第70話 お風呂場にて
「な、何やってるんだ本当に……?」
突然現れた紗耶香……何故か白色の水着姿のままである彼女にそう問いかける。
「だ、だだだだって……!流石に裸は……その……」
「いや、そうじゃなくて……なんで入ってきたんだ?俺今入ってるんだぞ?」
なんでお風呂に入ってきた……?というかどうして平然としている?
「折角なのでエイジさんと一緒に入ろうかと思いまして」
「い、いや……流石にそれは……」
……絵面的にアウトだろそれは。
「……いや、ですか……そ、そうですよね……こんな私なんかと一緒に入ろうだなんて……」
「そういうことが言いたいんじゃなくてだな……」
ど、どうすればいい……?このまま彼女を追い出したらさらに凹む可能性が高い……それに、今の彼女を刺激するのはリスクが高すぎる……。
「……分かった。ただし栞菜さん達に許可を得てからにしてくれよ」
「ほんと!?やった!ありがとうエイジさん!」
そう言って嬉しそうに抱きついてくる……いや栞菜さん達に許可をだな。
「事前に二人には言っておいたので大丈夫ですよ。まぁ、なんでかとても恨めしそうに私のことを見ていましたが……」
「……よく許可を取れたな」
二人も今の紗耶香には気を遣ってるということなのだろうか……というか紗耶香よ。勝手に人の心を読み取らないでくれ。
「じゃあエイジさん、背中向けてください。洗いますね」
「え?いや、もう洗ったから……」
……いや、ここで何か言うのもあれか……。
「……分かった。じゃあ頼むよ」
「はい!任されました!!」
上腕に手を置いてやる気を示している彼女の姿を見てから、背中を見せる。
まさか2回洗うことになるとは……しばらくすると洗ってくれてるのだろうか、何かが背中に当たっている。
「……なぁ紗耶香。一体何で背中を洗っているんだ?」
気になって洗っていない最中の彼女に聞いてみる。
するとなんてことないような様子のまま紗耶香は言ってきた。
「私の手で直接洗っていますよ?タオルを使うのもめんどくさいので」
「………大変じゃないか?」
「そうでもないですよ。こうして直接エイジさんの背中に触れますからね。とても最高です」
ゴシゴシと手で一生懸命洗っている彼女の様子を感じとる。
そこにはとても歓喜している様子が分かったので、俺も何も言わないことにするが……異性に洗ってもらうのってこういうものなのか?
「……紗耶香。昨日のこと、栞菜さん達には言ったのか?」
昨日のこととは勿論、配信のことだ。流石にあの二人には報告しなくちゃいけないことだから聞いてみたけど……。
「……実は、まだなんです。今日は体調悪かったのでそんな暇もなかったですし……」
「……本当にいいのか?配信を辞めたりなんかして」
「……私には、そんな覚悟が足りなかったんですよ。配信をやるって覚悟が……知っていますか?最近、天晴あおいのアンチが増えてきてるって噂があるんですよ。それ知って私……なんだか凄く怖くなりました」
「……人気になれば少なからずアンチなんて存在するさ。気にすることなんてないよ」
「そうかもしれませんね……でも私は……それを気にしてしまうんです」
手を止めて、俺の背中全体に彼女の身体が伝わってくる。
「たまに、思い出してしまうんです……昔のことを……また、見捨てられるんじゃないかって……誰にも見られなくなるんじゃないかって……それが……一番怖いんです」
「………」
「……だから、そんな怖い思いする前に辞めることにするんです。天晴あおいは凄い人物だったと評されている今に」
語り終わり、再び俺の身体を洗い続ける。その声は明るくなっていたが……その奥からはとてつもない哀しみが伝わってきた。
「紗耶香……ほんとうはお前」
「さっ!洗い終わりましたよ!次は前を向いてくださいエイジさん!」
「……ん?」
……何言ってるんだこの子は?
「ほら、そんなぼーっとしてないで前に向いてくださいよ。洗えないじゃないですか!」
「……調子に乗るな。このむっつり」
「なぁっ!?え、エイジさんまでそんな事言うんですか!私をそんな変態みたいな扱いして!」
だったら今の俺の状態分かるよな?全裸だぞ全裸。
なんで女の、しかも女子学生の前で素っ裸を見せなければならないんだ。
「そんなことを言うんだったら俺が洗ってやるよ。ほら、前向け」
「な、ななな何言ってるんですか!?!?そ、そそそそそんなこと出来るわけないじゃないですか!!」
「だったら変なこと言うな。このむっつり」
「また言ったぁ!!エイジさんが私のことむっつりって!!取り消したくださいエイジさぁ〜ん!!」
「ちょ!?風呂場で暴れるな!?落ちるだろ!!」
——波瀾万丈な事はあったものの、なんとか無事にお風呂に出ることが出来た俺であったのだ。
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