第122話 入院
「え、エイジ……!エイジ!起きてエイジ!!」
パリピが去り、エイジが包丁に刺され血を流してる中、凛明の悲痛な声が建物中に響き渡る。
それを見た春香は、彼の姿を見て呆然としていた。
(わ、私のせいだ……私がこの人を……雄介さんを……)
心がポックリと折れそうになった時、外からサイレンの音が彼女の耳に入った。それを聞いたことで、春香は正気を取り戻す。
「この音……!凛明ちゃん、救急車!!私、外に行って呼んでくるから!」
「ッ!……エイジ!病院の人来たよ!だからお願い……!お願い……絶対に死なないで……」
凛明が声を掛けながら、無理やり千切った自信の服の布で血が流れないように抑える。
春香はそれを見てから、自分のやるべきことのために外に走り出した。
(……雄介さん!)
◇
数日が経った。凛明による行方不明事件は裏社会で有名になっていた狐組と狸組による抗争に置き換えられた。
また、彼女を誘拐した主謀者であるパリピは現在進行で行方不明。警察は事件に関わりがあるとして彼女を足取りを追跡するため、調査をしている。
そして今、病院では……。
「………あ、凛明ちゃん」
「…………はる、か?」
目をゴシゴシと拭いて眠気を覚ますように身体を伸ばしている凛明に近づく。
「その、雄介さんは……?」
「………まだ起きない………意識不明だって」
「………そう、だよね」
エイジが眠っているベットの周りには、凛明だけではなく、目と頬に涙を流した跡が残っている栞菜と紗耶香が彼の手を握りながら、座って眠っていた。
「………他にも色んな人来た。エーブルの人たちとか……エイジの親も」
その言葉を聞いて、春香は罪悪感により自身が持ってきた袋を落としそうになってしまう。
「……ごめんね……ごめんね凛明ちゃん……!わたしのせいで雄介さんが……!」
「……何度も言ってる。春香はなにも悪くない……悪いのは………わたし」
「ッ!!凛明ちゃんはなにも悪くないよ!!」
春香の声が病院の中で響き渡る。思わずあげてしまった言葉に春香は思わず気まずくなる。
「……こんなこと、言っている場合じゃないよね。待ってて、今ご飯用意するから」
「……ん………ありがとう」
春香は袋から持ってきたであろうりんごを出して、器用に包丁で皮を剥いている。
「……ねぇ………春香」
「な、なにかな?」
「………エイジ……起きるよね?」
その言葉からは不安という感情が乗せられており、春香も手を止めてしまう。
「死なないよね?またご飯作ってくれるよね?いっぱい歌聞いてくれるよね?また……一緒に……う、うぅ……」
「……大丈夫。大丈夫だよ凛明ちゃん……雄介さんはそんなやわな人じゃないよ。絶対に……死なないから」
春香は自分が感じてる感情を押し殺して、凛明の身体を抱きしめる。
凛明は抑えきれなくなってしまった感情を彼女の身体の中で溢していった。
(……大丈夫……大丈夫だから……そう、だよね……雄介さん?)
今も酸素マスクをつけて穏やかに眠っている雄介の姿を見て、心の中で不安が増大してしまう。
その後、泣き終えた凛明としばらくして起きた栞菜と紗耶香にりんごを差し出し、3人は一度家に帰っていった。
先ほどまで彼の周りにはたくさんの人物がいたはずだが、今は一人の女子高校生しかいない。
「……二人きりになっちゃったね」
春香は一瞬だけ躊躇したが、それでも不安を押し殺すように眠っている彼の手を握る。
「……ねぇ、雄介さん?覚えていますか?わたしが引っ越す前のこと」
「あの時は楽しかったなぁ……貴方と一緒に遊んで、貴方の配信を見てワクワクして……貴方が配信を辞めるって言った時、凄いムキになっちゃって……なんだか、変な思い出がたくさんあるの」
……まだ、貴方と話したい。もう一度でいいから……声を聞きたい。
そんな想いが溢れて、ついに暴走してしまう。
「……お願い……お願いだから………起きてよ……………雄介さん」
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