第58話 旅行の後
長いようで短かった北海道の旅行は終わりを迎えた。
飛行機によって地元に帰ってきた後、結奈ちゃんと芦戸兄妹と空港で別れ、今はバスに乗って旅行の余韻に浸っている。
「二人とも、寝てしまいましたね」
隣に座っている栞菜さんが、もう一組の席でお互いに寄せ合いながら気持ちよさそうに眠っている紗耶香と凛明を見て呟く。
「仕方ないですよ。二人とも疲れていると思いますし」
「ですね。私も、思わず楽しんでしまいましたし」
そう言って栞菜さんは少し恥ずかしそうに笑っている。どうやら今回の旅行はご満足していただけたようだ。
「ふぁ……」
「……眠いんですか?」
「ご、ごめんなさい。その、楽しみすぎて……少し疲れちゃいました」
眠そうに目を擦ってなんとか起きようとしているが……なんだか睡魔と戦っている彼女を見て心の中で笑ってしまった。
眠いなら寝ればいいのに……いや、寝顔を見られるのは恥ずかしいのか?
「寝たいんだったら寝てもいいですからね。俺の肩も貸しますし」
「も、もうっ。子供扱いしないでください。私、これでもいい大人なんですよ」
「……因みに何歳なのかは教えてくれないんですか?」
「…………黙秘します」
ぷいっと顔を背けてしまった。やっぱ女性に年齢を聞くのはまずかったかな。
「エイジさんは何歳なんですか?」
「俺ですか?今年で……二十七になりますね」
「……え?」
「え?どうしたんですか??」
「い、いえ……なんでも、ないです」
何故か俺も年齢を聞いた瞬間、栞菜さんは衝撃を受けたような反応をして……ショックで受けたかのようにネガティブな雰囲気を醸し出していた。
「……エイジさんが……私よりも若い」
「……聞こえてますからね?」
「な、ななななんでもないです!!」
そうなのか……栞菜さんって俺よりも……あ、いやこれ以上は思わないでおこう。
彼女とそんな会話をしからて数十分経過した。
俺は太陽が沈みかけている夕日を窓から眺めており、一方栞菜さんはというと……俺の肩に頭を寄せて程よいリズムの寝息をして眠っていた。
「……その割には子供っぽいんだよな」
寝顔を見ながら何故かそう感じてしまう。彼女と生活して思ったことだ。
俺を誰にも渡さんと言わんばかりに周りを威圧したり、酒を飲んだら性格が豹変して抱きついてくるし、何かの口癖のように貴方は私にもの……と何か自分に暗示するように言うこともある。
前まではこのような性格も彼女の個性の一つだと思っていた……最近までは。
「……いや……いやぁ…」
ぎゅっと俺の腕に力強くに抱きついてきた。それを見て俺はこの前の出来事と全く同じことだと理解する。
「……大丈夫ですからね栞菜さん」
今も苦しそうに……泣きそうになる彼女の頭をもう片方の手で撫でる。
ゆっくりと壊れそうな物を触れるかのようにや優しく大切に彼女の頭にふれる。
「……スゥ…えいじ、さん……」
そして安心しきったのか、先ほどの苦しそうな様子とは違い、気持ちよさそうに眠っていた。
「……なんだかもどかしいな」
できるだけこの人には苦しんで欲しくない。だというのに、何も出来ない自分に……少しだけ苛ついていた。
「……ごめん、なさい」
「ッ!」
再び彼女が声を発した。まだ悪夢でも見てるのか……でも、俺は彼女の様子がいつもと違うことに気づき様子を見る。
「……えいじ、さん……ごめんなさい」
「……えっ?」
その言葉に思わず息が詰まってしまった。なんでここで俺の名前が……。
「ごめんなさい……いっぱい迷惑かけて、ごめんなさい……束縛してごめんなさい……わたし、がんばるから……いっぱい、悪いところ治すから……きらいに、ならないで……わたしを……おいて、いかないで……」
「……嫌いになんてなるわけないじゃないですか」
抱きしめるように、頭に乗っけていた手を彼女の肩に腕を回す。
すると今度こそ安心しきったのか、ゆったりとした寝息を吐きながら眠っていった。
「…そんな心配しなくても俺はどこに行きませんし、嫌いになんかなりませんよ」
彼女のそんな様子を見て、俺は改めて決意する。
絶対に栞菜さんを幸せにさせようと……いつか彼女が心の底から笑顔になるまで見守り続けようと俺は思ったのだった。
◇
バスに乗って、数分掛けて俺達は重たい荷物を持って家に帰ることが出来た。
因みに栞菜さんはあの後、寝顔を見られたことに恥ずかしいと思っていたのか今も頬が真っ赤だ。
でも流石に疲れたのか、片付けを終えた後はすぐに寝てしまった。
俺も、少しだけパソコンを見てから寝ようと思い開こうとして……スマホの通知音がなった。
「……今度はなんだ?」
また会社関連だと思い、開いてみると……予想外の人からのDMが来て思わず眉をひそめてしまった。
その人物とは……
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