オルレアの咲く頃に ~恋をあきらめた病弱令嬢、思いきって残虐王に告白します!~

水奈川葵

プロローグ

 白い花がこぼれるように咲くサンザシの木の下で、その人はぼんやりと立っていた。

 雨上がりのサンザシは、葉も花も、しずくを含んでキラキラと輝いている。

 美しいその情景にみとれているのかと思ったけれど、それにしては表情が暗かった。暗いというか、無表情だった。


 強い風が吹いて、サンザシの葉が揺れると、雫が飛び散る。


 チャコールグレーの髪に、キラキラと光る雫が降り注いで、まるで妖精の粉をまぶされたかのようになった。けれど彼の顔は相変わらず静かで、何を考えているのかわからない。


 視線を感じた彼がこちらを向く。


 この国ではめずらしい琥珀こはくの瞳。冴えるような白皙はくせきの肌に、目鼻立ちのくっきりとした端整な顔立ち。

 昔、絵本で見た美しい王子様のようだった。


「何の用だ?」


 横柄に尋ねられて、私はようやく我に返った。

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