刷り込み悪魔の魔法術式

端谷 えむてー

第1話 初夏の話

 夏……。といっても初夏であるが……。

 この日から、この夏がこの人生の中で忘れられない貴重な夏になることはこの時はとても信じられなかった。

 いや、まず万人からすれば、高校生の夏なだけで貴重という声もあるだろう。

 しかし、俺からすればそんなことはないと思っていた。

 ただ、自堕落な夏を送ると思っていた。


 しかし、その予想はことごとく外れたということだ。 


*****


 快晴の空。

 直射日光がジリジリとあたり続けるこんな日は自転車通学の俺にとっては苦行そのものであった。


「とりあえず、さっさと家に帰らないと……」


 帰宅部エース(無論自称)である俺の放課後の絶対的任務は最速で帰宅し、素晴らしき放課後ティータイム(お茶会ではない。ただの自堕落タイム)を謳歌することただそれだけだ。


 それのためだったら、命をも焦がす覚悟である。


 さて、ここでいきなり話が変わるが、皆は悪魔などのそんな存在は信じる方であろうか。これを宇宙人だとすれば「ああ、信じるさ」と挙手する者が一定数現れるのかもしれない。宇宙は無限に広がっているから、そのなかで地球のみに生命体がいるとはとても考えられない。この理由があるから、俺は宇宙人は信じるタチだ。


しかしながら、悪魔はどうだ?童話やファンタジー小説等ではとても馴染みのある存在ではあるが、それが本当に存在しているかと言われたら、流石に俺は「NO」と答えるであろう。どうも、彼らにはリアリティがないのだ。

 彼らは何処に住んでいるだろうか?地獄か?地獄という空間も存在するか否かを論争する事態になるのだから、宇宙人に比べリアリティに劣るのは当然であろう。


 まぁ、そんなわけで俺は悪魔という存在を現実的に信じてなんか断じていなかった。

 しかし、そんな考えはこの夏に覆されることになる。


 前置きはここまでにしておくか。


 時は初夏。初夏と言ったら初夏。分からんが6月頃であろう。

 6月のくせして雨なんてものは降らず……。まぁ雨なんて降った方が雨具を着なければならないし、それによって蒸し蒸しするしでいいことはないのであるが、しかし、直射日光に晒されるのは嫌だ。しかし、俺はこの6月。日光を浴び、夏早々しっかり焼けた。


 風呂に入る際、服が被っている部分だけ白い自らの身体を見ると、少しばかりの嫌悪感が湧く。しかし、俺は美容に気をつかう性格ではないから特に気にはしないのであるが。


 まあ、とにかく俺は夏が嫌いだ。夏休みは一才外出することは控えよう。俺は部活は帰宅部であり、塾等にも入ってなどいないからな。


 塾でも入って夏休み中に自分の学力でも上げておけ、塾はクーラーガンガンで涼しいのであるし。などと言う真面目君がいるかもしれないが、俺はとてもそんな夏休みを送るつまりはさらさらない。

 勉強は嫌いな方ではないのだ。新たな知識を広げていくことは俺にとってはとても趣き深い行為だと思っている。だから塾に通うことも苦ではないのだ。

 しかし、俺は外出は嫌いだ。つまり行き来が嫌で嫌で仕方がないのだ。だから休暇中の勉学は家の自主で行うつもりである。勉強をすると言っているだけでも見習ってほしい。


 しかし、まだ夏休みは遠い時の話。

 これから話すのはそんな時期からの話である。


 というわけで帰宅の時間だ。俺が最も真剣な顔をする時間である。

 この日もツールドフランスの選手かと言わせるほどの空気抵抗を減らした体制でママチャリを乗り回していた。

 その時、何か邪気のようなものを感じたのだ。

 とても、日常では感じることのない、異様な空気である。


 そんなものに何故か好奇心が湧き、普段は信号以外で止めることのない自転車にブレーキをかけた。


「なんだ……?これ」


 その邪気。瘴気とも言うか。

 それの出所は薄暗い路地裏からだった。

 もしここが日本でなかったら、ここに入っていたら生きては帰ってこれなかっただろう。しかし、俺は自らの好奇心に負けた。別に俺は特別好奇心旺盛というわけではないのだが。

 

 こんな現実的じゃない事に遭遇するとやはり気になってしまう。

 恐らく、この真実をここで判明させておかなければ、この生涯、この瘴気の正体をずっと疑問に思ってしまう。

 勉学を多少嗜む学生にとって解決しない疑問というのはやはりスッキリしないものだ。


 忍足でその細長い道を進む……。


 奥に……。奥に進むごとにその瘴気が激しくなる……。

 禍々しい。


 進むと裏路地道の終着点へと到着した。

 そこには、あった。明らかにこれ瘴気の出元が。


 その形状はまるで卵のようで、サイズは子供一人が入るくらいの大きさ。大きい。

 僕がその卵のようなものに近づくと、それはカタカタと動き始めた。

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