イクスストーン

アンドリウス

第1話 転校生


かつて戦争があった。

地球の外からやってきた生命体「壊獣」と人類の。

壊獣の圧倒的な力に誰もが敗北すると思っていた。しかしその戦争は一人のヒーローによって人類の勝利に終わる。

その名は「イクス」人類史に残るたった一人の英雄である。





「宏樹はヒーローなんだから私を、みんなを守ってくれるよね?」


ガバァッと慌てて体を起こす。


「またか‥‥」


最近見たくない夢を見る機会が多い気がする。


すごい汗をかいていたので、シャワーを浴び、学校に行く支度をする。


いつも通りの朝だ。


「今日もいつも通りの一日になりますように」


そう願い、登校する。




キーンコーンカーンコーン


ベルが鳴り、HRが始まる、いつも通りの光景だ。

と、思ったがいつもより教室が騒がしい気がする。周りのざわつきに耳を傾けてみると、


「知ってるか、今日転校生が来るらしいぜ!」


「まじかよ!男?女?」


「それが女らしいぜ!」


「うひょー!」


などという声が聞こえてくる。

なるほど通りでいつもより騒がしいわけだ。


確かに転校生というのは学校の一大イベントであるが、そんなことで俺の平穏の心は動かない。

学校生活なんていつも通りが一番なのだ。


ガラガラッ


ドアが開き先生が入ってくる。


「静かにしろー、今日は転校生の紹介をするぞー」


そして教室に入ってきたのは見慣れない黒髪の女子生徒、おそらく転校生だろう。


「浅田水樹です。よろしくお願いします」


と、その女子生徒は凛々しく自己紹介をした。

美しい顔立ちの転校生に教室はざわつきを隠せていない。

だが、俺は違う。いくら顔の良い女が転校してこようとも俺の「いつも通り」は崩れない。

そう、崩れないはずだったのだ、先生がその一言を言うまでは。


「なんと浅田さんは「イクスストーン」に選ばれたプロヒーローだぞー。俺よりも稼いでるかもな、ガハハ」


ドクンッと動悸がした。「イクスストーン」、「ヒーロー」俺が苦手な単語が並べられたからだ。

しかも転校生はプロヒーロー。


「「まじか!すげぇ‥‥」」


教室は盛り上がる反面俺は少し嫌な汗をかいてしまう。


「席は‥‥そうだな峰田の隣が空いてるからそこにしてくれ」


よりにもよって俺の隣かよ!

どんどん俺の平穏の心が乱されていく。


「よろしく、峰田君」


「えっよ、よろしく‥‥」


「体調でもわるいの?」


「いや!決してそんなことは」


「‥‥?まぁ、よろしくね」


しまった、明らかに挙動不審なあいさつだった。変な奴だと思われただろうなぁ‥‥。


まぁあんまり関わってくれない方が俺としてもありがたいんだが。




キーンコーンカーンコーン


終業のベルがなり、各自帰りの支度を始める。


今日は疲れたなぁ‥‥。

チラッと隣の美少女転校生の方を見る。


頭脳明晰、運動神経抜群、おまけにプロヒーローときたもんだ。


普通の男子学生なら隣の席で喜ぶべきことなんだろうけど‥‥。


「峰田君」


「な、何かな」


急に話しかけられてびっくりする。


「今日の帰り少し時間あるかしら」


「え」



いつもの時間、いつもの帰り道。

しかしいつも通りじゃないことが一つ。

美少女転校生の浅田水樹と一緒に帰ってることだ。

何を話せばいいんだ‥‥? 

と思考を巡らせていると向こうから切り出してきた。


「峰田君、あなた「選ばれてる」でしょ?」


しかも一番聞かれたくないことを。


「なんでそう思った?」


「私ぐらいのプロヒーローになるとね、イクスストーンの気配を感じ取れるの。だからあなたの隣の席に座った時に驚いたわ」


「‥‥‥。」


そうかバレてたんだな。

俺が黙ったのも構わず彼女は続ける。


「あなたその感じイクスストーンに選ばれていながらヒーローをやっていないわけね」


イクスストーン、かの英雄イクスが残したその力が宿っている石。その石に選ばれた人間は通常の人間を遥かに超える力を持つヒーローに変身できる。普通イクスストーンに選ばれた人間はヒーローとして戦うのがこの世界では常識だ。


「‥‥悪いか?」


「少なくとも私はそう思う。だって誰かを守れる力があるのにあなたは誰も守ろうとしないわけでしょ?それって見殺しと変わらないじゃない」


「守れる力?違うよ俺にとってこれは何かを壊す力でしかない!俺はイクスストーンに選ばれたせいで、大切な人も家族も何も守れなかった!」


ぶぉーーーーーーん!

ピリリリリリリリリ!


その時、2つのサイレンが響いた。

一つは街の避難警告、そしてもう一つは、


「こんな街中で壊獣が出現‥‥⁉︎急がなきゃ‼︎」


彼女の持っていたレーダー的なものの音だった。


「話は後よ、峰田君あなたも避難しなさい!」


「お前は‥‥?」


「私?私はプロヒーローよ戦いにいくにきまってるじゃない」


すると彼女はイクスストーンを構え、


「変身!」


純白のマントに身を包みそのまま文字通り飛んでいってしまった。



ドシーーーン


地面が揺れる


「この揺れ‥‥壊獣の場所相当近いぞ!」


そう、英雄イクスが力を残したのなら壊獣もその力を残していった。

こうして度々かの戦争の壊獣の力の余波が形を成し現れるのだ。


でもこんな人が多い街中に現れるなんて‥‥!

学校からもそう離れてないのに‥‥。

そうだ学校だ!ここの地域の避難場所は学校だったはず。


俺は揺れる地面に耐えながら学校を目指す。


途中、学校とは逆の方向に走ってく男子生徒がいた。


「おい!そっちは学校と逆方向だぞ!」


すると、その男子生徒は走りながら、


「ちげぇよ!壊獣が学校の方にむかってきてるんだよ!しかも一体じゃない、何体もいるんだよ!壊獣が‼︎」


壊獣が学校に向かってる?

何体もいる?


基本壊獣に意思はなく、周辺を暴れるだけで出現しても1.2体なのが常識なはず。


それが明確に学校に向かっていて、何体もいるなんて‥‥どう言うことだ?


学校‥‥、指定避難場所‥‥、人が集まる‥‥


嫌な予感がする!

俺もここから、学校の近くから離れなければ!


その時心の中で声がした、


(宏樹はヒーローなんだから私を、みんなを守ってくれるよね? )


いつも見る悪夢のセリフ、俺が変身できなくなった呪いのセリフ、そして俺が守れなかった大切な人の‥‥


(だって誰かを守れる力があるのにあなたは誰も守ろうとしないわけでしょ?それって見殺しと変わらないじゃない)


さっき転校生に言われたセリフが蘇る。


見殺し‥‥見殺し‥‥


「あぁ!くそっ!」


心がムシャクシャする、頭がぐるぐるする、

でも足だけは確実に学校へと走っていた。



「なんだよ‥‥これ‥?」


学校は酷い有様だった。


壊獣に破壊されたであろう瓦礫の山、

いつも通りの学校の風景はそこにはない。

そして何よりも


死体、死体、死体の山。

壊獣の、人間の死体の山。


誰か生き残ってる奴はいないのか!


すると中庭のど真ん中、白いマントを赤く染めた転校生が壊獣に囲まれていた。

彼女は傷だらけの血まみれ、そして壊獣のトドメの一撃が!


「危ない!」


間一髪で彼女を群れから助け出す。

壊獣が俺に気付き、こちらによってくる。


「何してるの、逃げなさいっていったでしょ‥‥ここは任せて‥‥はやく‥‥」


彼女はふらつきながら立ち上がってそういった。


「お前言ったよな、守れる力があるのに守らないのは見殺しと変わらないって」


「え」


やることは決まってる。

足りないのは覚悟だけ。


「見殺しはフランスでは犯罪なんだぜ」


イクスストーンを構える。


やっとわかった‥‥。

俺はこんなにも誰かを守りたかったんだ。



「‥‥変‥‥身‼︎」

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イクスストーン アンドリウス @andoriusu57

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