむ。靴はどこ……、なんであんな遠くにすっとんでるの。
ゼイツ准将は私の様子を確認して、目が覚めたみたいな顔で短髪をかきあげる。
「何やってんだ俺。……あぶねえ」
あぶねえ? あなたの中ではこれはセーフなのですか?
「悪い。ちと気が緩んだ」
みあげると、ゼイツ准将は目を細めて私ににっこり笑いかけた。
「お、羽小さくなってるな。やっぱりそういうことか」
「………………実験したんですか!?」
♡ ♡ ♡
塔へ帰ってくると、小道に茶色い箱馬車が停まっていた。
「ありゃあ后じゃねえなあ。さっき言ってたテイラーが来たんじゃないか?」
ゼイツ准将が言う。馬車の運転手である御者と、女の人が向かい合って、妙に密着している。何やってるんだろう、あの人たち。……え゛っ。
どうやらキスしている。それだけでもショッキングだったのに、なぜか二人が急に言い争いだした。
「興味ないわやっぱり!」
「な、なんだよ。おれのこと誘ってたじゃねえか! 最後までやらせろよ!」
なにあれ? キスしてたのに喧嘩がはじまった。さらに、ひええっ。もみ合って、男性が女性を押し倒しちゃった!
「ったくしょうがねえなあ。フェルリナ、ローブ着て離れてろ」
そう言われたので、私は足をとめてローブに袖を通した。
ゼイツ准将がずかずか近づいていき、男性の首根っこをつかんで立たせた。
「何やってんだ?」
「あああっ、離せ!」
御者がもがいてる。女の人もすぐ立ち上がったし、大丈夫そうだった。
「違うんだよ! あの女が馬車からおりたら誘ってきたんだよ!」
「そうなのか?」
「そうなんですけどぉ、でもキスしたらきもいなってなっちゃって」
なんと赤裸々な。……でもちょっと待って。それって、精力剤……(私)のせいですか?
「ほら! キスしたんだよおれたち!」
「もういいから帰れ」
……普通の人だとあんな風になっちゃうんだ。エリアス様がゼイツ准将のこと「強靭な精神力」って言ってたの、このことなんだ。
ちょっと私、ゼイツ准将に感謝しなきゃいけないなって思ったできごとだった。
足、かじられたけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます