~続・ハリー・ポッターの世界~(『夢時代』より)

天川裕司

~続・ハリー・ポッターの世界~(『夢時代』より)

~続・ハリー・ポッターの世界~

 唐突な曇り空の下で赤いジャングルに囲まれた無数のパラダイスを俺とネイロンとは知り、突拍子も無い北風に頬を程好く煽られて居ながら〝今日の焼肉は如何しようか?何処でやろうか?皆で以て静かな丘の上へでも登って食べようか?…〟等と散々言い散らしてから又胡散霧散に咲き乱れた赤や青、白、に咲く蓮華の草花を見つつも遠い宇宙から吹く風はそれでも緩やかである。白紙の内に恐らく一人で満面の笑みを投げ掛けては自分の傍らに咲いた淡く黄色い伝統の一々が仄かに何処かへ消される迄の数時間、もう疾(と)っくに終わった現実のドラマを追う事をそれでも止(や)めようとはせず一目散に自分の夢(ループ)の内へと駆け込む独り善がりな革命者に成ろうと、あのでぶっちょは確信して居た。恐らく俺は又イギリスか何処か、中世の頃に程好く咲き乱れて明かりを数々の建物の尖塔に放ち、古めかしく気障に並べられたゴシックが奏でた夢の穂先を巧く摘まめる国へと身を移し終えて居た事は既に承知して在り、あの風邪流行る古木が立った古めかしく荘厳を縁取り吸収せられた昔の丘上へと躍起に成って駆けてく様(よう)であった。旧友達が仄かにその血肉が内から落ちて行く赤いワインの様な水が入れられたグラスを各々の掌へと遣り、しっかりとその瞼は太陽とも白雲とも知られずひっそり浮んだ灰色の海原へ凝視を遣って、所々に空いた己の夢の流動が又ひっそり侵入する事が出来る程の小さな洞穴の様な穴を探し求めて、凄惨足る諸行に日々を従事させて居る事を胸に一人小さなちびは、何処からともなく駆け込んだ無造の掟と共にその焼噛(やっか)み半分で仕舞える己(おの)が量定を燻らせた儘、終ぞ起き上がり跳ね返って現実の地獄へと還る間も無く闇夜へ向かう機関車へ飛び乗ったのだ。白鳥がその黒く肥えた長い嘴に程好く黄色い白粉(おしろい)の様な寸法を象らせて見せるあのギリシアに浮んだ神話の祠へ、悉く体(からだ)を縮まらせた儘退引(のっぴ)きならず硝子の銃弾を体と体に向かう矢に浴びせて栄華を咲かせた男を先取り、思慮が咲く億土迄の道程(どうてい)を難無く進み行く子供の再来へ感(かま)けて熱を上げ、心を澄み切らせた儘、自分達の体を巧く何時(いつ)か見果てた天国へまで遠ざけ得る武士(もののふ)の肢体を想う時、一度に棄(な)げ出された夢想の数は凡そ無念を晴らせる投擲とも成り得た事で〝アン、アン〟泣く子を黙らせて居た。新橋を渡る白鳥の群れが己の卵を悉く割らずに懐へ仕舞い、まるで都会から田舎へ引き込む流浪のドラマを重ねて行く頃、凍えた手足を暖炉で温めながらも屠畜人に敗れたユダヤの始祖達を想い、図らずもずんずん渡って辺りを湧かせた余興に満たさぬ「奏楽隊の行進」を意味無く慰め、観続け、古豪を称する悪鬼の伝来迄もが地に沿い眠りに就く頃、此処に生れた駆け出しの使徒達は皆悉く深い眠りへ落ちてしまった。或る成功を収めたがったモノクロの子孫は図らずも現在(いま)を奏で始めたロックン・ロールへの人の魂とかいう物を銀杏でも食う様にして食べ干し、何処から知っても揚げ足取りに勤しむ自分の子孫が又何処からともなく湖底を響かせながらずんずんやって来ては、道頓堀に咲いた人の夢の厚さを程好く冷まして行く小川の冷水がそれでも傍らに残されて居る事を妬み嫉み、或いは何時しか銀色に咲き乱れた洗礼から得る水の飛沫(しぶき)が身内を清めてくれる、と俺も周りへ集った者達も、密かに信じて居た。暑かった一日一日が仄かに川から生れて街を束ねた冷気に解け込み、程好く温度を沈めて一介の狩人達を野晒しにして行く頃にはそれ迄獲った野兎の頭も体も心を満たせる手猟(しゅりょう)には成らぬと迸りを受け、「天から落ちた鷲の身を悉く啄み食する家禽の口を各(おの)が持ち合わせねば成らぬ宿命を知る」のが人の運命(さだめ)であると、矢張り丘の向うに咲き乱れて在る青い草原に彼(か)のマンモスが解け込み行くのを目で追う時に、幻想(ゆめ)の末路を把握して生(ゆ)く予定調和を俺と住人(ひと)とは既視(すで)に識(し)り得た。口惜(くや)しい哉、雨も槍も太陽も星も何も降らない雨期の季節に達磨が転び、愛想好く居た女の群れも子供の群れも、程好く自分達から離れて咲いたオレンジ色したロームの麓へ又自分達が住むように改竄した事を自然が黙し、恰も数奇な運命によって図らずも暗雲漂ったこの密室に於いて数多の実験が人の手に依り、人の為に成され行くあの鉄壁の過程を染み々々(しみじみ)進ませ我等を誘い、我等は一目散にあの丘の向うに見えたゴシックを以て建てられて在る教会の内へと入って行った。その内には余程の屠畜人と財産管理人とが右往左往して犇めき合って、カレーライスやシチューといった汁を飯に塗(まぶ)した様な一種の鍋物の様な晩餐の一品(しなじな)を体好く並べて在り、そこには、俗世に疲れて安堵を期したい望郷人達は自己と他者とを欺き騙した魔術から一旦逃れたいとして、あわよくばを狙う体(てい)して入って来るのだ。何でも直ぐに姿を消し去り、虚空へ還り行く人の言葉と発想とは記録する事に依ってのみその姿を形として具現化し得て、その枠内に留(とど)まらない霧散する人の言動の放散とは暫し軽く視(み)られて精算されて、何処からともなくやって来る人の才能の程とは、一種の魔術の様に聡明を得たり、モノクロな小言を連呼する事で当面の資材を稼ぐ事が糧として又売れ残り、俺は他人に認められずとも良い、と極めて抗議した後、まるで更迭を踏み揃えて着せて行った現実の粉塵と対峙する姿勢を採りながら、泥沼化して行く淡く儚い人との争い・紛争を洗い流す一釜(ひとがま)の縁へと降り立った。

 イギリス紳士がまるで怪獣と対峙する様な魔法に掛った煉瓦伝いに程好く咲いた瓦礫の街へと我等は闊歩して行き、俺一人が何処となく淋し気にも独断に依って解(かい)する事の出来るロマンスが十分に溢れた星空と風の在る小丘(しょうきゅう)に身を置いて居たようで、その内に数多在る生き物・静物の呼吸は頑なにも己の身を保ち続ける骸の傍(そば)へとその身を引き寄せた儘、唯皆の頭上へ冴え渡る一匹の虚空は小言の連呼を密かに受容して在った。海鳴りが近い海岸沿いには一匹の魔術師とも称され得た漁師が住んで居て家族は在る様で無く、何処かに身内を取り置いて、自分はそうされた身内の為に心労を飾って、艪を削り、白銀色した小魚の群れを舟の左側から獲るのだと闇にも光る延縄(はえなわ)を投げ遣り、独り悶々と俺の視界に冴え渡らせるようにと、孤独を着飾り労を落して、帳の開いた明日への扉を密かに夢見た。たどたどしく阿って行く一組の栗鼠の番(つがい)が我等の麓迄来て餌を強請り、当面の目標(あて)も無い儘渇きを彷徨い野を駆けて、やがては又土か宇宙へと舞い戻って行くのだろうと、出来過ぎの安泰を密かに唱えた俺はそれ迄右の手の内に握り隠して居た白身の魚をその使いが落ちた場所から目前に置かれた小石の上へ寝そべらせ、賞味を確認しようとした時には番(つがい)は消えて、遥か未知へと舟を出したようだった。栗鼠は如何やら魚を食べず、専ら栗の実や木の実等、丸まった固い殻の在る小さな枝から成る物が好きだったようで俺には知られず、俺は又、当面の目標(あて)も無く瓦礫の街を、駆け登る程急には反り立たない野々へと続くのであろう丘を踏みしめながら、それでも周りに集って居た知恵者の知恵と知識を以て、強く歩いて行けた。

 まるで映画『ハリーポッター』がその幻想を司るようにして見せた夕張の遍く域を背景に、程好く天から落して構成し得たラブストーリーにも満たぬ小さな寸劇を構築して居たようで、我等が赴いたその矢先には、掃除するには持って来いだが決して一人では解決し得ぬ程の壮大な古城が建って在り、全てのフィクションはその所から漲る様に開始された様(よう)である。地中深くに埋没させられたその『ハリーポッター』の世界に俺は又独りで埋没させられたようであり、空が今どう成っているのか、風は出て来ているのか、虫達の鳴き声は、動物達の言動はどんな有様なのか、等自分の想像を経てしか得ない生命の源泉へと唯ぽつんとこの身を置き遣って仕舞ったようで限り無く、頼り無き身と一日とはまるで結託する程の血肉を見せ合い抱き合いながら、当分の目標とそれから得られる糧とを目と手にした儘で、俺はそのポッター城の所長の様に成って居た。自分がそこの所長の様なお偉いさんに成り済ました頃からその古城はその内装の広さを変えない儘に見掛けはやや小じんまりと小さくした様であり、俺の傍(そば)には何時(いつ)も俺に活力を与え得る助手のシュチュワーネスという青白い髪と恰好をしながら口髭が濃く在る様な、何やら他人(ひと)には見せない秘密を保(も)った若手が在って、俺はこの若手に殆ど全幅の信頼を置き、一緒に何やら自分達人間の未来を構築して行く「土台」を揺さぶるレベルの研究をした。

 暫くしてからまるで一日の空白が我等に伸し掛かって来たように一日と自分達は程好く引き離されて、自分達の背後へ続いて研究生とも成り得る様な、ビッグバンの解体さえ図り終える程の知識人達が退引(のっぴ)きならぬ程この家の戸口を開けて出入りして居る姿を俺は見付けて、俺はこのシュチュワーネスと共に、焼肉や野菜等を使った他の料理を魔法でも使った上で拵え得る特殊な方法を隠し味として、血肉への糧を作る事に尽力し始め、「家」に成るまで落ち着き始めた幻(ゆめ)を魅せ得る我等の古城(しろ)は、屋根の上では朝・昼の陽光と小鳥の煌めきとを保(も)ち、夜には静かに灯った屋内から咲く黄色く黄金色した暖光(ひかり)の強さで辺りを照らし、その周りでは〝りーんりん〟と虫達が色めきその身を潜ますメルヘンチック、ロマンチック、が尚好く息衝き我が身を光らす「小さく大きく構える丘の上の教会」とも成り、その丘が海鳴りの近い漁村の隣に在る事から又その辺りでは常に潮風が吹き活き、熱の灯った人の論議は古城の内から辺りへ済まされ程好く冷まされ事無きを得た。俺はこのシュチュワーネスと一緒にその特殊な魔法の精製を隠し味とした活気溢れる料理の品々を拵えようと、二人に纏わる下界で見て来た概(おお)くの土地と焼肉をもう作り始めていたその場所とを箒に跨り往来して居り、教会からこの二つの場所へはそれ程距離を隔てない為自然の流れを暗感しながら、惰性の気力に余裕を充てつつすいすい飛べ得る手腕を識(し)った。その箒は我等の体を青白く、暗い黄金に照らした夜空の中を自在にすいすい飛ばせたもの故に我等は何にも誰にも体裁を繕う必要(こと)無く唯飛ぶ事に夢中に成れた為、俺一人は唯股間辺りが何かの力で掬い上げられる様な湧く湧く感情が生れ始めてその体を支配されつつ、まるで浮足立つ程に下界での労苦を忘れたあの所に居た漁師の様に我流に先ず幸福を得る事が出来満たされ、優雅で、シュチュワーネスもきいきい泣いて活き活きして居た。

 焼肉を焼く(料理を始める)前にふと心のテレビに場面が現れ、俺は独りでその内に光って在った感動のrumorから出た竜巻の様な風にこの身を絆され巻かれて、引き込まれ落ちたその天下では野球のグラウンドが静かに在って、そのピッチャーマウンドの上で昔赤ヘルを被(かぶ)って頬も赤くして居た北別府投手が広島カープを優勝させる為にと奮闘して在り、何処か別のチームと試合しながら黙ってキャッチャーが出すサインを見て居た。投げたボールはお得意のフォークボールだったようでボールの下方を叩き過ぎたバッターがファーストへ走る迄には打球は力弱いぼてぼてのややファースト方向へ転がり果てたゴロと成り、北別府投手自らが捌いてファーストへ白球を放りバッターはすごすご自陣へ戻って行った。バッターをアウトにしたのが余程嬉しかったのか、アウトにした後北別府は胡坐を掻いた儘の姿勢でファーストベースが在る辺りか、又見た事も無いようなグラウンドの丘の上でか腕を特殊な組み方によって変わった形に組み、態と尻餅を何度もでん、でん、でん、でんと突きながらマウンドまで又行き(戻り)、まるで優勝したかの様に喜んで居た。赤い帽子とユニフォームが程好く又強かに風に煽られた儘野球選手の冥利にも尽きるとして過言では無い程「凄味」を冠して笑ったようで、その北別府選手の背景・頭上に小さく揺れ揺らめく日本の国旗が、暗黒にも映る程の黄金を予期させる黒さを共に唯カープの勝利を喜んで居たようだった。

 そのマウンド上での彼の喜び様と言えば、何か、彼独特の喜び方を表して居たようだが傍(はた)から覗いて居た俺にはその感情が自身にのさばって来ない為か良く分らず、唯、振り絞る様に両手を上から下方へ何度も何度も振り下して喜んで居た様であって、又唯見て居る此方側としてはその他を圧巻して仕舞える程の大層な喜び様に見取れる程に愉しめる光景・情景だったと記憶している。又、そのバッターをアウトにした時の、又その時迄の試合自体のハイライトを北別府は自分で他の選手(堀内コーチや立川捕手等がその選手の内には居た)に協力して貰った上で何度も構築して居た。とにかく熱気溢れるその大球場とも言えぬ小規模な河川敷・草野球を想わせるその球場内で、とても白熱した北別府投手の奮起を垣間見た事はまるで挿話の様にして憶えて居た事であった。実は、この奮戦、光景に内在した一人一人の選手の白熱と化したスポーツ・肉体への愛情が唯食を欲する形で、俺に料理や焼き肉の精製法則を思い起こさせて居たのだ。その泥臭い環境の内で、土手の内で、マウンドの上で、果ては田舎に還って見知った車道・丘陵に成った竹藪の麓で行なって居たような研究は始め俺達二人で始めた物であったが、その「研究」まで滅多に無い物で在るようにきらきら輝き出して俺達が唯努力を懸けて尽力して居る内に、段々と同じ研究をそこでしてくれ得る協力者が増えて来た。始めに二人であったのが、三人、五人、十人、それ以上、という風に、人の歩く足が薄ら砂塵を巻き上げる頃合いに成るとその人々の内には、パジャマの様なモンクが着る外套を着た年端の行かぬ女の子までが加わり始めて、俺が所用で少し研究所である教会へ戻り内を見渡す度に、その様な女の子達が訪れた俺の顏をきょとんとして見て、それでも女の子特有の良く躾けられその躾(しつけ)に従う性質が淡く漂う形で〝俺とシュチュワーネスが始めた研究の為に成るならどんな協力も惜しまない〟とした姿勢を以て事に当たる姿は俺と恐らくシュチュワーネスをも程好く安心させながらそれでも俺は唯その子の群れを全て包容した儘我が傀儡としたいとする悪鬼に迄捕われて居た様で、徒然に俺は又、この様に自分に忠実に働く女の子の協力者が生れた事、自分達の仲間がこれ程に増えた事、に対して心が底上げされる迄に嬉しく成り果て、しかし同時に、この一つの研究が終って仕舞えばもしかすると皆がばらばらに自分達が置かれるべきとされた位置へと還って行くのか、等と少し淋しくも思い知らされて居たのであった。

 そうこうして居る内に俺の父親が又別の世界から顔と肢体とを覗かせて俺に「料理の、焼肉の精製法」を伝授しようと説明を試みしてくれたが要を得ず、俺と協力者達は、それでも中々上手く仕上がらない儘でもその研究の各々の分野に拡がった過程に尽力して行くのであって、死太く生き残る父親はその過程の内にて、焼肉用の肉、他の品々(ウィンナーもその内に入っていた)はきちんと焼く前に水洗いしなけりゃ駄目だ、菌が付いて居てそれが人の体内に入ると取り返しの付かない事に成る、事が起こってからではもう遅いんだと、熱弁をやや振るいつつも自分の周りに集った仲間達に一頻り冷水に両手を漬けつつ教えてくれて居た様である。始めに見付けた「見慣れた様なその焼肉用の肉、他の品々(ウィンナーや野菜類)」は、教会の向うに建ったビルディングか皆が集まる各場所に置かれて在った小丘の上から誰かに依って投げ落とされた物であり、その物々にはそれが天然の物である事を皆にアピールし何かしらの信頼でも得ようとしたのか、まるで畑から今採って来たばかりを想わせる焦げ茶色した土が要所に付されていた。しかし父親はその環境に程好く当然を纏わせる様に刺激された為か次第に『ジャリン子チエ』に登場するチエの父・テツの様に成り始めた後、やや又強引な手腕・手引きを以て俺に研究に纏わる諸行を扱う際のハウトゥを教え始め、消えなかった。その父親であるテツは、誰かか弱き子羊(子供だったのかも知れない)を守る為に他所からやって来た悪漢を蹴散らして、ごつんと、その悪漢達の頭や尻を何度かどついて居た。その悪漢達が派閥を以て元在る俺達の研究所から独立するように別の場所に新たな研究所を建て、そこに又自分達に対し忠実に働き功を挙げ、自分達が見捨てたこの研究所を出し抜いて潰そうとする為の育成人を何人か連れ去ろうとした為そのテツは叱る様にして怒って居たのである。そしてその悪漢達は又地元の警官の様でもあって、生き残った俺の父親がまるでそこに敷かれて功を得た法を無視した儘で無人(ぶじん)を働いて居る様にもその光景は見て採れた。この情景とは後から俺が採ったものとして在る。

 それ等の光景が一先ず落ち着き、警察の恰好をしたあの悪漢達がもう自分達の居る場所へやって来なくなった頃には父親も身を潜める様にして形成(なり)を穏やかな物にし、俺は一部始終を網羅して見て取り落ち着いた事を確認したと決め込んだ儘、又、教会と焼肉を焼く現場(まるで掘り出し物を発掘して居るような場所)との往来を飛びながらに始め、そうして行き来する箒に乗って飛来する遊泳とは俺に並ならぬ快感を良く与えてもいた。飛びながら下界を行き交う人人の在り方を見て飛ぶのは本当に心地が良くて、優雅でもあり、唯何度でも遊泳して生きたいとする自分を想えば思う程その自体の様(さま)は格好も好く魅了される存在(もの)であって、「『ハリーポッターの世界』とはこんなものか、じゃあきっとこの醍醐味を味わって自分の世界へと昇華させられる程に吟味を繰り返した後(のち)に自分を帝王にでもして見たい…!」と緩く考えた後(のち)、夜風が吹き揺れる、まるで中世の世界と現代の世界に置かれた風と夜とが飽和した様な「白銀の銀河が宙に浮んだ夜空」を俺は微妙に良く飛び廻って行った。しかし、未(ま)だ足りない。夢から冷めて現実の街道へと自分の身が絆され行くその間際、彼(か)の「研究所」が佇む現場近くに置かれた交差点を醸す車道を見下ろすと、わんさか溢れる子供達が群れを成してその車道を歩き渡って居る光景が見て取れ、そうした子供の拙い姿勢(すがた)は、あの『ハリーポッター』の魔法使い養成学校から同様にして魔法使いの教師に引率されて何処かへ帰って居る「現実離れの容姿」に在った。俺はそんな光景を眺める内に、〝この子達もやがては俺達のあの研究を手伝ってくれるのかなぁ、〟等と有難く思える気持ちと、又、皆が離れて行ってしまう事への少々の不安をも覚えながら、仕方無く取り敢えずと探して居た〝現地〟へと降り立って居た。「探して居た」理由とは、もう焼肉を焼いた鉄板も又肉以上に用意された別の品々も奇麗に片付けられて居て、それ等の物が全く見得なくなっていた為に在る。しかし人人が慌しくして居た微熱を地に落としつつある余韻は空から見ても分る位に「活気が去った後の雰囲気」を居残し、俺はそのオーラを認めて研究が成され今は見得なくなっているその〝現地〟へ降り立ったのだ。

 そこには一寸下顎辺りに脂肪が付いて在り余った肉を肢体と視線に付けた小肥りの少年が居り、その少年とは同じく魔法使い養成学校の生徒であって、現場(そこ)でてきぱきと、まるで「所長」として収められて居た俺に褒めて貰いたがって居るかの様に要所にしゃんしゃんとした姿勢を吹き入れ、手足が小肥りとは思えない程に「緩んだ空気」を砂塵に消してふと気付けばもう別の所へ移る程度の速さを見せた。まるでその少年とはもう少し視点(かくど)を違(ちが)えて見れば、〝洋物〟である外国映画に良く出演させられていそうな、教師・先輩に褒められたい学生を演じて居る様でもあった。

「君、要領が良いねえ、凄いよ。よく、てきぱきと働いてくれた。お陰で、奇麗に片が付いた。君が居てくれたお陰だ。良かった。」

と微笑みつつも多少気遣って俺がその少年に向かって言うと少年は、頬を力任せに膨らませながら又口をへの字に曲げて、〝まだまだ働けますよ僕は。何でも遠慮しないで自分に言い付けて下さい〟とでも言う様に、研究に使用していたのであろう白色のロープをくるくるくると手元へ引き寄せ丸めながら俺の表情(かお)と目は見ずに、その白い顏肌を以てひたすら俺に応えてくれて居た。俺はもう一度この箒を以てこの地から飛び立ち、研究所であるあの奇麗で至高のロマンスをも与えてくれ得た教会の内側を覗き見たかったが、ふとその少年の無言の内に力強く抑え込まれた励ましの真顔を見た時に、もう完全にその夢の断片(かけら)から自分の身が足を掬われ洗い終えられた事を知り得て居た。



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~続・ハリー・ポッターの世界~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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