僧侶こそ最強の攻撃職!
年中麦茶太郎
第1話 かつて魔力ゼロの賢者がいた
魔法師に憧れた男がいた。
しかし彼は魔力がほぼゼロであった。
にもかかわらず彼は、賢者と呼ばれるほどの魔法師になれた。
まったく魔法を学んでいなくても、普通はそれなりに魔力を有している。それを自覚できないだけで、大抵の人間には魔力があるのだ。
だが彼はどんなに努力を重ねても、赤子のような魔力から成長できなかった。
そんな奴が魔法師になれるわけがないと、誰もがあざ笑った。
それでも彼は諦めない。
足りない魔力を技術で補おうとした。それでも足りぬから道具を作った。
魔石に魔力をため込み、それによって動く道具。
魔道具と呼ばれるものだ。
魔道具には、あらかじめ魔法の術式が刻まれている。魔法の訓練を全くしていない者でも魔法を使えてしまうという、便利な代物。
魔道具という概念は、彼が生まれる前からあった。
しかし魔道具を作れるほどの技術と知識を持つ者は、自力で魔法を使える。わざわざ苦労して他人のために魔道具を作るような変わり者は少ない。ゆえに魔道具など、一部の天才が戯れに作った極少数があるだけで、それを兵器として運用しようと考える者は皆無だった。
彼だけは違った。
どれだけ努力しても魔力が増えず、なのに努力を続けた。
知識と技術を蓄え、魔道具を作り、改良し、性能を上げていった。状況に合わせて術式の設定を変えられるようにしたり、空になった魔石を交換しやすくしたりと、彼一人で魔道具を一気に進化させた。
複数の魔道具を持ち歩き、状況に合わせて使い分け、あるいは同時使用。
モンスターの群れを駆逐し、怪我人が多発した鉱山で治療を行い、洪水を防御結界でそらして町を救う。
彼が成し遂げたことは、膨大な魔力があったとしても困難なものばかり。
一つの魔法を覚えるだけでも、気の遠くなるような鍛錬が必要だ。
なのに彼は、自分の体の外側にある道具に様々な術式を刻み、魔石の魔力だけで魔法が発動するようにした。魔法への理解がどれほど深まれば、そんなことを何度も繰り返せるのだろうか。
多くの魔法師は彼を尊敬した。それほどの偉業だった。
魔力がないのに自作の魔道具で奇跡のような活躍を続ける彼は、その知識と技術を讃えられ、いつしか賢者と呼ばれるようになった。
けれど、賢者と呼ばれる彼は、いつも虚無感に悩まされていた。
モンスターを倒し、人々を救う。
幼い頃から夢見た、理想の魔法師になれたはずなのに。
なにかが違うのだ。
――自分の魔力を使っていないから。
その魔道具が自作だろうと、他人から尊敬されようと、そんなのは関係ない。
自分が満足できなければ意味がない。
賢者は強い道具を作りたいのではなく、強くなりたかったのだ。
その原点を思い出し、修行を重ねる日々に戻った。
それは才能の壁を実感するだけの、地獄のような日々だった。
強い道具を作る才能はある。なのに自分自身が強くなる才能は皆無だった。
――せめて人並みの魔力があれば、知識と技術を使って最強の魔法師になってみせるのに。
怨念にも近い感情を抱いたまま、賢者と呼ばれた魔道具職人は生涯を終えた。
そして約二百年の月日が流れた。
△
とある夫婦のあいだに男子が生まれた。
夫の家は剣士の家系で、兵士やら傭兵やらと、先祖代々、戦いを生業にする職で食ってきた。彼自身も冒険者として生計を立て、ベテランとして信用されている。
妻は普通の町娘だったが、どうしてか剣士に憧れ、我流で技を磨き、冒険者ギルドの門を叩いた。
二人は仕事で知り合い、結婚し、そして今、子が生まれた。
ところで、この世界には『ギフト』という概念がある。
天から授かった才能、というような意味だ。
ギフトがあるかどうか、生まれてすぐに検査する。
結果、その男子にはギフトがあった。喜ばしいことだ。ところが。
「ギフトがあるのは凄いことなんだが……僧侶のギフトかぁ」
と、夫は呟く。
「僧侶って微妙よね……最近はポーションの質が高いから、回復魔法の使い手がいなくてもそう困らないし。防御結界だって護符で代用できるし……」
と、妻も困った顔をする。
剣士と剣士の子供なのだ。ギフトを授かるとすれば、剣に関するものだろうと二人は予想していた。
しかし違った。
「まあ、僧侶のギフトがあるからって、剣の才能がないってことにはならない。立派な剣士に育てよう!」
「そうね! この子が大きくなったら、三人でダンジョンに行きましょう!」
夫婦は息子のギフトを無視しようと決めた。
理由はいくつかある。
まず、二人とも「殺される前に殺せばいい」という思想なので、後方支援にあまり利点を感じていなかった。
それから、二人が暮らすロクシャールの町には魔法学校も魔法塾もなく、僧侶の才能を伸ばしてやろうにも、どうしていいか分からなかったのだ。
まさか自分たちの息子が、かつて賢者と呼ばれた存在の生まれ変わりであり、賢者が切望した魔力の伸び代をついに手に入れたなどと、想像できるはずもない。
その時点では、息子本人でさえ自覚していなかったのだ。
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