前のエピソード――第6話　6月18日-雨の日の想い

門司港の夜は、関門海峡に映る灯りが星空のようにきらめき、静かな時間が流れていた。夜の23時、FM門司港の小さなスタジオに、佐藤美咲の優しい声が響く時がやってくる。「ハートステーション」の放送が始まると、街の片隅でラジオを聴く人々の心が美咲の声に包まれる。

その夜、美咲は机の上に並べられたリスナーからの手紙を一つ一つ確認していた。ショートカットの自然なウェーブがかかった髪、茶色の大きな瞳がリスナーの言葉に優しく光っている。美咲は深呼吸をして、マイクの前に座り直した。

「皆さん、こんばんは。こちらはFM門司港の『ハートステーション』、パーソナリティの佐藤美咲です。」美咲の声は穏やかで、心地よくスタジオに響いた。「今日は、夏の夜に特別な思い出を持つリスナーからのメッセージを紹介したいと思います。」

美咲は、一通の手紙を手に取った。その手紙は、夏の夜に体験した心温まるエピソードを綴ったリスナー、片山健一さんからのものだった。彼は、夏の夜に起きた思い出深い出来事を語っていた。

---

「美咲さん、

はじめまして。私は門司港に住む片山健一と申します。今日は、夏の夜にまつわる心温まるエピソードを共有させていただきたくて、手紙を書きました。

それは去年の夏の夜のことでした。私は仕事が忙しく、毎日遅くまで働いていました。その夜も、仕事を終えて家に帰る途中でした。ふと立ち寄った公園で、子どもたちが花火をして遊んでいるのを見かけました。彼らの楽しそうな笑い声が、夜の静けさに響いていました。

私がベンチに腰を下ろすと、一人の小さな男の子が近づいてきて、手持ち花火を差し出してくれました。

「一緒にやろうよ」

と言われ、私は驚きながらも、その誘いに応じました。久しぶりに手にした花火は、小さく燃え上がりながら、私の心を温かく包み込みました。

その時、一緒に花火をしていたその子の母親が近づいてきて、

「すみません、息子が突然失礼しました。でも、息子があなたと一緒に花火をしたいと言ったのは、多分あなたが少し寂しそうに見えたからかもしれません」と言いました。

その言葉に、私は心が救われる思いでした。

その夜、私は子どもたちと花火を楽しみながら、久しぶりに心から笑うことができました。夏の夜の静けさの中で、心が温かくなったひとときを思い出すと、今でも幸せな気持ちになります。

この思い出を思い出すたびに、サザンオールスターズの『真夏の果実』を聴くと、心がほっとするのです。ぜひこの曲をリクエストさせてください。

片山健一」

---

美咲は、健一さんの手紙を読みながら、彼の心温まる思い出に心を寄せた。彼女の目には、夏の夜の静けさの中で花火を楽しむ子どもたちと健一さんの姿が浮かんでいた。その情景は、美咲の心にも深く響いた。

「皆さん、今日は片山健一さんのリクエストをお届けします。健一さんは、夏の夜に特別な思い出を持っておられます。その心温まるエピソードと共に、サザンオールスターズの『真夏の果実』をお聴きください。」

美咲は再生ボタンを押し、スタジオ内に「真夏の果実」のメロディが流れ始めた。その曲が流れる中、美咲は健一さんの手紙をじっくりと読み返していた。彼の言葉一つ一つに、夏の夜の特別な情景と温かい思い出が込められていた。

曲が終わり、美咲はリスナーからのメッセージを紹介した。「今、リスナーの方から健一さんへの温かいメッセージが届いています。その中から一つご紹介します。」

---

「健一さん、

あなたのお話を聴いて、とても感動しました。夏の夜に出会った子どもたちとのひととき、本当に素敵なエピソードですね。私も夏の夜の思い出を思い出し、心が温かくなりました。あなたのお話をシェアしてくださって、ありがとうございました。

リスナーの田中美香」

---

美咲はリスナーの優しい言葉を読み上げながら、心が温かくなった。リスナーたちの思いやりのあるメッセージは、健一さんに届き、彼の心をさらに温かく包んでいた。

健一さんはラジオを聴きながら、あの夏の夜のことを思い出し、再び感謝の気持ちでいっぱいになった。リスナーたちの応援メッセージは、彼にとって大きな励みとなり、幸福な気持ちを再確認するきっかけとなった。

数日後、健一さんから美咲に感謝の手紙が届いた。「美咲さんのおかげで、あの夏の夜の思い出を再び思い出すことができました。皆さんの温かいメッセージにも本当に感謝しています。」美咲はその手紙を読んで微笑み、ラジオパーソナリティとしての仕事の意義を改めて感じた。

夜の放送で、美咲はリスナーに向けて語りかけた。「皆さん、いつも番組を聴いてくださってありがとうございます。私たちの声が、誰かの心に届き、少しでも元気を与えられることを願っています。」

そして美咲は、もう一つの特別なリクエストを紹介した。「さて、今日はもう一つ、特別なリクエストをお届けします。こちらは、門司港に住むリスナーの小林さんからのリクエストです。小林さんは、毎晩この番組を聴きながら眠りにつくそうです。彼がリクエストしてくれた曲を、皆さんと一緒に聴いて、今日の放送を締めくくりたいと思います。」

美咲は曲を紹介し、小林さんがリクエストした「サザンオールスターズ」の「涙のキッス」が流れた。曲が流れる中、美咲はスタジオの灯りを少し落とし、静かにリスナーに語りかけた。「それでは皆さん、今日も素敵な夜をお過ごしください。また明日、お会いしましょう。おやすみなさい。」

その夜も、門司港の街には美咲の優しい声が響き渡り、人々の心を温かく包み込んでいった。

---

その後も美咲の放送は続き、多くのリスナーが彼女の声に癒され、元気をもらっていた。美咲にとって、リスナーの声に耳を傾け、その思いに寄り添うことが何よりも大切な仕事だった。彼女の声は、まるで優しい灯火のように、リスナーたちの心を照らし続けた。

毎晩23時、門司港の静かな夜に、美咲の声が響く。その声は、関門海峡の灯りとともに、リスナーたちの心に温かく届いていった。美咲の放送は、ただのラジオ番組ではなかった。それは、人々の心に寄り添い、希望と癒しを届ける小さな灯火のような存在だった。