文芸部員は天を観る
鹿
お題:猫 宇宙 変身
私、文〔ふみ〕芸部員〔わざへかず〕は文芸部員である。このふざけた名前を付けた両親を殺したいほどには憎んでいるし、同時に感謝もしている。この名前のおかげで、ペンネームでもある【文芸部員】は一切疑問に思われない。だって本名だもん。
私は、天を見るのが好きだ。何故なら、この広大な宇宙の中に、私と同じ境遇の生物が幾多も居ると思うだけで、心が救われるから。一体この視界の中に、何体の文芸部員が居るんだろう?そんなことを想いながら、私は今日も学校の屋上で寝転ぶ。
私は天文部員でもある。毎日この場所を占有する権利がある。天文部員は月に一回新月の日に天体観測をするが、私は毎日この場所に通って、ふと思いついたプロットをノートパソコンに叩き込むという生活を続けている。
「って、猫?」
満月の夜の下、屋上で人間大の大の字を宇宙に映していたところ、腹部に重みを感じて下を向くと、猫が居た。薄茶色の毛並みに立派な緑色の眼を持った、可愛らしい猫ちゃん。
「かわいーねー。」
それだけ言って、撫でたりはせず、天を観る。猫は気難しい生き物だ。下手に気分を害すれば引っ掻かれてしまう。制服は割と高いし、止めておこう。
(この子とお話しできたらな…人間になって、日本語でお喋りできれば…この子も見てるはずの天について、語り合えたなら…)
目を閉じながらそんなことを考えて、そんな幻想を具体的な小説にしてやろうと思い立ち、目を開いたその時。
「…やぁ、人の子よ。」
猫娘が、私のお腹に跨っていた。薄茶色の首下まであるミドルヘアー、頭頂部から生える猫耳、薄黒い袖無しのジャケットと短パン、そして半袖の白シャツ。間違いなく、さっきの猫ちゃんだ。そう私の脳が結論を出してしまう。
「流れ星に三度願を言えば――」
「――願いは叶う。そういうことだ。」
猫ちゃんは、有名な民間伝承の続きを言った。人間以外にもこの伝承が伝わっている。そんなことに感動して、それ以上にこの猫ちゃんと話せているというただそれだけのことが嬉しくって、私は目を輝かせる。
「あなた、名前は?」
私は、上半身を少しだけ傾けて、猫ちゃんに尋ねる。
「天〔そら〕。お主は?」
「文〔ふみ〕。よろしく!天!」
これが、私達の出会い。これが、天の贈り物。
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