第21話 アイン・ルルーの人生

 今現在、私はご主人様の部屋に侵入しています。

理由は...一つ。そういうことをしようと思ったからです。


 前回はリュカちゃんに邪魔をされてしまったので...今回こそは...。


 そう、私はご主人様に恋をしていたのです。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093080014292845


 さて、ここで私の人生について振り返ろうと思います。

そう長くはないので付き合っていただけると幸いです。



 ◇アイン・ルルーの人生


 私はそこそこ裕福な家庭に生まれました。

父も母もそこそこ有名な魔法使いだったらしい。

らしいというのは、母の方は私を生んですぐに精神的な病に侵され、まともに話すことはできなくなっていたのだ。


 その分、父は危険なダンジョンに潜ることもあり、ボロボロな状態で帰ってくることもしばしばあった。


 なので、小さい頃の家族の思い出はあまりなく、基本的には一人で遊んでいたか、たまの休日に父と母と三人で遊びに出かけたりと、私が5歳になるまでは寂しいながらも楽しい時間を送っていた。


 しかし、ある日事件が起きたのだった。

父がダンジョンに挑戦中に右腕を失ったのだ。

利き腕である右腕を失い、父は冒険者として働くことができなくなってしまった。


 そうしてほぼ無職の状態になった父は実家の農業を手伝いつつ、冒険者時代に貯めこんでいたお金を少しずつ削って何とか生活をしていた。

貧しいながらも父と一緒にいる時間が増え、私的には楽しい日々が続いていた。


 けど、ある日...父はギャンブルにハマるようになってしまった。

最初の数年はあくまで少額...趣味程度だったものがだんだん大きな額に変わっていき、手を出してはいけない生活のお金もギャンブルにつぎ込むようになっていった。


 そんな父を見かねてなんとか止めようとしていたが、ギャンブルに負けが込むと私や...お母さんに手をあげるようになった。


 それからは父の暴力におびえる日々が続いた...。

そうして、ただでさえ貧しかった生活はさらに貧しくなり...私も母も...どんどんやつれていった。


 もう父には頼れないと思った私は...盗みを働くようになった。

父がギャンブルに行っている間に街に行き...、パン屋さんのパンを盗んで...小さいパンをお母さんと分け合った。

それが10歳ころのことである。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093080014605432


 そうして、毎日ギリギリの人生を何とか歩み続けていた私...。

それでもなんとか生きていられたのはきっと...お母さんの存在があったからだ。


 何も話すことはないお母さんに私は自分で作ったオリジナルの物語を話すのだった。

ある時は冒険家の話、ある時はかっこいい悪役の話、ある時は異世界に行く話...。


 母が反応を示すことは一切なかった。

けど、私にとってその時間だけが唯一の楽しみだった。


 しかし、そんな日々すら長くは続かなかった。

父の貯めこんでいたお金もいよいよ底をついてしまったのだ。


 そんな父が次に取った行動は...もう人とは思えない所業であった。


 自分の妻を...私のお母さんを奴隷小屋に売ろうとしたのだ。

当然、すでに口もきけず体がやせ細ったお母さんなど高値で売れるわけもなく、本当に少額で取引をすることになったのだった。


 そんな奴隷商人と父のやり取りを聞いて、私は...絶望した。


 だけど、私にどうにかできる問題ではなかった。

ちっぽけな自分という存在に涙しながらも私はお母さんに泣きついた。


「いかないで!お母さん!」...と。


 すると、私は生まれて初めて母の声を聴いた。


「...か...た」


「...え?何?なにお母さん!!」と、私は聞き耳を立てる。


「...んた...よ...た」


「...?」


「まいにち...まいにち...おもしろくもない...はなしを...きかされて...くつうだった」


 聞き取れたのは...それだけだった。


 そう...私は何かを勘違いしていた。

なぜ、母がいい人だと思い込んでいたのだろう。

そんなことは誰も言ってなかったし、父もそんなこと一度も言っていなかった。


 いや、もしかしたら父の暴力によりおかしくなっただけなのかもしれない。

けど...それでも私の心を折るには十分すぎる言葉であった。


 翌日には母の姿はなくなっていた。


 それからというもの父は昔のように優しくなった。

ご飯もしっかり食べさせてくれるし、私の大好きな本を買ってくれるようにもなった。


 最初こそ怯えながらその優しさを受け入れていたわけだが、そんな日々が2、3年も続けば段々心を許すようになるものだ。


 もしかしたら、母の存在が父を変えてしまっていたのでは?と思っていた。

これから一生、病に侵された妻と添い遂げるということにとんでもないプレッシャーとストレスを抱えていたのではないか...と。


 そうして、段々と父との生活に慣れていったある日のことだった。


 夕飯の食材を買い終え、リビングに行くと...あの時の奴隷商人が座っていた。


 私は言葉を失った。どういうことなのか理解ができなかった。


 すると、父はこういった。


「父さんは二度同じ間違いを犯したりはしない。お前は昔の母さんにそっくりでかわいい女の子になるって信じていた。実際そうなったからな。あぁ、よかった」と、あの時の...母や私を殴っていた時の狂気の笑顔を浮かべながらそう言った。


 すぐにその言葉の意味を察した。

私は父にとって...家畜に過ぎなかったのだ。


 その瞬間、私は後ろから現れた男に取り押さえられ...気づくと牢屋に閉じ込められていた。


 そこで見たのは...悲惨な奴隷の生活だった。

やせ細ったものはまるで物のように扱われ、そこそこ体ができている女は商人の慰めものにされた。


 いつ自分の番が来るのだろうと怯えていたが、どうやら私の体は商人にとっては魅力的ではないらしく、そういった被害はなかったものの、腐りかけのパンを食べてなんとか命をつなぐだけの...あの地獄の日々が戻ってきた。


 そんな生活が2週間ほどたった時...牢屋の前に一人のお爺さんが現れた。


 そして、奴隷商人に「この子をお願い致します」と言った。


 ...いよいよ私は買われたのだった。

いや、飼われるのか...。


 この世界で奴隷など家畜も同然の存在である。

恐らく余興で遊ばれ、痛めつけられ、殺される...それだけの日々が待っている。


 そんな私の心を読んでかそのお爺さんは私にこう言った。


「...大丈夫ですよ。安心してください。あなたがこれから行く場所はここよりもずっといい場所です」と、笑った。


 その笑顔は...あの時の...優しい時の父と同じ笑顔であった。


 そうして、私はラン・ルーズベルト家に引き取られるのであった。



 ◇昔話お終い


 最初こそ信用していなかったが...、ラン様は本当に私に何もしなかった。

それどころか私なんかに部屋を与えてくれて、本を与えてくれた。


 どういう意図でそんなことをしているのかわからず最初こそ疑っていた。

けど、本当に何もしてこないし、何よりここで働いていた元奴隷の方はいつも楽しそうにしていた。


 メイドさんが高価なツボを割ってしまって、まるで死んだような顔になって絶望しているときも「あぁ、それ俺もいつかぶっ壊そうと思ってたんだよね。でかいだけで邪魔だしw気にしなくていいよ」ラン様はただ笑ってそういった。


 ご飯だって私達が食べているものと同じものを、メイドさんやシェフさんも食べていた。


 そんなある時、私はあるやり取りを聞いてしまったのだ。


 リベルさんとラン様のやりとり...。

私たちのために危険なダンジョンに挑んでいたのだ。


 そんな姿が昔の父と重なった。


 けど、ラン様は無事に帰ってきた。

そして、変わらず優しく私に笑いかけてくれた。


 たぶん...その時私は恋に落ちてしまったのだ。


 そんな昔のことを振り返りながら、のそのそとベッドに入り込み...私はそのままラン様に抱き着いた。


「ふにゃ!?//」という声とぽにょん...というやわらかくて大きいその感触に私の頭には「?」が浮かんだ。


 そうして、ゆっくりと布団から出るとそこにいたのは...ナーベさんだった。


 そのまま、見つめあう二人。


「...何してるんですか?」


「...いえ...その...まぁ...暇つぶしというか...」


「...あんなにかわいい声出るんですね」


「...//う、うるさいわね...ちょっと...敏感なだけよ...//アインこそ...何しに来たのよ」


「...私は...その...この前を続きを...」


「続き...?ふーん...まぁいいわ...私はこれで...」と、何事もなかったように出ていくナーベさん。


 よし...満を持して...とベッドに入ろうとすると、「何してるの?アインちゃん」と声をかけられる。


 そこに立っていたのは...リベルちゃんの上の妹のシュカちゃんであった。


「...もーー!!!」


 私の人生はどうやらうまくはいかないようにできているようです。

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