第22話 平和な日常に新たな戦争

「...ふぁ...」と、起きると横にアインちゃんがいた。


「...何で居るんですかい?」


「夜這いという...やつのつもりだったのですが...」


「...さようでございますか...てか...この匂い...ナーベも居たのか?」


「...匂い?」


「いや...ほら、ナーベのシャンプーの匂いしたから...」


「...なんですか?それ...」と、俺の体に馬乗りになるアインちゃん。


「...あの...アインちゃんはあれなの?結構欲求不満だったりするのかな?」


「...そうですよ。...奥さんにするなんて言われて...本気で好きなっちゃって...でもずっと相手にされなくて...悶えている...そういう女の子です」


 ここにきて今更気づいてしまった。

ゲームでは描かれることのなかった彼女の本性...。


 この世界にそんな言葉が存在するかは知らないが...、なるほど。


 アインちゃんは両手で顔を抑えながら、まるで見下すように俺を見つめるのだった。


「...もう、どこにも行ってほしくないです。どこにもです」


 多分、彼女は...ヤンデレというやつに芽生えてしまったのだろう。


「ひぇええええええええ!!!」



 ◇


「...はぁ...全然寝られなかった...」と、頭をぼりぼりと搔きながらつぶやき、朝食を食べにダイニングルームに向かうと道中で、シュカちゃんとリュカちゃんが手をつなぎながら楽しそうに歩く姿を捉える。


 相変わらず仲がいいな...。


「うちの妹たちにいやらしい目線送るの辞めてくれる?」と、リベルに後ろから声を掛けられる。


「...見てないから。聖母のような優しいまなざしだったから」


「...ふーん?アインに夜這いされてどうせ鼻の下伸ばしてたんでしょ?」


「...いや...鼻の下が伸びるどころか...縮まりそうな勢いだったがな」


「どういう表現よ」


「そうとしか言えないんだよ...」


 すると、こちらの存在に気付いたリュカちゃんとシュカちゃんが挨拶する。


「あっ、お兄ちゃんだ!」「本当だ!お兄ちゃんだ!」


「おはよー、リュカちゃーん、シュカちゃん」


「「おはよー!!」」


 すると、何やらにやにやしながら俺のところにすり寄ってくる。


「お兄ちゃん、耳貸して?」と、シュカちゃんに言われる。


「うん?何?」


 そうして、屈んでコソコソ話を始める。


「あのねあのね...お姉ちゃんがね...寝言でねお兄ちゃんのこと...好きって言ってたよ」と、言われる。


 おいおい...まじかよ。俺の人生で初めてのモテ期到来か?と、ちらっとリベルを見ると、「何見てんのよ」と言われる。


「いやいや...お姉ちゃんはお兄ちゃんのこと好きじゃないと思うよ?」


「えぇーでもねでもね...お兄ちゃんのこといっつも見てるんだよ!窓からお兄ちゃんが見えたらぼーっと見つめているの」


 おいおい...まじじゃねーか。やった。お兄ちゃんすっごくうれしい。といってもこのツンデレが認めるわけがないが...。


「ねー!お姉ちゃんはお兄ちゃんのこと好きなんだもんね!」と、結局コソコソ話も意味なく大きな声でそんなことをいう。


 あー、絶対暴言吐かれるよ...。と身構えていると髪の毛をクルクルしながら呟く。


「...だったら何よ」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093080092694967


「...え?デレた...」


「デレてないわよ!」と、二人の妹を連れて去っていくのだった。


 そうして、ダイニングルームに到着するとナーベとアインちゃんが紅茶を飲みながら何かバチバチと火花を走らせていた。


「...おはよぉーみんなぁ...」と、声をかけると二人とも作ったような笑みを浮かべる。

怖い。女の子ってすっごく怖い。


 そうして、適当な椅子に腰をかけると俺の右隣にアインちゃんが座り、左隣にリベルが座り、正面にナーベが座りなおす...。


 すると、そんな三人を見たシュカちゃんとリュカちゃんも集まってくる。

そして、何かじゃんけんを初めて勝ったシュカちゃんが俺の膝に乗る。


「お兄ちゃんのお膝もらいー!!」と、俺を見上げながら無邪気に笑う。


 え?これは天然でやってるのかな?それとも生来の男たらしだったりする?可愛すぎるだけど...。


「ねぇ!お兄ちゃん!私もお兄ちゃんのプリンセスになりたい!」


 その言葉で3人の持ち上げたティーカップの手がピタっと止まる。


「...あらあら...小さい女の子にも人気があるなんて...良かったわね、ご主人様」と、ナーベがにこやかに笑う。


「...こわ」


「ちょっと、シュカはまだ子供でしょ。そういうのは大人になってからね?」と、リベルが宥めるが逆効果になってしまい、「子供じゃないもん!シュカ大人だもん!」と頬を膨らませて怒り始める。


「あのねぇ...ランは...わ、私の夫なの!//」


「むー!!だって、アインもナーベもお姉ちゃんもプリンセスなんでしょ!じゃあ私だってなっていいじゃん!なんでダメなの!」


「...それはまだ子供だから...」と、アインちゃんが言うと「アインだっておっぱいちっちゃいし子供じゃん!」と言われて、フルフルと震える始める。


「おい!アインちゃん落ち着け!相手は子供だからね!」


「...そうですね...子供の戯言ですもんね...」


「そ、そう!子供の戯言...だから!」


「...そうですね」


「ちっぱい!ちっぱいだもん!アインも!」と、言い始めたのでゆっくりと手でシュカちゃんの口を閉じる。

これ以上アインちゃんの刺激するのはやめてくれ...。


「...けど、そうね...。そろそろ正妻について決めてもいいかしらね」


「あんたはてっきり、自分が第一妃の自分が正妻っていうと思ったのだけれど」


「...私も」


「それは役職みたいなものでしょう?そういうことではなく、ちゃんと...ランの気持ちを考慮したうえでの正妻をね...」


「「受けて立つ」」


 自分も参加させろと暴れるシュカちゃんを抑え込みながら勝手に話が進む。


 そうして、正妻戦争が勃発するのだった。

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