第141話 覚悟


「……ふぅ」


パソコンと向き合っていたせいか、無意識にため息が吐いてしまう。

久しぶりの編者作業なんだけど……色々考えてしまって中々進むことが出来なかった。


「貴方って仕事人よね」


「?そうですか??」


すると、恭子さんにジト目でそんなことを言われてしまう。そんなことないと思うんだけどなぁ。


「こういう時こそ休むもんじゃないの?どうして仕事していられるのよ……」


「い、いや……なんだか落ち着かないというか……それに、まだ一本しか動画作れませんでしたよ?」


「普通はそれで十分なのよ……」


まともだと思ったら案外抜けてるのね……と呆れたようにコーヒーを飲んでいく。

……やっぱり俺って抜けてるのだろうか?でも久しぶりの編集作業だし、これ以上休むわけにもいかないし……。


そんなことを考えていると、廊下から足音が聞こえてきて、扉が開かれる。

後ろを振り返ると……涙目の紗耶香がそこにはいた。


「紗耶香?」


「……ごめんなさいエイジさん。少しここに居させて」


そう言うと、紗耶香は俺の背中に自信の顔を押し付けてくる。

よく見ると、身体も震えており、鼻を啜ってる音も聞こえてきた。


「……栞菜に何かあったのね」


それを見て恭子さんは察したように呟く。

何か変化が……もしかして栞菜さんの記憶が戻った?


「……エイジさん」


涙声になりながら、紗耶香は俺の身体をギュッと力強く抱きしめながら、俺に話しかけてきた。


「……栞菜さん、戻ってきますよね?」


「それは……分からない」


ただそう言うことしか出来なかった。その言葉からは彼女の感情が伝わってくる。

過剰に振る舞おうとしてるが、隠しきれない不安、悲しみ、恐怖……色々なものが混じっていた。


「……私、嫌です。栞菜さんがこのまま戻ってこないなんて……せっかく最近栞菜さんが笑えるようになってきたのに、こんなのってないよ……」


突きつけてくる現実に嘆くように紗耶香の声が響いてくる。

今まで近くで栞菜さんのことを見てきた彼女の言葉だからこそ、不思議と重みが感じ取れた。


「……そのために、私たちが動いてるの」


恭子さんが立ち上がり、紗耶香の頭を優しく撫でる。


「恭子さん……」


「不安な気持ちは私も、そこにいる裕介さんも同じよ。でも、悲しんでなんかいられないわ……大丈夫。絶対に栞菜を元に戻すわ」


強く、芯のようにまっすぐな言葉に彼女の確かな意思を感じ取る。


「でも、そのためには貴方の力も必要よ。だからお願い、今はその感情を押し殺して力を貸して」


「……」


……きっと分かっているのだろう。自分が無茶なことを言ってることを。でも、恭子さんは曲げない。きっとそれが彼女の人間性を表してるのだと思ったら……とてもかっこよく見えた。



しばらく、静寂の間がこの空間を支配する。そんな空間を打ち破ったのは、リビングの扉が開かれる音であった。


「……さやかちゃん。大丈夫?」


そこには、心配そうにゲーム機を持ちながら紗耶香のことを見ている栞菜さん……栞菜の姿があった。

また、その隣には凛明もいて、紗耶香のことを見守っている。


「……………………うん。大丈夫、少し喉が渇いちゃっただけだよ」


間を開けて、そう答えた紗耶香は二人を心配させないように、過剰な態度で振る舞う。


「さっ!二人とも2階行ってて!またゲームでもしようよ!」


「……紗耶香、大丈夫?」


「ん?何か心配することでもある?あ!もしかして凛明、私のこと気にしすぎてるんだぁ!いやー妹に好かれるのは照れますなぁ」


「…………栞菜、行こう」


「えっ?いいの?」


「………心配したのがバカだった。それとゲーム教えて。次、絶対にぼこすから」



栞菜の背中を押して、リビングから出ていく二人の姿を見て、紗耶香は深呼吸をする。


「……私が、不安にさせたら駄目ですもんね」


「紗耶香……」


「大丈夫ですよ。恭子さん、エイジさん」


振り返るとそこには力強くも眩しい笑顔を浮かべている紗耶香が……天晴あおいの姿があった。


「うち、やると決めたら絶対にやり切りますから。にししっ」


……強くなったなこの子も。

今も辛いはずなのに、笑っていられるなんて……。


「……私たちも頑張らないとね。彼女に負けないように」


「……そうですね」


覚悟が決まった紗耶香の姿を見ながら、俺は改めて栞菜さんを元に戻す方法を考えるのであった。




【もし面白いと感じたらフォローや⭐️、❤️をお願いします!!!】


また、こちらの作品の方も見てくださると嬉しいです。


《全てを失う悲劇の悪役による未来改変》


https://kakuyomu.jp/works/16818093076995994125


《ギルドの看板受付嬢であるリリナさんは俺と話したい〜その割には俺にだけ冷たくないですか?〜》


https://kakuyomu.jp/works/16818093083749687716

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る