(2)――「なあ、ライ。ここに隠しておいたクッキーを知らんか?」
暗闇の森という環境が体質に合っていたのか、少年は初めて会ったときからは信じられないほど健やかに成長していった。
「なあ、ライ。ここに隠しておいたクッキーを知らんか?」
「し、知らない……」
「嘘を吐くな。口の端に、食べかすがついているぞ」
「食べてねえってば! あんな不味いクッキー、誰が喰うかよっ!」
「やはりな。随分と前に隠しておいたのを今ほど思い出したから、捨てようと思ったんだが」
「……うげえ」
少年は、目を見張るほど逞しくなっていった。
いつの日か魔女をこの手で殺す為に、強く、強く。
「おいネリネ、何度言ったらわかるんだよ。一人でふらふら散歩に行くんじゃねえって。危ねえだろ」
「私に指図するな。それに、この森は私の庭のようなものなんだ。危ないことなどあるものか」
「それは、あんたが死なない身体だからってだけで、危ない目には何度も遭ってるだろ。この間、人喰い花に両足を喰われて数日帰ってこられなかったのは、どこの魔女だ?」
「……ぐぬぬ」
「あの人喰い花を僕に退治してもらって、僕におんぶされて帰ってきたのは、どこの魔女かって訊いてるんだが?」
「う、うるさいうるさい!」
「全くもう。僕が殺す前に死ぬんじゃねえぞ。長年の努力が無駄になるだろ」
「たかだか十年ほどの鍛錬で、戯言を吐かすな。それに、あの程度で死ぬ私ではない。あの花には前にも何度か喰われかけてるからな」
「それなら良いけど……。うん? 良いのか?」
「なんだ、ライ。お前、私の身を心配してくれているのか?」
「してねえよ! 誰がするか、そんなもんっ!」
騒がしくも満たされた日常だと感じていたのは、魔女か、少年か。或いは、両方か。
それは神のみぞ知る話である。
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