第16話 6月28日 - 若者のすべて

門司港の夜は、関門海峡に映る灯りが星空のようにきらめく、静かで美しい時間だった。夜の23時、FM門司港の小さなスタジオでも、佐藤美咲の優しい声が響く時がやってくる。「ハートステーション」の放送が始まると、街の片隅でラジオを聴く人々の心が美咲の声に包まれる。


美咲はショートカットの髪が自然なウェーブを描き、ほんのりと花の香りが漂っていた。彼女の香水は、ラベンダーとジャスミンの優しいブレンドで、スタジオに心地よいリラックスした雰囲気を作り出していた。茶色の大きな瞳でリスナーからの手紙を確認し、マイクの前に座り直した彼女は、深呼吸をして放送を始める準備を整えた。


「皆さん、こんばんは。こちらはFM門司港の『ハートステーション』、パーソナリティの佐藤美咲です。今日は、リスナーのペンネーム『夕暮れの風』さんからのリクエストをお届けします。」


彼女は少し微笑みながら続けた。「『夕暮れの風』さんは、フジファブリックの『若者のすべて』が大好きだそうです。この曲は、夏の終わりの切なさと、若者たちの青春の一瞬を描いた名曲です。」


美咲は机の上に置かれた手紙を手に取り、読み始めた。


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「美咲さん、


こんばんは。私は門司港に住むペンネーム『夕暮れの風』と申します。今日は、フジファブリックの『若者のすべて』をリクエストさせていただきたいです。この曲は、私が高校生の頃に初めて聴いて、その美しさと切なさに心を打たれました。特に、夏の終わりに友人と過ごした思い出が蘇るので、この曲を聴くといつも胸が締め付けられます。」


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美咲は、『夕暮れの風』さんの手紙を読みながら、その思いに心を寄せた。「それでは、『夕暮れの風』さんのリクエストにお応えして、フジファブリックの『若者のすべて』をお聴きください。」


彼女は再生ボタンを押し、スタジオ内に「若者のすべて」のメロディが流れ始めた。その曲が流れる中、美咲は『夕暮れの風』さんの手紙をじっくりと読み返していた。彼の言葉一つ一つに、夏の終わりと青春の切なさが込められていた。


曲が終わり、美咲は微笑みながらリスナーに語りかけた。「さて、今日は少しユーモアを交えて、夏の思い出にまつわる面白いエピソードを一つお届けします。皆さん、夏休みの終わりって、どんな思い出がありますか?例えば、私が高校生の時、友達と一緒に海に行ったのですが、あまりにも楽しくて気づいたら全員真っ赤に日焼けしてしまったんです。」


美咲は楽しそうに話し続けた。「その後、みんなで痛みに耐えながら宿題を片付けたのも良い思い出です。夏の終わりには、そんな笑えるエピソードもたくさんありますよね。」


美咲は少し感傷的なトーンに戻り、もう一つのエピソードを紹介した。「そして、今日はリスナーのペンネーム『ひまわり』さんから、少し苦い初恋の思い出をお届けします。」


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「美咲さん、


こんばんは。私はペンネーム『ひまわり』と申します。今日は、私の初恋の思い出をシェアさせていただきたくて手紙を書きました。


高校生の夏、私は好きな人を花火大会にデートに誘いました。緊張しながらも、彼がOKしてくれて、その日を待ち遠しく感じました。しかし、当日、彼は友達と来ていて、私たちだけの特別な時間にはならなかったんです。花火を見ながら、一緒にいられるだけで幸せだと思いながらも、どこか切ない気持ちが胸に残りました。」


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美咲は、『ひまわり』さんの手紙を読みながら、その初恋の甘酸っぱい思い出に心を寄せた。「皆さん、こうした初恋の思い出って、どれだけ時間が経っても心に残るものですよね。そんな思い出と共に、フジファブリックの『若者のすべて』をもう一度お聴きいただければと思います。」


美咲は再び手紙に戻り、リスナーからのメッセージを紹介した。「今、リスナーの方から『ひまわり』さんへの温かいメッセージが届いています。その中から一つご紹介します。」


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「『ひまわり』さん、


あなたのお話を聴いて、とても感動しました。私も高校生の頃、初恋の人を花火大会に誘ったことがあります。結果は似たようなものでしたが、その時の切ない気持ちが今でも鮮明に覚えています。あなたのお話をシェアしてくださって、ありがとうございました。


リスナーのペンネーム『夏の記憶』」


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美咲はリスナーの優しい言葉を読み上げながら、心が温かくなった。リスナーたちの思いやりのあるメッセージは、『ひまわり』さんに届き、彼女の心をさらに温かく包んでいた。


その夜の放送が終わり、美咲はスタジオを出るときに、心の中で新しいエッセンスを考えていた。彼女はリスナーの音楽に救われた経験をテーマに、毎日の放送で少しずつ紹介することにした。これにより、リスナーたちが音楽の力を感じやすくなるだろうと考えた。


翌日、『夕暮れの風』さんはラジオを聴きながら、フジファブリックの「若者のすべて」を思い出し、再び感謝の気持ちでいっぱいになった。リスナーたちの応援メッセージは、彼にとって大きな励みとなり、音楽の力を信じる力となった。


数日後、『夕暮れの風』さんから美咲に感謝の手紙が届いた。「美咲さんのおかげで、あの曲の持つ力を再確認することができました。皆さんの温かいメッセージにも本当に感謝しています。」美咲はその手紙を読んで微笑み、ラジオパーソナリティとしての仕事の意義を改めて感じた。

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