ラスト・メダル
アサギリナオト
英雄の選択
かつて【バロール帝国】の帝都には巨大な地下迷宮が存在した。
その迷宮に後世の人々が手を加え、新たに誕生したのがバロール大監獄である。
この大監獄には戦闘中に捕らえた捕虜を幽閉する特別室が設けられており、現在は美しい容貌を持つ一人の男が幽閉されていた。
男は特別室とは名ばかりの狭い牢屋の中で地面に横たわり、今はすやすやと眠っている。
しばらく水浴びをしていないせいか、元は美しかったブロンドの髪はボサボサになり、着ている囚人服からも悪臭が漂っていた。
彼の周囲にはネズミが這い回り、彼の生死を確かめるかのよう匂いを嗅ぎ回っている。
そんな彼にも『アベル・ストラトス』という名前が存在し、辺境の雪国で生まれ育った彼はつい先日まで戦場の最前線にいた。
しかし、バロール帝国との戦いに敗れ、現在は囚われの身である。
かつては救国の英雄とまで呼ばれた彼も、剣を失ってはその名も形無しだった。
座して死を待つ彼は今、どんな夢を見ているのだろう?
好きな女性と生涯を共にしたい――――。
子ども頃に抱いた幼き夢はバロールの侵攻と共に打ち砕かれてしまった。
戦いに敗れた彼の手元には、もはや何も残っていない。
せめて夢の中だけは幸せを感じてほしいものだ。
――――――――――――
そんなある日のこと。
???
「久しぶりだな、アベル」
アベルの前に高貴な軍服に身を包んだ背の高い女性が現れた。
女性の容姿は恐ろしいほど美しく整っており、軍服の隙間から覗かせる素肌は雪のように白い。
腰のラインで切り揃えられた髪は銀世界のごとく煌き、透き通るようなアクアマリンの瞳がその美しさをより際立たせていた。
アベルが寝ぼけ眼で鉄格子の向こう側に立つ美女を目の当たりにする。
すると彼は驚愕の表情を浮かべた。
アベル
「エミリア」
『エミリア・スティアード』。
かつてアベルと同じ街で暮らしていた侯爵家の令嬢である。
伯爵家のアベルとは幼なじみであり、二人は幼少の頃から姉弟のように仲が良かった。
しかし、バロールの侵攻が始まって間もない頃――――
彼女たちスティアード家は、親子共々バロールに連れ去られてしまった。
アベルは囚われの身となった彼女を取り戻すため、軍に志願したと言っても過言ではない。
エミリア
「数で勝る我が軍を幾度も退けたレクセルの守り神……。その正体が貴様だと聞いたときは、さすがに驚いたぞ」
長い間、彼女の安否は不明だった。
しかし、彼女は元気な姿で再びアベルの前に現れた。
本来ならば、泣いて喜ぶべき事柄だろう。
だが、今となってはそうはいかない。
何せ、先日の戦いでアベル率いるレクセル軍を打ち破ったのは、祖国を見限ったスティアード家が一子――――〝エミリア・スティアード中将〟率いるバロールの大部隊だったのだ。
アベル
「それはお互い様だろう。先に捕虜として捕らえられたはずの君が、今じゃバロール随一の軍略家だ。裏切ったフリをして生き延びるだけならまだしも、本当にバロールに寝返るなんて一体何を考えているんだ?」
エミリア
「バロールは軍事国家だ。地位も名誉も失った我が『スティアード家』が、かつての栄誉を取り戻すにはバロールの軍人として功績を上げる以外、道はなかった。……それだけことだ」
アベルはエミリアという女性をよく知っている。
彼女たちスティアード家は貴族として非常にプライドの高い人種だが、手段は弁えている。
時は人を変えると言えばそれまでだが、彼女の目はまだ腐っていない。
表向きの理由はそうだとしても、何か他に理由があるはずだ。
アベル
「エミリア。君は本当に――――」
エミリア
「黙れ。同じことを二度言わせるな」
エミリアがアベルを鋭く睨みつける。
しかし、そこに悪意や憎しみの感情は込められていない。
彼女の瞳には何か大きな意志が感じられ、出世以外の目的のために動いていることが窺えた。
エミリア
「貴様の処刑は二週間後だ。今日はそれだけを伝えに来た。悪く思うなよ――――〝ストラトス将軍〟」
エミリアは最後に皮肉を言い残し、その場から去って行った。
アベル
「待て、エミリア! 話はまだ――――!」
アベルが鉄格子に掴みかかる。
しかし、彼女は足を止めるどころか彼の声を気にも留めない。
実の姉のように慕っていた彼女は本当にいなくなってしまったのか。
一度は捨て去った夢だが、アベルは今でもエミリアのことを愛していた。
しかし、彼女がバロールの軍勢を率いて祖国に攻め入ったのも、また事実。
多くのレクセル兵を殺し、多くの民間人に被害を与えた。
彼女が生きていてくれたことは素直に嬉しい。
されど、このような再会を待ち望んでいたわけではなかった。
アベルは一度ならず二度までも夢を打ち砕かれる絶望を味わった。
――――――――――――
二日後。
エミリアが再びアベルの前に姿を現した。
彼女の両隣には配下の騎士が一人ずつ控えている。
配下の騎士は銀色のプレートアーマーを装着し、左腰にグレートソードを携えていた。
エミリア
「アベル。話がある」
地面に寝転がっていたアベルが上体を起こし、エミリアの方に振り向いた。
今回の彼女は先日よりも真剣な表情でアベルと向き合っている。
アベル
「……話?」
処刑の日には、まだ早い。
外の世界で何か大きな変化があったのか。
しかし、今のバロール軍に対抗する戦力などレクセルには残されていない。
第三国がバロールに被害をもたらしたとしても、それはアベルの処刑を早める理由にはならないはずだ。
エミリア
「単刀直入に言わせてもらう。――――アベル。バロールの軍門に下れ」
アベル
「なっ――⁉」
アベルはエミリアの言葉に両目を見開いた。
エミリア
「先ほど上層部と話をつけてきた。レクセルの内部情報を全て開示し、我が軍の戦力として忠誠を誓うならば、貴様の処刑は回避されることが決定した」
アベル
「…………」
エミリア
「レクセルの軍事系統の施設は既に崩壊している。我が軍の侵攻を阻止できる可能性は限りなくゼロだ」
先の戦でレクセルは壊滅的な打撃を受けた。
それは現場にいたアベルが一番よく知っている。
しかし、だからこそアベルは彼女の言葉が腑に落ちなかった。
彼はそのことについて考えを巡らせ、彼女の言葉の裏を一つずつ読み解いていった。
エミリア
「終戦後、レクセルは私の管轄下に置かれる。貴様の返答次第では私の指示という名目の下、祖国を立て直すことも可能だ」
アベル
「…………」
エミリア
「アベル。私はお前を殺したくない……」
エミリアはポーカーフェイスを崩さず、アベルからは見えない角度で拳を握り締めた。
一見、彼女の様子に大きな変化はない。
しかし、幼なじみのアベルには、その僅かな挙動だけで彼女の意図を理解するには十分だった。
アベル
「そういうことか……」
アベルは全てを察したような顔つきで背中を壁に預けた。
アベル
「なぜ君がバロールに寝返ったのか、ようやくわかったよ……」
エミリアを救い出すためにバロールと戦ってきたアベルは、奴らの〝やり方〟を熟知している。
彼女の先の言葉は、アベルがバロールに対して忠誠を誓うか否か――――それを試すためのテストだったのだ。
アベルが力のない声で彼女の〝嘘〟を指摘した。
アベル
「レクセルは――――もう滅んだんだね」
エミリア
「…………」
アベル
「この戦いは初めから俺たちに勝ち目なんてなかった……。潰そうと思えばいつでも潰せる相手だったんだ。それでも奴らが戦いを長引かせたのは、実戦の中で使える人材を探し出すためだったんだろ?」
バロールは軍事国家である。
戦力が増強されるに越したことはない。
そして上層部が最初に欲した戦力こそ、彼女たちスティアード家の人間だったのだ。
エミリアはレクセルとバロールの戦力差を知り、いずれ蹂躙される運命にあるレクセルの民の命と引き換えにアベルを滅びの運命から救い出さんと決心した。
彼女は自ら進んで前線に立ち、功績を上げて上層部の信頼を勝ち取った。
やがて部隊を指揮を任されるようになったエミリアは上層部が欲する新戦力としてアベルの名を挙げたのだ。
アベルは元より剣才に優れ、今やレクセルの中でも指折りの戦士である。
エミリアの思惑通りに事は進み、アベルを戦場で捕らえるよう命令が下された。
そして先日の戦いで彼は生け捕りにされ、物語の冒頭につながる。
あとはアベルの説得だけだが、彼女には一つ問題が残っていた。
アベル
「故郷を滅ぼした国に仕えるなんて、まっぴらごめんだ。もう生きている意味もない。俺は大人しく自分の運命を受け入れることにするよ」
そう。
これがエミリアにとって最大の難関だった。
アベルは頭の回転が異常に早く、故郷やエミリアのために命を張れる勇敢な男だ。
常に戦場の最前線で剣を振るい、多くのバロール兵を血祭りにあげた。
アベルは命欲しさに敵国に尻尾を振るような男ではない。
彼の返答を聞いたエミリアは怒りに震え、ぎりぎりと歯を軋ませた。
アベルの言う通り、レクセルは既に蹂躙され、かつての美しい街並みは見る影もなくなっている。
全てを見破られてしまった彼女だが、それでもアベルの説得を諦めない。
エミリア
「理由なら私がいくらでも作ってやる……」
エミリアが鉄格子に勢いよく掴みかかり、彼に向かって声を張り上げた。
エミリア
「――――生きろ、アベル‼ お前はこんなところで死ぬ男ではない‼」
エミリアの悲痛な叫びが、地下牢獄に木霊する。
彼女もまた、幼なじみのアベルを子どもの頃から愛していた。
彼女はバロールの侵攻によってアベルと引き裂かれたその日から、彼と再会するために必死に生き延びてきたのだ。
アベルを助けるには彼の口からレクセルの内部情報を聞き出す必要がある。
それがなければ彼を救い出すことが出来ない。
しかし、彼女の必死の訴えですら、アベルの心をよみがえらせることは出来なかった。
アベル
「ありがとう、エミリア。――――でも、もういいんだ。最後に君の本心が知れて良かった」
アベルは既に自分の人生に見切りをつけてしまっている。
このまま説得を続けても、彼の心には決して届かない。
エミリアは鉄格子から両手を下ろし、暗い表情を浮かべた。
騎士
「いかがなさいますか?」
エミリアの右隣りに立っていた配下の騎士が彼女にそうたずねた。
エミリア
「ここまでは想定の範囲内だ。手荒な真似はしたくなかったが、致し方ない。――――次のプランに移行するぞ」
騎士A・騎士B
「「はっ!」」
配下の騎士が同時に動き出し、壁に向かって両手を高く上げるようアベルに指示を出した。
彼は気だるそうな表情でその指示に従う。
騎士の一人が牢屋の鍵を開け、もう一人が中に入ってアベルの両腕を背中の後ろで縛り上げた。
さらに頭の上から布を被せ、彼に目隠しをする。
アベル
「拷問でもする気かい、エミリア?」
エミリア
「それ以外に何がある? 私とて、かつての友を傷物になどしたくはなかった」
エミリアはどんな手段を使ってもアベルから内部情報を引き出すつもりだ。
例え、一生の恨みを買うことになろうとも構わない。
アベルを救い出すためなら、悪魔にでも魂を売る覚悟だ。
彼女の手は既にレクセルの民の血で染まり切っている。
今更、引き返すことは出来ない。
配下の騎士がアベルを牢屋の外に出し、彼の背中を手のひらで押した。
騎士A
「さあ、歩け」
アベルは言われるままに歩き出し、そのまま拷問室へと連れて行かれた。
――――――――――――
拷問室に到着し、両腕を天井から吊るされたアベルは目隠しを外された。
拷問室は牢屋より一回り大きく、民宿の一人部屋とほぼ同じ大きさだった。
部屋の中央に金属製のベッドが設置され、その脇に置かれた台車の上に様々な拷問器具が並べられている。
配下の騎士は用意したバケツの水をアベルの頭上から流し、彼は頭の上から足先までびしょ濡れになった。
アベル
「……あまり冷たくないね? これって本当に拷問?」
配下の騎士はアベルの体に石鹸を塗りたくり、彼の全身を丁寧に洗い始めた。
汚れた体より綺麗な体の方が痛みに敏感になるのは確かだ。
アベルは体の隅々まで洗浄され、頭がスッキリした。
アベル
「ご丁寧に、どうも」
全てがどうでもよくなった彼は完全に開き直っている。
これから始まる死より辛い拷問の日々に全く臆していない。
配下の騎士は大きな布でアベルの全身を拭き取り、一言も発さず拷問室から出て行った。
アベル
「おいおい、放置プレイかよ?」
別室ではあるが、拷問室は牢屋と同じ地下牢獄に存在している。
日の当たらない場所で全裸に晒されれば、かなり寒い。
これも拷問と言えば拷問だが、少しズレている気がする。
やがてエミリアが配下の騎士の一人を連れて拷問室にやって来た。
配下の騎士は吊るされていたアベルを解放し、今度は冷たいベッドの上に彼を寝かせた。
アベルの両手足が手錠に繋がれ、全ての準備が整う。
エミリア
「あとは私がやる。貴様は部屋の外で待機していろ」
騎士A
「はっ」
配下の騎士がエミリアに敬礼し、拷問室から出て行った。
部屋には彼女とアベルの二人だけが残される。
アベルがすんすんと鼻を動かし、煽り口調で彼女に言った。
アベル
「何かいい匂いがするね? もしかして風呂にでも入った?」
エミリア
「…………」
エミリアは質問には答えず、アベルの枕元にまで移動した。
彼女が髪を掻き上げ、アベルの顔に自分の顔を近付ける。
彼女の美しい顔が間近に迫り、アベルは目を細めた。
彼女の体から先ほどと同じ芳香が漂い、彼の鼻を良い意味で刺激する。
すると、次の瞬間――――
アベル
「っ――⁉」
エミリアが自分の唇をアベルのそれと重ね合わせた。
彼女の口付けはとても暖かく、優しさと愛情に溢れている。
冥途の土産にしては、あまりに高級すぎる代物だ。
やがてエミリアが唇を放し、アベルが彼女を鋭く睨みつけた。
アベル
「……何の真似だ?」
エミリア
「貴様の心は既に死している。今の貴様に痛みを与えても意味がない。元より貴様は痛みに屈する男ではないだろう?」
そう言ってエミリアは上体を起こし、今度は彼の目の前で軍服を脱ぎ始めた。
エミリア
「故に私は、まず貴様の心を呼び覚ます」
エミリアは半裸状態になり、アベルの両手にくくり付けられた手錠を外した。
足の拘束はそのままにされているため、完全に自由が利く身ではない。
アベル
「いいのかよ、こんなことして?」
エミリア
「逃げたければ逃げるがいい。さすれば私は貴様を逃がした罰として上層部の好色家どもに嬲り者にされた挙げ句、民衆の前で首を刎ねられるだろうよ」
アベル
「……なるほど。確かにそれじゃあ逃げるに逃げられない」
今更その気はなかったが、刺された釘の効果は絶大だった。
エミリアはアベルの体に馬乗りになり、再び彼に顔を近付ける。
エミリア
「貴様の処刑まで、あと十二日。その間に私は貴様の心をものにする。全ての情報を明かさぬ限り、貴様が果てることは叶わぬぞ」
アベル
「……色仕掛けか。確かにこれはどんな拷問より地獄だ」
性欲は人間が持つ三大欲求の一つである。
精力と体力は直結し、優れた英雄であるほど色を好む。
アベルはこれから天国と地獄の狭間をさまよう生殺しの日々を送ることになるのだ。
アベル
「でも、何で俺の腕を自由にした?」
エミリア
「貴様により深い苦しみを与えるためだ。貴様が私の体に触れるのは勝手だが、自分の懐に手を伸ばすことは決して許さん」
アベル
「勝手って……。お前、正気かよ……?」
こんなの拷問でも何でもない。
ただの我慢比べだ。
状況的にエミリアの方が優位に立っているというだけで、アベルが彼女をその気にさせることも不可能でない。
逆にエミリアが落とされてしまっては本末転倒だ。
エミリア
「アベル。これからは私のためだけに生き続けろ」
そう言ってエミリアはアベルの鼻腔を指で塞ぎ、再び彼と口付けを交わした。
――――――――――――
二週間後。
騎士
「ストラトス将軍。最期に何か言い残すことはあるか?」
アベルは帝都の広場で処刑台に立たされていた。
彼の背後にはエミリアが控え、その後方には配下の騎士たちが待機している。
レクセルよりも発展した美しい街並みが周囲に広がり、帝都に住まう民衆の姿がアベルの目に映し出されていた。
民衆は彼に憐みの目を向け、彼の処刑を静かに見守っている。
アベル
「そうだな……。では、ある女性に一言お伝えしたい」
アベルは晴天を仰ぎながら大きく深呼吸し、そしてニッコリと笑った。
アベル
「私も貴方を心から愛しています……と」
エミリア
「…………」
エミリアが悲し気な表情を浮かべ、帽子のつばでそれを隠した。
アベルはレクセルの将軍としての誇りと意地を貫き、最後まで口を割らなかったのだ。
アベルが膝を着き、四つん這いの格好で処刑台に首を晒した。
配下の騎士が彼の顔に皮袋を被せ、エミリアがサーベルを高く振り上げる。
アベルの説得に失敗した彼女は自ら執行人として名乗りを上げた。
彼に対する未練を己の手で断ち切るためだ。
エミリア
「さらばだ、アベル……」
エミリアがサーベルを振り下ろし、アベルの首と体を一刀両断した。
彼女が美しい動作でサーベルを納めると同時に、アベルの頭部がゴロリと転がり落ちた。
配下の騎士がそれを拾って民衆に晒し始める。
エミリアは最初からわかっていた。
いかなる手段を用いようと、アベルは決して口を割らない。
彼の情に訴えかけたのは、彼女なりの最後の賭けだったのだ。
全てをやり尽くした彼女には後悔も未練もない。
アベルが言った通り、これが運命だと受け入れるしかなかった。
その後、アベルの遺体は配下の騎士たちに運ばれ、彼の生き様を知る者たちの手によって手厚く葬られた。
歴史の陰に埋もれた名もなき英雄――――アベル・ストラトス将軍。
彼らはこの名を生涯忘れることはないだろう。
――――――――――――
アベルの死から数年後。
エミリアは彼の命日に墓参りに訪れていた。
あの後、彼女は以前から上層部の一人に持ちかけられていた縁談を受け、すぐにその一人息子と結婚した。
結婚して間もなく子どもを授かり、後継ぎを生んだ彼女は見事にスティアード家の名を復活させた。
息子を立派な後継ぎに育てるため、彼女は軍を退役し、現在は子ども世話に勤しんでいる。
エミリアはアベルの墓前に花を添え、今年で3歳になる息子と共に静かに両手を合わせた。
???
「ねえ、お母さん」
エミリア
「……ん? なあに、エミル?」
エミル
「僕、この人知ってるよ。すごく強い人だったって先生が言ってた」
エミリアは笑顔を浮かべ、最愛の息子を両腕に抱き締めた。
その瞬間、彼女の脳裏にアベルと過ごした日の記憶がよみがえる。
死の直前まで絶やさなかったあの笑顔を彼女は決して忘れない。
いつか息子にも真実を話すときが来るだろうか?
この人が貴方の本当の父親であるということを……。
(完)
ラスト・メダル アサギリナオト @tuchinokotaro
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