第52話 悩み


観光に行って夜になった頃。

俺は紗耶香と凛明に呼ばれて、今は彼女たちの部屋にいる。


因みに部屋の組に関しては栞菜さんと結奈ちゃん、凛明と紗耶香、そして宗治となっているらしい。


「それで、どうしたんだ二人とも?何か用か?」


何故かパソコンを開いている二人に聞いてみる。


「……何か用がなかったら呼んではいけませんか?」


「あ、いやそういうわけじゃ……」


パジャマ姿のままジト目で言われて怖気付いてしまう。


「……紗耶香……エイジからかうのよくない……」


「……へへ、それもそうですね。ごめんなさいエイジさん、冗談ですよ」


……その割には目が笑ってなかったような気がするけど……。


「あの、今回はエイジさんにアドバイスを貰おうと思いまして……」


「アドバイス?何の?」


「…………動画について……」


凛明が静かに呟いた。そして開いていたパソコンを俺に見せてくる。


「本当なら動画の撮影とかしたかったんですけど、私たちは動画のスタイルの都合上、撮影は出来ませんから……それを今日初めて知りました」


「……世間知らず……恥ずかしい」


「あ、あはは……」


もしかして撮影カメラを持ってきてたのってここで撮影するためか……?まぁ凛明は歌配信とかだから……無理だよな。


「ただ私たちも動画を撮るのが習慣でしたので落ち着かなかったので……そこで動画を見返してエイジさんからアドバイスを貰おうと思ったんです」


「……エイジ……駄目?」


「あぁそういうことか。それならまだ時間はあるから全然いいぞ」


「ありがとうございます……ごめんなさい、なんか頼りっぱなしで」


「そんなに気にしないでくれ。向上心のある人は応援したくなるからさ」


「……ん……そういうこと……もっと紗耶香は頼るべき……」


「うっ……そ、そりゃあ勿論頼ってるつもりだけど……これは私の問題かなって……」


「ん?どういうことだ??」


……ん?画面を見てみると……天晴あおいの動画がずらっと並べてあった。


「……紗耶香、悩んでる……そこでエイジに相談しようと」


「悩み?何についてだ?」


「……えっと一度私の動画を見返した時があったんですよ……それで思ったんですけど……」


いつもより元気のない紗耶香が顔をポリポリとかきながら言ってくる。


「……なんだか、他の人たちと比べて私って個性がないんだなぁって思っちゃって……」


「……個性?」


「Vtuberってキャラクターのデザインも大事なんですけど、そのキャラにしかない特技やら個性?が大事になってくるんですよ。例えばこの人とか……」


パソコンをいじって、誰かの配信の動画を見せてきた。見てみるとそこには赤髪の爽やかなイメージのある女性のキャラが見える。


「……これ、確か新時代ルーキーの……」


「はい。私の同期の緋村カレンっていうvtuberです」


確かこの人の魅力って爽やかなイメージとギャグセンスを二つを兼ね備えている面白いところとギャップがあるところだっけ……?


「カレンにはみんなを面白くさせるエンターテインメント性を持っています。これは一つの個性です。他の三人の人もおんなじです。カレンみたいに何かに特化した個性を宿している……」


「……紗耶香、自分には何もないって言ってた」


「そうなのか?」


「……天青あおいわたしってただただみんなと騒いでいるうるさい奴じゃないですか?勢いよく流行に乗って……運があってここまで上り詰めたと思うんです。だからその……改めて見返してつまらないんじゃないかなって……」


「だから、俺からアドバイスを貰おうと?」


「はい。エイジさんからならきっと何か自分にはないものが見つけられると思うんです……協力してくれませんか?」


……なるほど。話は分かった。


「……協力したいけど、その必要性が感じられないかな?」


「えっ……ど、どういうこと……ですか?」


「………」


戸惑っている紗耶香とは対照的に黙って俺のことを見つめてくる凛明。そのまま説明する。


「だって。天晴あおいの個性はもう引き出されてるからね」


「えっ……?」


「確かに、他4人と比べると何かに特化した特技はないかもしれない……でも、彼女にはみんなを明るくさせられる力がある」


「……わ、私にそんなのあるわけ……」


「まぁそう思うのも無理ないかもしれないね。でも、俺は彼女の明るい性格に励まされたことだってあるんだぞ?」


「そ、そうなんですか……?私が、エイジさんを……」


いつも時間ギリギリまで働いていたあの時、珍しくミスをしてしまってあの上司に怒鳴られた時がある。


流石に落ち込んでしまったが、彼女の動画を見て、重苦しかった心が嘘のように軽くなったのを覚えてる。


「天晴あおいにはみんなを元気にさせられる力がある。それは中々表に現れることのない個性かもしれないけど……彼女にとっては必要不可欠なものだ」


「………」


「……それに、多分そんなことよりも大事なものがあるんじゃないかな?」


「大事な、もの?」


「……でもそれは俺から言うことじゃない。あぁ、強いて言えば……」


ポカーンとしている彼女に言い放つ。


「楽しくやること……これは忘れたらいけないよ」


「……楽しく……」


「……大丈夫。紗耶香は……天晴あおいは他の誰にもない個性を持っている。俺が保証するよ」


そう言うと彼女はこっちをじっと見つめて……しばらく経って笑みを浮かべてくれた。


「……それが、エイジさんのアドバイスなんですね?」


「い、いやアドバイスって言うものじゃ……」


「そうなんですか?でも……なんか、少し心が軽くなりました」


「……だから何度も言った。エイジに頼るべき……栞菜も紗耶香も」


「……凛明はもう少し遠慮を持った方がいいんじゃないの?」


「……そんなの必要ない。エイジにはいっぱい頼らせてもらう……これからも」


「……あんたのその配慮のなさっていうか遠慮を知らないところっていうか……とにかくそこは私も見習ないとね」


……紗耶香ちゃんが少し元気を取り戻したからこれで大丈夫かな?


「あ、でもエイジさん!折角なので私の動画見てくださいよ!」


「……私の歌も聴いて……頑張った」


「そういうことなら遠慮なく」


……多分紗耶香ちゃんはこれからも悩み続けると思う。

だからせめて、その悩みを少しでも解決する手助けをしていきたい。



だって……彼女の本当の魅力は……キャラクター越しに見せてくる青空のように明るい笑顔なのだから。






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