どん引きの神様

ピピ

因習村

 此処はとある村。

 あることを除き極々普通の村である。

 そんなこの村――此岸者村しがんしゃむらは今日、特別な日であった。


――おい、儀式の用意は出来たか?

―――ええ、後はーーだけよ

――――そうか…それが一番の問題だが…


 村人達は話す。儀式について。

 再三言うようだが今日は村にとって特別な日だった。


 神に贄を捧げるという、特別な日。


 村人達はその贄を決めかねていたのだ。


何故なら――



「――私が生け贄になるって言ってるじゃん!」

「いいや、お前が行くぐらいなら俺が行く!」


「俺だーー!!」

「アタシが行く!」


「オレだ!!」

「私!!」


「お・れ・だ!!」

「わ・た・し!!」


 生け贄には若い層の中から選ばれることが決まっている。そしてそんな若い層が誰が生け贄になるかで揉めていた。


「困ったわぁ」


 壮年の女性が頬に手を添えながら溜め息を吐いた。


「代われるものなら代わりたいけれど、こんなおばさんじゃ神様も受け取って貰えないわよね~」

「ワシなんか男で年くってるからもっと可能性低いじゃろうな」


 壮年の二人は若い層の言い合いを眺めながら言葉を交わす。


 そして当日中にも決まらず揉めたまま時間は来た。


シャラン‥ シャラン‥ シャラン‥


 鈴の音が響く。そして姿の見えない神様が儀式の為に用意された飾られた台に現れる。影も光もない。にもかかわらず存在感だけが神様が居ることを知らせる。


『生け贄を』


 神様は次の瞬間その見えない姿の下で目を見開くような気配を発した。


 ざっ‥と複数人が着飾った状態で神様の前で頭を垂れる。


「この者たちは自ら望んで来たんです。どうかお納め下さい」


 壮年の男は若者たちの後ろから声を掛ける。


『……1人で十分だが』


 感情の籠もっていない声。

 その言葉に絶望の顔をする生け贄の者達。


 そう、彼らは決まらぬなら皆で逝こうという話になったのだ。


 そんな彼らを可笑しいと言い出す者は居らず、むしろ羨ましいなどと零す始末。


 神様は来る村を間違えただろうかと疑問を持った。


 神様は数年事にこの村へと来ていたが最近来たときはこんな感じではなく、むしろ嫌々生け贄を捧げるような感じだった筈だと記憶していた。


 それが普通だった。

 それが今じゃコレだ。なにがあったというんだ。

 神様は静かに混乱した。


 神様は生け贄を数年に一度貰う代わりに恵みの雨と、福を呼び寄せることをしている。


――「「「「さあ私\オレ\オレ\アタシを!!」」」」



「「「「受け取って殺して!!」」」」


『……』


 このとき神様は見えない姿の下で動揺した。神様の心情の揺れを表すように松明の炎が大きく揺らめく。

 

『はぁ…契約を破るわけにはいかぬ。それゆえ贄は一人だ』


 契約を破れば神様にも村の民にも影響が出る。


 そのため神様は事実を言った。


 神様の同僚の邪神であれば全員もれなく貰い受ける事だろう。


 だが、この村に古くから居た神様は真面目な性格で、契約に乗っ取って生け贄は一人と決めていた。


 生け贄…もとい村人たちは神様の正論に思わず苦いものを噛んだかのような顔をする。


『…死にたいのなら勝手に死ねばいいではないか』


 神様はそんな村人たちを見て言った。


「死ぬならば、意味のある死を迎えたいのです」


 村人たちは一度顔を見合わせて言った。


 村人たちの心は一緒であった。

 死にたい気持ちもあるが、死ぬことが怖いと。


 だが自身が死ぬことに意味があったのならどうだろう。


 自分一つの命で村が存続する。

 想像上だけだが、この上ないやりがいを感じた。


 まさに二つの願望を叶えられて一石二鳥。


 唯一の盲点としては、複数人の生け贄志願者が居たことだ。

 この時間になるまでに揉めに揉めていた。


 後一歩で殴り合いに発展するところであった。


 流石にそんなことになる前に村長が、生け贄に傷が付いたら駄目だろと言ったことにより事態は収まった…かに思えた。


 むしろ頭の回転が速い者が即座に動き他の生け贄志願者に殴りかかろうとした。他に傷が付けば自分以外行くことが出来ないだろうと思ったらしい。


 しかし寸前でムキムキマッチョの村長が止めに入り、生け贄志願者達を一喝し、大人しくさせた。


 ムキムキマッチョの村長はこの村で唯一、自殺の念を抱いていなかった。そのため自殺志願者達から自分のライバルではないと謎の信頼を受けていた。


 神様はちょっと神の力的なものでこれまで村であったことを視た。


 そしてこの村で唯一の良心が村長だけであることに頭を抱え、それと共にこの村の長まで自殺願望が無くてよかったと思った。いや、大多数が問題を抱えているため良くはないのだが。


『…では来年までに、二人の贄を決めろ。一年待つ分一人追加だ』


 その言葉に村人たちの間でどよめきが走る。


 そしてすかさず村長が了解したことを伝える。


 村長からすれば、贄が決まっていないだけでも胃が痛くなるような気持ちになるし、いつ神様が怒って村を潰してしまわないかで不安だった。


 けれどもこの状況を怒るどころか飲み込んで、最良の案を出してくれた神様に感謝した。


『来年。今日と同じ日にまた来よう』


 そう言って神様は鈴の音を鳴らしながら去って行った。



※残酷描写あり(?)+胸糞(?)↓


 その後。ムキムキマッチョの村長が揉めていた連中に拳骨を落とし、来年贄を出す人物を決める大会を開き、色々戦って決着がつかずに殺人鬼が発生。そして無差別に村人たちは殺されていき、村長が諸手をあげて殺人鬼を命を賭して相打ちで死す。その事に悲しんだ残された村人たちは命の大切さを学び、再び贄を出すという問題に直面。神様がやってきて自分の命を差し出すのが嫌になった村人たちは、すでに死んでしまった村長と殺人鬼は勿論のこと、既に事切れた死体を差し出して難を逃れようとした。けれどそれに激怒した神様は村のそばにある山を崩して土砂崩れを起こして村人たちを殺し、自身のやしろごと全てを破壊した。元から姿の見えない神様は一人、既に事切れていた村人たちのそばにずっと居り、自分ごと村を埋めたのだった。



おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どん引きの神様 ピピ @Kukkru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ