第五章
第59話 ルーキーの一人
連絡が来たから数日後、俺はいつもの喫茶店に訪れていた。
なんでかは分からないが、いつも誰かと話し合うにはここが一番いいらしい。
そう考えながら、いつも通りに席を探して……そこにとある特徴的な赤い髪の人物が目に映った。
(……確かDMの情報だと彼女の特徴って短い赤い髪をしてたって話だよな)
そこにいる彼女と見比べ……特徴とあってるのが分かった。
そしてその人も俺に気づいたのだろうか、こちらを見て手を振ってくる。
「やぁ、君がエイジさん……ってことでいいのかな?」
「……その認識で構いませんよ……緋村カレンさん」
俺を見て意味深に口元を弧に結ぶ姿を見ながら、彼女と対面の席に座っていく。
「注文は私が頼んだんだけど、いいよね?」
「それで構いませんよ」
……相手の物を勝手に注文するのはどうかと思ってしまうが……。
「……思うところはあるんですけど一つだけ……vチューバーと言う割には随分と似ていますよね……いや、ほとんど同じと言うべきですか?」
彼女はそれはそれはvのキャラクターと言ってもおかしくないほど類似していた。
「あっはは。そう思う?でも私は取り繕うのは苦手でね」
「……それなら、普通にユーチューブやら配信をすればいいと思うのですが」
「こういうのは流行に乗るのも大事だと思うからね。最近だと少なくなってきたけど……私たち5人は新時代……ルーキーとして名を馳せた」
再び笑みを深めてこちらをじっと見つめている。特に動揺することなく、俺も彼女を見つめ返す。
「そういえば、お互い知っていたから自己紹介がまだだったね。私は緋村カレン。よろしくね、エイジさん?」
「……エイジこと祐介です……もしかしてそれが本名ですか?」
「さっきも言ったけど私は取り繕うのが苦手だ。それは名前も、ということだね」
「そういう問題ではないと思うのですが……」
……まぁ、人それぞれなのだろう。そう考え、彼女と改めて向き合う。
「それで、あのDMはなんだったんですか?いきなり君に会いたいとか連絡して」
「ん?もしかしてドキッとしたかい?いやぁありがとう、その気持ちは嬉しいよ」
「別にしていませんよ。その用件が知りたいだけです」
「……君って、もしかしてドライ?」
「生憎、俺は仕事人ですので。塩対応だと言うことは自負しております」
「ふーん……なるほど。あっちの世界とはまるで別物だ」
すると、彼女はあるチャンネル画面をスマホをプラプラと揺らしながら見せてくる。
「……これは」
「知ってるでしょ?まぁ本人さんだからね……エイジさん?」
「……昔の話ですよ。今の俺はそんな役柄ではないので」
「全く、釣れないったらありゃしない。そんなことしてたら女の子にモテないぞ?」
「モテなくてもいいですよ。俺にそんなものは似合いませんから」
少し苦笑しながら答えてしまう。それに対してふーん……と興味なさそうに反応する姿があった。
「……まぁ、いいや。ここでの世間話もしたことだし、本題に入ろうか」
そう言うと、彼女は両手を前に出して前のめりになる。その姿に思わず俺も緊張感が増していく、
「ねぇエイジさん……私の、編集者になってみない?」
「…………その理由を説明してくれると嬉しいのですが」
予想外の言葉に思わず喉が詰まってしまったが、あくまで冷静に彼女に答える。
「いやね、最近あおいの……紗耶香の切り抜き動画を見てみてね……それを見て物凄く面白いと感じちゃったの」
「……気のせいですよ。俺は特に特別なことはしていません」
「いーや、そんなことない。長い動画時間を一気にまとめられてた。面白さ、魅力、テンポ感……それらが全て君の切り抜きでは詰まっていた」
そこからは真面目に語り出してるのだろうか、少し表情が先ほどよりも真剣だ。
「それだけじゃない。君の切り抜き動画……あれって他の人もやってるよね?たとえば……KANNAやスカーレットとか」
「………まぁ実際事実ですので」
「やっぱり……君が編集したことで彼女たちの知名度が伸びに伸びまくっている。それに、株式会社エーブル……突如として現れた大物の配信者グループの会社の設立。まさに大出世って感じだ」
「……何が言いたいのですか?」
「さっきと同じだよ。私は君が欲しい。君のその力を……ぜひ私のところで磨いて欲しいのだよ」
……引き抜きってことか?まぁそう捉えた方がいいのだろう。
「……すみませんが、お断りさせていただきます」
「……それは、どうしてだい?」
「どうしてもなにもないですよ。俺はもう所有物の身です……その人達のためにもここでうんと頷くわけにはいかない」
「……随分と物騒なことを言うんだね」
「事実ですから。気持ちは嬉しいのですが……」
「……まぁ、そうだろうね……簡単に君を取れるとは思ってないから安心しなよ」
そう言って彼女は自身が頼んだ飲み物をストローに口をつけて飲み干す。
「だからこそ、もう一つ頼んで欲しいことがあるんだ」
「……それは?」
そうして彼女は再び爽やかな笑みを浮かべて言い放った。
「コラボ配信がしたい……天晴あおいとね」
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