第54話 スキー場 後半
「そうそう。そんな感じですよ栞菜さん。ゆっくり、ゆっくりでいいですからね」
リフトを登って雪山の上に着いた後、俺と結奈ちゃん、芦田兄妹は其々栞菜さん達にスキーの滑り方を講義している。
「きゃあっ!?」
……ただ、あまりに栞菜さんが運動出来ないせいで結構苦戦している。
紗耶香と凛明も苦戦してるものの、結奈ちゃんたちの教えで上達はしていた。
「……うぅ……やっぱり運動は苦手です……」
「だ、大丈夫ですからね栞菜さん。人には得意不得意ありますから」
「……エイジさん。私を遠回しで運動音痴って言っていますね?酷いです……」
大胆に転んで涙目の栞菜さんを見て俺は苦笑してしまう。
……なんで栞菜さんが家事が出来ないかが分かった気がする。鈍臭すぎるからなんだ……。
「……エイジさん?」
「さ、さぁ!続けますよ!まだまだ時間はありますから……!!」
……ジト目で見てくる栞菜さんに寒気を湧いてすぐに話を逸らす。
「うぅ……」と、哀しみを漂わせながらもポールを持って立ちあがろうとする。
「ふげっ……!」
「………」
「……えいじさぁん……」
「……手伝いますので起き上がってください」
再び鈍臭く転んで見せた栞菜さんに手を差し伸べて、彼女を起き上がらさせた。
「大分苦戦してるようね」
「……まぁ、仕方ないさ」
真中が苦笑しながらこちらに近づいてくる。
「凛明の方はいいなのか?」
「えぇ。今は一人でやらせてあるわ。案外あの子、意外と運動神経がいいみたいよ」
そう言いながら、真中は別の方向を見る。俺もその方向を見ると、まだまだ危なっかしいものの、最初と比べたらだいぶマシに滑っている凛明の姿があった。
「宗治兄と結奈ちゃんは紗耶香ちゃんの方で教えてるけど……あっちも凄い上手に滑ってるわ」
「あの二人。意外と運動神経がいいからな」
真中とそんな会話をして……栞菜さんの存在を思い出して後ろを振り向く。
そこには……しゃがんで円を描くように雪をいじっている姿があった。
「……どうせ私なんて……運動神経が極端に悪いゲーム配信者ですよーだ……」
「い、いや栞菜さん。別に貴方を貶しているわけでは……」
「……二人に比べて下手ですよーだ……」
……だめだこれ……相当いじけてるぞ。
「まっ、栞菜さんを慰めるのは貴方に任せるわね。あとでくるのよ〜」
「ちょっ!?俺を見捨てる気かお前!?」
そんな俺の声も虚しく、彼女は手を振りながら俺たちの元から去っていった。
そして、今もいじけている栞菜さんを俺は数時間かけて慰めるのであった。
◇
「……あ、やっと来たね。大丈夫かい祐介?」
「……うん……大丈夫……」
大分マシになった栞菜さんを励まして、真中と宗治のところにやってきた……まぁ彼女、どうやらまだいじけてるらしいけど。
「とりあえず三人は先に戻らせたわ。ここからは私たちの独占場になると思うし」
「あぁ、連絡来たから栞菜さんも戻らせたけど……いいのか?」
「撮影もして欲しいって予め真中ちゃんに頼んであるしね。それに……十二分に滑れるにはこうするしかないでしょ?」
「……案外辛辣なんだな」
「あはは。僕は善人ではないよ……ただのしがない配信者さ」
「……なら、俺は邪魔だと思うが」
「それとこれとは別よ。久しぶりに3人で滑りたいじゃないの」
そうして準備万端と言ってるかのようにポールを持ち始める二人を見て、俺も彼らの間に入って滑る準備をする。
「私たちはさっき滑ったお陰で感覚を取り戻したけど、貴方は大丈夫かしら?」
「まぁまぁ真中。そんなプレッシャーかけちゃ駄目だよ。楽しくいこうよ……ね、雄介?」
「……足は引っ張らないから大丈夫だ」
ったく、人をバカにしやがって。
軽く彼らと話しをしてから俺たちは……斜面になっている雪の上を滑り出した。
徐々にスピードが上がるのを感じた。そして、お互い目を合わせて……二人が俺の方に近づいてきた。
さっきとは違い、狭いフィールドでの滑りだ。大怪我する可能性があって危なっかしいか……大丈夫だ。
ガタガタになっている斜面を利用して……俺たちは何度も交差していく。
スピードのコントロールに、絶妙なタイミングが揃ったことで俺たちは息のあったパフォーマンスを生み出した。
きっと栞菜さんたちから見てみれば複雑な動きに見えるだろう。
狭いフィールドを駆使してるため見栄えはあまりないが……それでも高度な技術により見栄えするのが間違えない。
そして、ついに平らな地面にまで近づき、俺たちは最後に横を向いてエッジを使って華麗に止まって見せた。
「……ふぅ、久しぶりにやってみたけど……腕は鈍ってなかったみたいね祐介」
「……一応俺が一番上手かったんだぞ?なんでそんな上から目線なんだ……?」
「あはは。まぁ、いいじゃないか。久しぶり祐介と滑ることが出来て楽しかったよ」
「…………す、凄い」
誰かの漏れたような言葉が俺たちの耳に入る。
そこには驚愕で絶句している4人の姿があった。
「せ、先輩って真中さん達と同じぐらい上手なんですね……」
「……かっこいい……」
紗耶香の言葉にあはは……と苦笑してしまった。照れ隠しというものだろうか。
「……なに笑ってんのよ。気色悪いわよ」
「どういうことだこらっ」
喧嘩売ってんのか……と思ったら両腕からギュッ……と誰かが握りしめてきた。
「エイジさん……!凄く……凄くよかったです!む、昔の動画を見てるようでした!!」
「……ん。二人にも劣らない動きだった……感動……」
「あ、ありがとうございます栞菜さん……凛明……」
そこには目をキラキラとさせている二人の姿だった。その気迫に何故かアイドルを語っているオタクの姿と重ねてしまった。
「……祐介。これ匿名にするから動画で使ったら駄目かしら?」
「い、いや……流石に勘弁してくれ。特定されたくないぞ」
「仕方ないよ。祐介はもう配信者じゃないしね」
「……はぁ、なら今度は私たちだけで滑ってくるわ。それを撮ってちょうだい」
「わかった。それなら全然……」
「じゃあもう一回行こうか……みんなでね」
爽やかな笑みを浮かべて俺……じゃなくて4人の方を見ていた。
どうならさっきので影響を受けたようだ。
「みんな行っておいで。俺はここに残ってるから」
「い、いいんですか?」
「うん。俺はもう十分滑ったし……楽しんでおいて」
「……ありがとう、エイジ……行ってくる……」
「エイジさんには劣っちゃうかもしれないけど、私頑張って滑っていきます!」
「わ、私も……上手く滑らないけど頑張ります……!」
凛明、紗耶香、栞菜さんの意気込みを聞いてから彼女たちは芦田兄妹とともに去っていった。
「……じゃあ、先輩私も行きますね………それと………」
「ん?」
「…………………いつもの先輩と違って……………とても、凛々しかったです………」
「えっ?」
「じゃ、じゃあ行ってきますから!」
そして、頬を真っ赤にして彼女らの後をついていった。
俺はというと……彼女の言葉に驚きのあまりしばらく唖然とするしかなかったのだった。
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