お騒がせ動画

天川裕司

お騒がせ動画

タイトル:お騒がせ動画



イントロ〜


あなたは、インターネットをよく使いますか?

最近ではYouTubeやSNSなど、ほんとに人気がありますよね。

ネットをやっているうち、自分もネットの住人として何か自己主張してみたい、ネットの中だけでも有名人になってみたい、そんな気持ちになった事は無いでしょうか?

でも有名税という言葉があります。

またサイト炎上により被害を被るという悲しい出来事もありますね。

今回はそんなネットの世界で或る度を越した、

男性にまつわる不思議なエピソード。



メインシナリオ〜


ト書き〈自宅でネット三昧〉


俺の名前は円城彩人(えんじょう あやと)。

今年38歳になる、Vチューバー& YouTuber、

ネットのあらゆるサイトを駆使して稼ぎ続ける

「ときの人」としても知られている、まぁ特定分野での有名人だ。


彩人「よしよし♪今度はこっちのSNSだな♪待ってろよ〜♪皆びっくりさせてやるからなぁ〜♪」


もう毎日がノリノリ。

とにかく現実的なことから非現実的な事まで

テーマに取り上げ、こんなことやったら面白い、

あんなことやったら誰かが困る?

こんな事をやればみんな夢を見るように吸い付いてくる、

みたいな企画を自分勝手に立ち上げ、それを実行し、

特にYouTubeサイトでアップし続けていた。


もうこの道10年ながら、俺もかなりベテランの域。

たとえ何かで失敗しようが、それなりの誹謗中傷が飛んでこようが一切お構いなく。

それを逆にバネにして今後の活躍に伸ばし、

さらに有名人へのステップを駆け上って行くと言う

俺の方程式が出来ていた。


今やってるシリーズは「街行く人のハプニング」。

街中を歩く人たちを普通に動画に撮り、

いろんなハプニングに出会うのを

視聴者のみんなと一緒に楽しもうという企画♪


でもまぁ普通に撮ってるだけじゃ面白くないから、

それなりのギミックを施すのは俺の仕事。

まぁそういうのはもう日常茶飯事にやってきた事だから

俺にとってはすでにお手の物だった。


今回は1人のおばちゃんをピックアップしてやった。


ト書き〈動画を撮りながら〉


彩人「そら!そこだ!早くこけろ!…やったあ!」


そのおばちゃんは自転車に乗っており、

その自転車に俺はあらかじめ細工をしておいて、

自転車が瓦解するように壊れた果てに

おばちゃんが派手に転んでしまう、

という日常のハプニング・スクープを撮ってやった。


彩人「よぉし、これで1つのネタが出来たってか♪早速帰って編集だ〜」


あとは知らぬ存ぜぬ。

隠れて撮っているから俺が犯人とは絶対わからず、

そのまま現場を放置して帰っても

俺が怪しまれるような事は今後一生無い。


こーゆー日常的に起こる人の不幸を、

視聴者ユーザーは密かに楽しみにしているのを俺は知っていた。

普段はキレイごとばかりほざくがその正直は全く逆。


人の不幸を喜ぶ人間が何故か現在爆発的に増えており、

こんなチンケな動画でもそれなりに視聴率を稼いでくれる。

まぁこんな企画は俺にとっては小遣い稼ぎ。

別にこんなのばかり撮りたいわけじゃなかったけど、

稼ぐためにはどういうのがいいのかと追究していったところ

結局こんな種類の動画に落ち着いたワケ。


そしてその日撮った動画も、いつも通りにアップしておいた。

視聴回数はやはりそれなりに上がってくれたようだ。


ト書き〈トラブル〉


しかし、生まれて初めて俺は

これまで経験してこなかったトラブルに見舞われた。


男「おいゴラァ!!ワレがこの動画アップしたんか?ああ!?」


ある日いきなり俺の自宅の電話が鳴って、

強面の男が向こうから凄んできたのだ。


無視しようにも無視できず、「あの動画とは?」と聞いたところ、

どうも昨日俺がアップしたあの動画の事だった。


男「ようも姐さんの難儀をお前あんな風にして、世間に広めてくれたなぁ?」


彩人「ね、ね…姐さん…??」(恐怖に怯えながら)


男「おう、わしらは鬼瓦組のモンじゃ。ワレ、覚悟は出来とるんやろのぉ?」


彩人「オ、オニガワラ組?!」


ここ関東一帯を仕切ってる広域暴力団の名前。


彩人「ウ…ウソ…ウソォ!?」


男はどうやったのか俺がアップした

動画のアカウントから俺の素性を割り出し、

今現にこうやって俺に電話をかけてきている!

きっと暴力団特有の情報網でもあったんだ。


俺はもう気が気じゃなくなり、

わけのわからない感じでただ恐怖に打ち震えていた。


男「ワレの住んどる界隈も、ある程度は割り出しとるからなぁ。その内ちゃんとした形でお迎えに行くからよ、ワレ覚悟せぇよ」


それで電話は切れた。


彩人「……どうしたら…ええんだ…」(生気をなくした様に)


ト書き〈生活が一転〉


こんなの初めての事。

初めてながら俺の生活は一変した。


道端を歩いていてもふとした事で振り返るようになり、

部屋のドアがノックされるたびビクッとおびえてしまい、

どこへ行くにも何をしている時でも、常に誰かの目を気にしている。

もう生きた心地がしなかった。


彩人「ク…クソォ!!」


半ばノイローゼになり、やり切れず、俺は久しぶりに飲みに行った。


ト書き〈バー『Suffering The Consequences』〉


そしていつもの飲み屋街を歩いていると…


彩人「…『Suffering The Consequences』…?新装か…?」


何か長い横文字の店が建っており、おそらくカクテルバー。

意味なんか全然わからないけど何となく気が惹かれ、

俺はそこに入っていつものようにカウンターで1人飲んでいた。すると…


ケアル「フフ、お1人ですか?もしよかったら一緒に飲みませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。


彼女の名前は手繁(てしげ)ケアルさん。

都内でライフコーチの仕事をしていたようだ。


なんとなく彼女がクッションのように思え、

俺はとにかく何かにすがりつきたい、安らげて欲しい

と言う気持ちでいっぱいだったのもあり、

すぐに隣を空けて彼女を迎えた。


そしてしばらくしゃべっていると不思議な気になる。

なんとなく昔から一緒にいた人のような気がして、

その意味で心が少しずつ解放的にさせられ、

気づくと俺は今の悩みを全部彼女に打ち明けていた。

いや初めからそうしたかったのだ。


彼女はその悩み事を全部真剣に聞いてくれ、

アドバイスをくれた後、本当に俺を助けてくれた。


ケアル「へぇ、Vチューバとかされてるんですか」


彩人「え、ええw今はYouTuberのほうがほとんどですけど。…でもほんとに、こんな事やるんじゃなかった…!」


俺はこれまでの自分のVチューバー歴、YouTuber歴を全部否定する勢いで嘆き悲しんだ。


俺は自分が結構打たれ強い人間だと思い込んでいた。

そう自分の事を信じていたのだ。

でも今回、その自分に全く裏切られた。

今まで実際、これほどの目に遭ってきた事がなかったから。


その悲惨に出遭わなければ気づけないなんて!

俺はよっぽどの馬鹿だ!

たとえ誰かにこの事で馬鹿にされても、

俺はその馬鹿にされる言葉でさえ安らぎを感じ、

救いのようなものさえ見るかもしれない、感じるかもしれない。

それほどまでに恐怖して、この時、

彼女の足元にすらしがみつこうとしている。


彩人「俺はバカだった!馬鹿だ馬鹿だ!!なんであんなことしたんだぁ…!」(思わず泣きながら)


「すみません」と言おうとした時その言葉を遮って…


ケアル「まぁ少し落ち着いて。それも有名税の内に入るのかもしれませんね。でも誰かを傷つけて人気を得ようとする事など人のする事じゃありません」


彩人「グス……」


ケアル「良いでしょう。今のあなたをお救いできるお薬を差し上げましょう」


そう言って彼女は指をパチンと鳴らして、

そこのマスターにカクテルを一杯オーダーし、

それを俺に勧めてこう言ってきた。


ケアル「これは『The Way of Repentance』という特別のカクテルです。ぜひこちらを飲んでみて下さい。少なくとも今のあなたのお悩みは解消されるでしょうから」


彩人「……あ、あの、さっき言ってたお薬って、コレのことですか…?」


どう見てもカクテル。薬には見えない。


ケアル「ええ。お酒も良薬、薬としてみれば薬に見え、薬と思って飲めばお薬になるものです。彩人さん。信じることです。信じてあなたの道を歩んでみて下さい…」


ここで2つ目の彼女の魅力に気づく。

それは彼女に言われたらたとえインチキでも

それを信じてしまうこと。

俺は半分、夢遊病者のように、そのカクテルを飲み干した。


ト書き〈挽回〉


でも信じてよかった。その後、俺は挽回できたのだ。

あの恐怖の心が消え失せて、あの男からの電話やその気配も一切消え失せてくれた。


あれから数週間。数ヶ月。1年が過ぎようとしていた。

でも何も起こらない。

災いは俺のそばへやって来ず、俺はそれまで通り

至って健全な生活が出来ている。


彩人「だ、大丈夫だよな…もう大丈夫…」


でも暴力団に追われると言うことが、

一般人にとってあれ程の悲劇を招く事になろうとは。

経験して初めてわかったこと。


それ以来、俺は人の不幸を笑うような動画、

人を不幸にする動画、不快にする動画は一切あげることなく、

これまでアップしていた動画もみんな消して、

アカウントそのものを閉鎖した上、

また新しくサイトを始めていたのだ。


ト書き〈トラブル2〉


でもまたトラブルがやってきた。

前のような動画は一切撮っていないつもりだったのに…


男「おう、お前。人の不幸を笑うとはどう言うこっちゃ?ウチの叔父貴が難儀してる場面を撮って、それ拡散しやがって!」


彩人「え、ええ!?そ、そんなこと!ボクそんなの撮ってませんよ!?」


又どこからプライベート情報が漏れたのか分からない!

でも現に又こうして俺の自宅の電話が鳴り、

また強面ふうの男に俺は責められている!?


しかもそんな動画を撮った覚えは本当になかった。

なんで責められているのか、それが分からない。

でもまともな話が通じる相手ではなく…


男「ウチの特殊なルート使ってなぁ、お前んとこの自宅割り出したるんや。今から行くよって、黙って待っとれや。そこ動くなよ!!」


一方的にまた切れた。


「逃げなきゃ…!」そんな思いのもと、

やはりなんで今自分がこんなに責められてるのか

それがほんとにわからなかった。


ちゃんと検証して話したらわかってくれるかも!?

そんな動画、俺の手元に無いって事がほんとにわかったら!

…いやもしかすると、ただの難癖野郎かもしれない。

そうなれば何が何でも俺は…


相手はまた暴力団ふうの男。


彩人「な…なんでこんなのにオレ、目ぇつけられるようになっちゃったんだよ!!」


これまでの有名ぶりが、かえってアダとなったのか。

そんな事を考えてる内、ふと背後に人の気配が漂った。


ト書き〈オチ〉


彩人「うおわあ!?ケ…ケアルさんっ?!」


ほんと死ぬ程にビックリした。

ケアルさんが真後ろに立っている。


彩人「(ド、ドアも、窓も、開いてないのに…一体どうやって…?!)」


そんな恐怖への疑問も確かにあったが…


ケアル「知らない間にまたあなた、人の不幸を笑うような動画を撮って、それをアップしちゃったみたいですね…」


彩人「……!?」


話していた時…


ドアを蹴る音「ドンドン!!ドゴン!バキィ!!」


男「オラァ!ここ開けんかい!!」


彩人「ひぃっ!あ、あわわ!!き、来ちゃった!本当に来ちゃった!!??」


おそらく電話をかけてきたあの男が、部屋のドアの前に立っている。


彩人「ど、ど、ど、どうしよう!どうしよう!…ね、ねえ!助けてください!助けてくださいィ!!」


俺は恐怖のあまり訳が分からなくなり、

ケアルさんに助けを求めていた。

「この人ならきっと何とかしてくれる!」

何の根拠もなかったが勝手にそう思えたのだ。


いや、前にいちど俺を助けてくれたこと。

これがおそらく土台になっていた。だから今回も…


彩人「お願いします!お願いします!!」


ふと見上げたケアルさんはなぜか冷静そのもの。


ケアル「わかりました♪助けてあげましょう。その代わりこれまでの生活を失う事になりますが、それでも良いですね?」


何か言ってたようだがそんな事は耳に入らず…


彩人「お願いしますからあ!早く助けてくれぇ!!」


叫ぶ俺の目の前で、ケアルさんは右手をすっと上げ、パチンと指を鳴らした。

その瞬間、俺の意識は飛んだようだ。


ト書き〈彩人の部屋でパソコンを見ながら〉


彩人「さぁ今日はどんな動画が飛び出すかぁ!?皆さん斯うご期待〜!!グフフ♪今回も誰かが不幸に落ちるゥ、どん底動画が見れるかもしれませんよ〜?♪」


ケアル「フフ、今日も楽しそうにやってるわね。私は彩人の欲望と後悔から生まれた生霊。その後悔のほうを膨らませ、何とか真人間に戻ってもらおうとしたけど無理だったわね」


ケアル「彩人はもう、他人の不幸を図る線引きが出来ていなかった。どこまでが不幸でどこからが幸福なのか、それすらわからなくなっていたのよ」


ケアル「だから良かれと思って撮った、ほのぼの動画に挙げようとしたその内容も、人の不幸をただ笑うものになっていた。だから『俺はそんな動画を撮った覚えはない!』なんて言ってた彩人は本当にその感覚が無く、相手が何を言ってるのかさえ解らなかったのよね…」


ケアル「あまりに長くその習慣が身に付くと、なかなか帰ってくるのが難しくなる。人によっては帰れないこともある。彩人は自分で気付けなかったけど、後者の人間だった」


ケアル「でも、もう誰かに追われる心配も無くなったわね。彩人、あなたが生きられる空間は、そのパソコンの中だけになったんだから。現実に出てくる事はもうなく、電子の住人として今後を生きなさい」


ケアル「…でもパソコンが今後もずっとある以上、彼のお騒がせ動画もずっとあるのかも…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=LNgTfQpxIJE

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お騒がせ動画 天川裕司 @tenkawayuji

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