俺に課された青春ラブコメは、何故か爆発をともなう

途上の土

プロローグ


 俺は屋上から、赤色に呑み込まれる光景をじっと眺めていた。

 沈みかけの陽の光に、校舎の外壁や側溝の石蓋、薄黄色の屋外蛇口台、学園の全てが赤く照らされて、一日の終わり——いや、夏休みの終わりを知らせているように思えた。


 校舎第二棟からは、遠目にも職員室の様子がよく見える。教師はまだ何人か残っているようだ。

 俺はトランシーバーのプレスボタンを押しながらマイクを口に近付けた。


「こちら蒼井、各局、設置状況を報告しろ。どうぞ」


 プレスボタンを離して、しばらくしてから、ザー、っとトランシーバーがノイズ音を立て、そこに上塗りするように声を受信する。


「こちら体育倉庫。跳び箱の中よね? 設置完了っと。どうぞ」


 またノイズが走る。


「こちら部室棟。こっちもオーケーだ。過去のトロフィーとかは避難させといたぜ。どうぞ」


 立て続けに2つの報告が届いた。

 ソラは、屋上東側のフェンスまで移動し、残る旧校舎に目を向ける。

 旧校舎は不気味に赤く輝き、俺を待ち構えていたかのように、堅牢に佇んでいた。

 夕日は最後の陽の欠片を少しずつ面積を狭めながら沈んでいく。今日という日が終わりに向かう。


 夏が終わり、自由が終わり、青春が終わり、恋が終わり……。

 明日8月31日、たくさんの終焉しゅうえんが降り注ぐ。


 俺たちは、この夏、もう一つ、終わらせなきゃならないものがある。


 トランシーバーがザザー、とまたノイズを拾った。


「こちら旧校舎です。設置完了。いつでもいけますよぉ。どうぞぉ」


 気の抜けた最後の報告を聞き終えてから、俺はまたトランシーバーで各メンバーに呼びかけた。


「こちら蒼井。皆、ご苦労。予定どおり撤収してくれ」


 俺はトランシーバーの電源を切ろうとして、ふと思い立ち、再びマイクを口に寄せた。


「俺たちで全てぶっ壊すぞ。この学校の腐ったうみを」


 返答を待たずに俺は電源を切った。

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