11話・やるべきことをやればすぐに終わるものです

ジムラドさん、もっとできないんですかね……、正直少し消化不足ですまだまだ出したい魔法があったのですが。

それにしても、こんな初心者に負けるようでこの国は大丈夫なんでしょうか……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ジムラドと絢の戦いの後、一旦部屋での待機を命じられた絢達は絢に先ほどの戦闘について詰め寄っていた。


「何であんな無茶をするんですか!!」


 唯や都月、そのほかの人達も特に声が大きいのは先生だった、今まで幾つもの絢の無茶を見てきた先生だったがこれほどの無茶を見たのは今日が初めてだった、それ故に……故にその不安を、その安心をしまい込むことは到底できないのである。


「大丈夫ですよ、あの程度では私は死にません、かすり傷すら負いませんよ」


「それでも……、それでもです……」


 先生の目に薄っすらと涙がたまっている、絢にとって普段は特に何も思わないその光景だが、唯と都月と先生、目の前の膝立ちになり涙を浮かべるその3人のその姿だけはどうにもいい気持にはならない自分がいた。


「大丈夫ですから泣き止んでください……。

 はぁ、唯、約束したでしょう、私は絶対に死にません」


 絢は軽く笑みを浮かべて唯達に声をかける。


「でも~、でもぉ~」


 中々泣き止まない唯に対して、絢は手に負えないといった表情で周囲に助けを求めようとしたが、周りのクラスメイト達も唯達と同じような表情をして、全く助けにならなさそうだ。

 絢は少ない自分の対人力から一つの答えを見つけ出す


「もう一度約束をしましょう、今度は此処にいる全員に……」


 そう言った絢は、一人一人の手元にアクセサリーを作る、形はそれぞれだが全員に同じ効果を付けている。


「それは私が生きているかどうかわかるものです、要するにワ〇ピースのビブルカ〇ド的な物です、私が生きている限りそれは絶対に壊れません、そして私は絶対に死にません」


「そんなの分からないじゃないですか……」


 唯は涙目でそう訴えてくる、確かに未来の事を知ることはできない……ただ、確定させることはできる。


「唯、私が貴女と会ってから今まで、約束を破ったことがありましたか?」


「それは……、ないですけど……」


「私は嘘はつきません、約束は絶対守ります、ここにいる誰かがそのアクセサリーを付けている限り、絶対に私は死にません」


 そんなことを絢はにっこりと笑顔を浮かべながら言う。


(まあ、アクセサリーに仕込んだ魔法は私の命に一方的にリンクさせているので、私が死ななければ壊れませんが、私が死んでしまえば塵になってしまうんですがね……)


 一番重要なことを伝えずに、絢は唯達を安心させるために言葉を続ける。


「私は死にませんが、もしかすると私と引きはがされる様な事があるかもしれません、そんなことがあればこれを付けてください」


 絢の右手小さな宝石が付いたネックレスが乗っていた、唯はそれを絢の手の平の上から拾い上げる。


「……これは?」


 目尻を赤くしながらも多少冷静になった唯は絢に質問する。


「付けていれば私のいる方向が分かるものです」

(まあそれだけじゃないですけど……、その時が楽しみですね)


 そんなこんなで絢がクラスメイト達をあやしていると扉がノックされる。


「姫宮 絢はいるか?」


 聞こえてきた声は知らない男の声、その声に都月さんを含めたボディーガードの人達が警戒しだす。

 絢はまっすぐと扉に向かっていきその扉を開ける、そこに居たのは今まで見たことのない騎士の姿だった。


「マッド様とジムラド様がお呼びです、お連れいたします」


「はい。

 都月さん、唯達をよろしく頼みます」


「かしこまりました」


 即答でその騎士についていくことに決めた絢は都月に唯達の護衛を命じ、その依頼を都月は快く受け入れる。

 騎士はその光景を見ることなくスタスタと歩いて行ってしまった、絢もその騎士の後についていく。


 しばらく歩くと、大きな扉にたどり着く、大きいといっても絢目線で大きいだけで絢より50センチは身長の高い騎士よりも、さらに50センチが高い程度の扉だ、騎士が扉を開けると、そこには騎士が言った通りジムラドとマッドの姿があった。


「もう行ってよいぞ」


 そのジムラドの言葉に「ハッッ」と勢い良く返事をした騎士は、そのまま扉を背にして甲冑の音を響かせながら歩いて行った。


「よう来たのぅ」


「呼んだのは貴方達でしょう」


 絢はジムラドに先ほど唯達に向けていた顔からは考えられないほどの真顔で辛辣な返事をする。


「ふぉふぉ、言うのぉ」


「本当に、この爺さんにそんなことを言えるのはお前位だぜ……」


「後でこやつに箸置きでもするかのぅ」


 ジムラドは老人扱いするマッドに意地悪そうな表情を向けてそんなことを言うが、すぐに調子に取り戻して「さてと」と一つ前置きをして続きを話す。


「図書室に行こうかのう」


「転移しますか?」


 その言葉にまたジムラドがニヤリとする。


「それでは行けん図書室じゃ」


 そう言うとジムラドが一度指を鳴らし、それと同時に先ほどの扉に魔力が迸る。

 その直後、勝手に扉が開くとそこは先ほどの廊下ではなく、立方体の本棚が浮かび扉から見える光景だけでこの城にある図書室よりも遥かに大量の本が見える


「あれは儂が貯めた蔵書じゃ、直ぐに読ませてやるから安心せい」


 そう言ったジムラドとその隣にいたマッドは既に扉に向かって歩き出していた、絢も扉の中に入る。

 中は扉の後ろ側にも広がった広大図書室が次回を埋め尽くし、絢にとってお宝の山となる本が非常に鮮度の高い状態を保って保存されていた。


「どうじゃ、凄いじゃろ」


「はい本当に……」


 それを回答するころには、既に絢は近くから本を一冊取り出しパラパラと捲り始めていた。


「そうがっつくな、まずはこれを読むと良い……」


「それは?」


「ここへの来くる法方が書かれた本じゃ、それを読まんと此処には来れんぞ」


 それを聞くと、先ほど手に取り既に読み切った本を元の場所に戻し、ジムラドから本を受け取り読み始める。

 その姿を見たジムラドは、もしかすると聞いていないかもしれないと思いながら話を続ける。


「お主をここへ呼んだのは訓練の卒業を告げるためじゃ、後は何か行動を命じられるまで、好きにしておると良い」


「ここの本は読んでいいですか?」


 聞いているとは思っていなかったジムラドは目を大きく開き驚くが、直ぐに返事をする。


「もちろんじゃ、寧ろ全て読み切り儂と語り合えるくらいになってくれ」


 そうして、一つの棚の本を全て読み切った後、部屋に置いてきた唯達を思い出した絢は、ジムラド達にお別れの挨拶を告げ部屋に戻っていった、部屋で再び唯達に心配されていたのはまた別の話である。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


久しぶりの連日投稿です……疲れました……。

絢ちゃんは何でもできちゃうのです、今回出てきた魔法は空間魔法、想像魔法の二つです。

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