第15話 6月27日 - 友人の猫

門司港の夜は、関門海峡に映る灯りが星空のようにきらめく、静かで美しい時間だった。夜の23時、FM門司港の小さなスタジオでも、佐藤美咲の優しい声が響く時がやってくる。「ハートステーション」の放送が始まると、街の片隅でラジオを聴く人々の心が美咲の声に包まれる。


美咲はショートカットの髪が自然なウェーブを描き、茶色の大きな瞳でリスナーからの手紙を確認していた。マイクの前に座り直した彼女は、深呼吸をして放送を始める準備を整えた。


「皆さん、こんばんは。こちらはFM門司港の『ハートステーション』、パーソナリティの佐藤美咲です。今日は、リスナーのペンネーム『星空の猫』さんからのリクエストをお届けします。」


彼女は少し微笑みながら続けた。「『星空の猫』さんは、DISH//の『猫』が大好きだそうです。この曲は、失われた愛とそれに伴う寂しさを描いた感動的な歌詞が特徴です。そして、今日はそのエピソードに少しユーモアを交えてお届けしたいと思います。」


美咲は机の上に置かれた手紙を手に取り、読み始めた。


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「美咲さん、


こんばんは。私は門司港に住むペンネーム『星空の猫』と申します。今日は、DISH//の『猫』をリクエストさせていただきたくて手紙を書きました。この曲は、私が大切にしていた猫が亡くなった時にとても支えになりました。歌詞に込められた喪失感と、それを乗り越える力強さが、私の心に深く響きました。」


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美咲は、『星空の猫』さんの手紙を読みながら、その思いに心を寄せた。「それでは、『星空の猫』さんのリクエストにお応えして、DISH//の『猫』をお聴きください。」


彼女は再生ボタンを押し、スタジオ内に「猫」のメロディが流れ始めた。その曲が流れる中、美咲は『星空の猫』さんの手紙をじっくりと読み返していた。彼女の言葉一つ一つに、喪失感とそれを乗り越える力強さが込められていた。


曲が終わり、美咲は微笑みながらリスナーに語りかけた。「さて、ここで少しユーモアを交えて、猫にまつわる面白いエピソードを一つお届けします。皆さん、猫って本当に不思議な生き物ですよね。例えば、私の友人が飼っている猫、名前は『ミケ』と言うのですが、毎朝必ず自分の顔を見て笑うんです。」


美咲は楽しそうに話し続けた。「どうやら、ミケは鏡に映った自分を見て楽しんでいるみたいです。そして、一度ミケが部屋の中を全速力で走り回って、最終的にカーテンに突進して止まったとき、友人は大笑いしてしまいました。猫って本当に予測不可能な行動をするからこそ、私たちを笑わせてくれるんですよね。」


美咲はリスナーの笑い声を想像しながら続けた。「そんなミケのユーモラスなエピソードを思い出しながら、DISH//の『猫』を聴いて、少しでも心が温まる時間を過ごしていただければと思います。」


彼女は再び手紙に戻り、リスナーからのメッセージを紹介した。「今、リスナーの方から『星空の猫』さんへの温かいメッセージが届いています。その中から一つご紹介します。」


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「『星空の猫』さん、


あなたのお話を聴いて、とても感動しました。私も以前、大切な猫を失ったことがあります。DISH//の『猫』は、その時の私の心を癒してくれました。あなたのお話をシェアしてくださって、ありがとうございました。


リスナーのペンネーム『月の光』」


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美咲はリスナーの優しい言葉を読み上げながら、心が温かくなった。リスナーたちの思いやりのあるメッセージは、『星空の猫』さんに届き、彼女の心をさらに温かく包んでいた。


その夜の放送が終わり、美咲はスタジオを出るときに、心の中で新しいエッセンスを考えていた。彼女はリスナーの音楽に救われた経験をテーマに、毎日の放送で少しずつ紹介することにした。これにより、リスナーたちが音楽の力を感じやすくなるだろうと考えた。


翌日、『星空の猫』さんはラジオを聴きながら、DISH//の「猫」を思い出し、再び感謝の気持ちでいっぱいになった。リスナーたちの応援メッセージは、彼女にとって大きな励みとなり、音楽の力を信じる力となった。


数日後、『星空の猫』さんから美咲に感謝の手紙が届いた。「美咲さんのおかげで、あの曲の持つ力を再確認することができました。皆さんの温かいメッセージにも本当に感謝しています。」美咲はその手紙を読んで微笑み、ラジオパーソナリティとしての仕事の意義を改めて感じた。


夜の放送で、美咲はリスナーに向けて語りかけた。「皆さん、いつも番組を聴いてくださってありがとうございます。私たちの声が、誰かの心に届き、少しでも元気を与えられることを願っています。」


そして美咲は、もう一つの特別なリクエストを紹介した。「さて、今日はもう一つ、特別なリクエストをお届けします。こちらは、門司港に住むリスナーのペンネーム『青い星』さんからのリクエストです。『青い星』さんは、毎晩この番組を聴きながら眠りにつくそうです。彼がリクエストしてくれた曲を、皆さんと一緒に聴いて、今日の放送を締めくくりたいと思います。」


美咲は曲を紹介し、『青い星』さんがリクエストした「星を仰ぐ」が流れた。曲が流れる中、美咲はスタジオの灯りを少し落とし、静かにリスナーに語りかけた。「それでは皆さん、今日も素敵な夜をお過ごしください。また明日、お会いしましょう。おやすみなさい。」


その夜も、門司港の街には美咲の優しい声が響き渡り、人々の心を温かく包み込んでいった。


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その後も美咲の放送は続き、多くのリスナーが彼女の声に癒され、元気をもらっていた。美咲にとって、リスナーの声に耳を傾け、その思いに寄り添うことが何よりも大切な仕事だった。彼女の声は、まるで優しい灯火のように、リスナーたちの心を照らし続けた。


毎晩23時、門司港の静かな夜に、美咲の声が響く。その声は、関門海峡の灯りとともに、リスナーたちの心に温かく届いていった。美咲の放送は、ただのラジオ番組ではなかった。それは、人々の心に寄り添い、希望と癒しを届ける小さな灯火のような存在だった。

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