第116話 ごめんなさい
「………」
凛明の行方が分からなくなった。
警察にも連絡して捜索を任せているが、何も情報がないため、手詰まりになっている。
「エイジさん……」
「……大丈夫です栞菜さん。凛明ならしぶとく生きていますよ」
顔色が優れない彼女にそう励ますが、あまり俺も余裕がなかった。
紗耶香も泣きそうになっていたが、なんとか学校には行かせた。あまりあの子の友達も心配させるわけにはいかなかったからね。
「とにかく今は警察に任せましょう。何も分からないまま行動してもダメです」
「……はい」
「……栞菜さん、少しだけ休んでいてください。あまり寝れていないでしょう?」
「で、ですが……いえ、分かりました。少し休んできます」
隈が酷かった栞菜さんはそのままリビングへと出ていき、自身の部屋に向かっていった。
「……一体何があった?」
誰もいない一人の部屋で俺は困惑が拭い切れずに訳がわからず言葉が漏れ出てしまう。
凛明から聞いたが、あの後二人はなんとか仲直りが出来たようだ。
それはよかったのだが、それから数日後に突如行方がわからなくなった。
あの子がいたずらにどこかに行くなんてことはこれまでなかった。
「現状、行方不明ということで捜査を続けているらしいけど……」
……何か不慮の事故、或いは……誰かに攫われたって考えた方がいいかもしれない。
だがその証拠が何もない。もし誘拐ということであれば、身代金目的で家か学校に連絡がくるはずだ。
でもそのどちらとも連絡こない……全く痕跡も残さずに突然と消えたのだ。
「誰かが見たって目的情報もなければ、何か痕跡もない……これじゃあまるで神隠しじゃねえか」
エーブルのみんなにも協力してもらって探しているが……凛明の情報は皆無。
完全に手詰まり状態であった。
そんな時だ。インターホンの呼び鈴の音が家中に響いた。
誰か来たのか?そう思い、俺はソファから起き上がり、玄関のドアに向かう。開けるとそこには……。
「……春香ちゃん?」
息を切らして必死な様子の春香ちゃんがドアの前にいた。
彼女は俺の姿を見るや否や目を血走ってこちらに近づき……。
「あ、あの!凛明ちゃん!凛明ちゃんはどうなったんです!?まだ連絡もつかないんです!」
「……落ち着いて」
どうやら彼女も相当錯乱しているらしい。とにかく話をするために、一度落ち着かせてから、家に上げる。
「……お茶入れるね」
「あ、いえ……あの、自分で持参してきました。よければ飲んでいってください」
「……じゃあお言葉に甘えて」
俺はキッキンからコップだけを取り出して、机に置き、春香ちゃんはそれに水筒の中にあるお茶を入れていく。
「ありがとう」
彼女が用意してくれたお茶を一口だけ飲んでいく。
……うん、美味しい。冷静になり切れなかった頭が少しずつ冴えていく。
どうやら俺も相当混乱していたようだ。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「えっ?」
「わた、私のせいなんです!私を庇ったせいで凛明ちゃんが……凛明ちゃんが!!」
「……どういうことか、説明してもらってもいいかな?」
先ほどよりも取り乱している彼女に俺は説明を促す。しばらくして落ち着いたのか、春香ちゃんはゆっくりと話し出してくれた。
「……凛明ちゃん、私からパリピさんのこと庇って……それ以降なんです!凛明ちゃんも!パリピさんも二人とも学校から来てないんです!!」
「……」
……それを聞いて俺は理解してしまう。
断定できるとは言えないが……そのパリピって人が凛明の失踪と何かしら関わっていることに。
だが、その確実な証拠があるわけじゃない。まだ闇雲に動くわけには……。
「そ、それに……私のスマホからこんな通知が」
そう言ってきて、彼女はスマホを見せてくる。そこには……。
「……なんだこれ?」
そこには先ほどのパリピのような人からの連絡があった。
誰にも言うな。この場所まで一人でこい……と書かれてあった。
「……これ、現在地まで……春香ちゃん!」
ここに凛明が……!そう思い、彼女の方を見た瞬間、俺の意識が朦朧としてくる。
「な、なんだ……これ……」
「……ごめんなさい。まだ皆さんには伝えないでください。これを貴方に伝えようと思ったのは……目が覚めた後に、警察の人に伝えてほしいからなんです」
すると、春香ちゃんはスマホを置いて、机から立ち上がる。
「飲み物に睡眠薬を入れました……身勝手なのは承知の上です。でもこれは、私の問題でもあるんです」
だ、だめだ……君一人で行ったら……!
「……本当なら、もう少しだけ貴方とお話がしたかったです。凛明ちゃんとも一緒に……でも、それは出来なさそうです」
こちらに振り向き彼女は悲しそうに笑った。
「……貴方と出会えて……少しだけ、ほんの少しだけどよかったって思いました……雄介さん」
「ッ!?」
それだけ伝えて、彼女は部屋から出ていった。
……あぁ、なんで……なんで忘れてたんだ。
ずっと頭の中に腑に落ちなかったものが嘘のように消えて、彼女のことを思い出す。
俺はそれを最後に、意識を失った。
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