アウタースペースプリンセス  ~うらぶれ星と星屑の悪魔~

海星めりい

プロローグ Q 出航するにはまず何が必要ですか? A 艦です! 1


「ここまでは予定通りですね……さて、ここからはどうでしょうか」


 キョロキョロとあたりを見渡して、誰もいないか確認します。

 誰もいないようですね。

 冷たい金属製の通路はその色合いのように無機質で静かなものでした。

 帝国の施設の一つとはいえ、中央に位置するこの施設。外からの侵入は考えていても内からの侵入はあまり警戒されていないのは予想通りでしたね。


 まあ、それも当然でしょう。この星に不穏分子など存在するはずもないのですから。

 帝国がただの魔法大国として名をはせていたのも今は昔。

 時代は移り変わり、魔法と科学を融合させた魔導機関の力によって、他の大陸を統一した帝国は次なる目標を宇宙そらへと定めました。


『UNM《ユニファーマギ》宇宙帝国』と名を変えた帝国は銀河系をも手中に収めたのでした~。めでたしめでたし、となればよかったのですが、そううまくは行きません。


 銀河系の広さはとても広大なのです。

 いかに銀河を統一した宇宙帝国でも全ての星系を完全に管理できているわけではありません。

 ここは首都星ですから、百パーセント管理できていると言い切れるわけですが、


「だからこそ、私みたいな存在がいることは想定外のはずですね」


 私――エルルリィ・フォン・ウェアーデン第十王女――は奥へと小走りで駆け抜けていきます。

 本当なら、走って移動したいところですが、金属製の通路は思いっきり走ると音が鳴り響いてしまいます。

 なので、小走りをしているというわけですね。とはいえ、これでも音がならないように結構気を使いますね。

 ひょっとしてこれを見越して、金属製の通路にしているとかでしょうか?

 そんなわけ無いですね。耐久性の問題でしょう。


「流石に目的地まで素通りできるわけはありませんか」


 通路を奥深くへと進んでいくと、私の行く手を阻むように魔力の塊が通路を塞いでいました。

 魔力式センサーですね。

 魔力は目に見えないし、触れもしません。そこを逆手に取って、感知システムとして利用しているのが、この魔力式センサーです。


 通路を埋め尽くしている魔力に揺らぎがあれば、そこに誰かがいるか分かる、というわけですね。

 本来なら、動力を遮断してセンサーを解除したほうがいいのでしょうが、そんなことをすれば侵入しているのがバレてしまいます。

 ですから、ここは別の方法でいきましょう。


「このタイプの魔力式センサーについての説明は嫌と言うほど三のお姉さまから、教えてもらっていますからね――まずは、このセンサーの魔力波長を調べましょうか」


 三のお姉さまはガジェットオタクとでも言えばよいのでしょうか。魔導機関について大変詳しいのです。語りだすと止まらないのが玉に瑕ですが、幼い頃から私に話しかけてくれる良いお姉さまでした。ここ最近、会ってないだけで生きていますけどね。


「ふむふむ、なるほど……なるほど。では、あとはこの魔力波長と私の魔力を同調させれば大丈夫ですね――これで私に反応しないはず……」


 さて、どうでしょうか? 私はゆっくりと歩みを進めます。

 緊張の一瞬ですが、最初の一歩目で反応しなかったということは、問題なかったということでしょう。

 三のお姉様は様々です。


『え、この魔力式センサーをごまかせるかってー? それならー、自分の魔力をセンサーの魔力と一緒にすればー、簡単だよー。そしたらー、抜けれるだろうねー。…………なーんちゃってー。んー? ちょっとー、エルルー? 聞いてるー? おーい?』


 このような感じで突破方法も教えてくれましたからね。三のお姉様に感謝を捧げておきます。ありがとうございました。

 魔力式センサーが放出する魔力の中を通り過ぎたところで、一息つきます。

 魔力の同調に思いのほか気が張っていたようです。


 ですが、ここまでくれば――と、思ったところで、話し声と足音が聞こえてきました。

 巡回の警備でしょうか。予定にはなかったはずですが……。

 ひとまず、目的の方向とは違うので物陰に隠れて様子を伺いましょう。

 こちらに来るようならば、少々手荒になるかもしれませんが……できれば、したくないところです。面倒ですからね。


「それにしても、あの艦いつまでここに置いておくつもりなんだ?」

「もう四日だっけか? 予定じゃ来た初日には稼働試験って話だったがなぁ」


「何が起きたのかは隊長もわからんらしい。下には詳しいことは教えないつもりみたいだな」

「マジかよ。シフトも勝手に変更になるし、『実験艦』なんてろくなもんじゃねえな」


「そういうなよ。普段はここの警備なんて楽してる方なんだから」

「そうなんだけどな」


 などと、会話をしながら数人の兵士が歩いて行きました。

 どうやら、こちらには気づかなかったようですね。

 気づかれなかったのはよかったのですが、あの兵士たちちょっと気を抜き過ぎでは?

 五のお姉様に見つかれば、地獄の訓練へと招待されていたことでしょうね。


 まあ、今回はそれで助かったので良しとしましょうか。

 ここまで来て引き返す気もありませんし、シフトの変更は気になりますが、焦って計画を変更してもいいことはありません。予定通りに行きましょう。

 それにしても、


「『実験艦』ですか……」


 私は一人そうつぶやきながら、目的地であるドックへ向けて再び足を進めるのでした。

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