水
どうしようもない葛藤を抱えたまま、生きた心地のないまま、惰性の日々を過ごしていた。
その日々を繰り返す中で私は、馬鹿みたいに古文単語帳を開き続けていた。自分でも、どこか狂っていたと思う。先生の言葉を一字一句漏らさずに書き取ったノートを、来る日も来る日も見つめ続けた。それが空いた心の穴を埋めるための、痛む心を癒すための、唯一の行為だったからだ。先生の授業の記憶をなぞることで、起伏を繰り返す己の心を落ち着けていた。これ以外、方法が見つからなかったから。
私は期末テストで、百点を取った。温厚な性格で優しいのに、半分を超えるのも難しいと言われている先生のテスト。歴代で一番の点数、と先生は言っていた。つまり満点を取ったのは、私が初めてだったらしい。
私が高校を卒業しても、大人になっても、少しくらいは。
忘れられないくらいの、先生の記憶になれただろうか。
◇
一年後、季節は巡り。
また、次の春が来て。
遠野先生の、転勤が決まった。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と
変わらないものは、決してない。川の流れのように、人の幸せも時と共にすぎていく。この世の全ては、うたかた。
あの日の授業を思い出し、無常の世界を小さく恨む。
儚い人生、時のうつろいを美しいと、先生はそう口にしたけれど。
ごめんなさい。私は、そうは思えないのです。
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