寝逃げで異世界!

海原 繋

第1話 逃げた先には...

 時は戦歴100年、人族・魔族・獣人族、エトセトラエトセトラ、更には同族の国家間で...百年前、この世界全体を巻き込んだ戦争が始まってすぐに戦争の早期解決だ何だと言って集まった色んな国のお偉いさんが、この数字をできるだけ小さく済ませることができるようにとかいう願いを込めて設定したらしい『戦歴』という時代であったが、皮肉なことにその数字は三桁を迎え、百年戦争とまで呼ばれるようになった。


 そんな世界に生まれた俺ウィダーは、シュバルツ帝国の兵士として、祖国のために小さな頃から訓練され、戦ってきた。

 親の顔も名前もよく覚えていない。

 というのもこの国には戦争が始まってすぐ、男性のみの徴兵制度が成立し、その後の戦争の激化につれ、ちょうど俺の代から男女問わず幼少期から徴兵され訓練を受けるという規定が出来たのだ。


 別れのとき両親が泣いていたのだけは覚えている。


 なぜ別れのときに父が徴兵されていなかったのかよくわからないが、まぁ何かあったのだろう。なんせ三つのときの話だ、そんな細かいところまで覚えているわけもない。


 ともあれ、こんな戦争をはやく終わらせるため、そしてこの国を守るために、俺は日々戦っている。


「今日もお疲れ〜!」


 そう声をかけてくれた彼女は、俺の支援通信士オペレーターのフューレンだ。


 この世界で一番大きな国であるシュバルツでは、その豊富な人口を兵士として活かすために、三歳で徴兵した後、戦闘と支援の二つのグループに分けられてアカデミーで十五歳までまでの十二年間、戦闘グループの方は前線で戦う兵士として、支援グループの方は後方支援と通信を担うオペレーターとして育成され、八歳のときに成績順にアンフィアスター、通称アンフィとして兵士とオペレーターの二人一組となり、アカデミーを卒業した後に軍へ入隊することになるのだ。


 アンフィアスターとなった二人にはリンクという特別なスキルが発現する。

 このスキルは、オペレーターが使用したバフを兵士も受けられたり、双方の遠距離での通信が可能になったりと、何かと便利なスキルだ。


 まぁつまるところ、十八の俺らは実に十年もの付き合いになる。

 そして俺はフューレンのサポートにいつも助けられてきた。


「あぁ、今日もサポートありがとな!」


「いや〜今日の戦果も凄まじいね...」


「いやいや、そんなことないよ」


「...単騎で200騎を撃破、それも一番防御が厚いところで。おまけに敵拠点1つを制圧。少なくともこの帝国でウィダーはトップクラスの兵士だよ...」


 困惑されてしまった、まあ実際そうなのかもしれないけど。


「でもひどいよね、上官たちもほかのアンフィも!みーんなウィダーのことを認めてくれないで。ろくに作戦も伝えてもらえずに戦え!とだけ言われて。それでこれだけの戦果を残しても周りのサポートのおかげだ、とかいって。周りはサポートなんてしてくれてないのに!」


 そうなんだよなぁ、正直頑張りが認められないというのは常々感じている。

 まぁしかし。


「俺は、認められるために戦っているんじゃないからな」


「またそんなこといって、頑張りは認められるべきだよ!」


「まぁまぁ」


「...ねぇ」


 急にフューレンの口調が変わった。


「ん、どうした?」


 そう聞くと、フューレンが訴えかけるように言った。


「絶対に死なないでよ、今日も無茶ばっかりして。見てるこっちが心配になってくる!何があっても絶対帰ってきてよ!」


 いや、確かに決めたのは俺だけれども、お前も許可しただろうが!

 ...でも心配してくれてるんだな。


「大丈夫だって、心配すんな!」


 死ぬつもりはない、俺には死ねない理由があるからな。


「そんな軽く聞き流しt」


「おい」


 フューレンの言葉をさえぎるように発せられたドスの効いた声に振り向くと、そこには俺達と同年代の二組のアンフィがいた。


 面倒くさいが無視はできない。


「...ガイツ少佐、ヒンダー少佐、なにか御用でしょうか」


 彼(と彼女)らはこの国の有力な家門であるファールハイト一族の兄妹、つまり貴族である。

 ファールハイト一族は、家長のスターク・ファールハイトとその妻、シテュ・ファールハイトが帝国一のアンフィアスターであり、それが認められて貴族となった。

 ちなみに貴族が兵士の場合、特例としてオペレーターをその従者が務めることが認められている。そのため多くの貴族がオペレーターに優秀な人材を登用するため同世代のアンフィよりも優れた結果を残しやすい。

 しかし、俺達のアンフィは何度か二人よりも良い成績を残してしまったため目の敵にされているというわけだ。


 まったく本当に面倒だなぁ。

 

 そんなことを考えていると怒号が飛んできた。


「ウィダー、また俺達の邪魔をしたな!」


「そうよ!あなたがあそこにいなければ私達がもっと活躍できたはずよ!フューレンもなぜそれを許可したの!」


「...申し訳ありません」


「ちょっとウィd」


 ...謝って流そうと思ったとき、フューレンが口を挟みそうだったので急いで口止めさせてもらった。面倒くさくなるから黙っててくれ。


「次は調子に乗んじゃねぇぞ!覚えてろよ!」


「次はないわよ、もう二度と私達の邪魔をしないでよね!」


 そう捨て台詞を吐き彼らは去っていった。


「何あれ、嫌な感じ!邪魔なんてしてないじゃない!防御が厚いからってみんな避けてたところなのに!」


「まぁまぁ」


 もう何度も同じような扱いは受けたはずだが、フューレンはいまだに怒っている。

 まぁ俺自身も怒っていないかと聞かれたらそうではないのだが。

 

 だが相手は貴族、さらに言えばかなり実力もある。

 あの二人が協力して行動するレゾナンスと呼ばれる戦術は敵側の要注意リストに入っているとも言われるほどだ。

 下手に反発したら何をされるかわかったもんじゃない。


「とにかく、今日の出撃は終わりだ。明日に備えてもう寝よう」


「わかったわよ...」


 渋々ではあるがフューレンも納得してくれた。


「じゃあおやすみ!」


 そう言ってフューレンは自室へと戻っていった。


 さてと、おれも寝るかな。と、そう思ったときだった。


「ウィダー、大隊長が呼んでるわよ!」


 さっき別れたフューレンが嬉しそうに連絡してきた。


「!、わかった、すぐ行く!」


 通信を切った俺は内心喜んだ。


 ようやく俺達の活躍が認められたんじゃないかなぁ!

 うんうんそうに違いない、いやー今日は頑張っちゃったからなぁ。


 さっき口先ではカッコつけて、認めれれるために...とかなんとか言ったけど、やっぱり頑張りは認めてほしいもんだからな。


 ...そうして大隊長の下へついたとき、そんな幻想はあえなく打ち砕かれた。


「ウィダー、お前にはウンべゾンネン攻略作戦に参加してもらう」


「...は?」


 ウンべゾンネン?


 死刑作戦とか言われてる帰還率0%の無謀な作戦だって聞いたことがある。

 なんでも、とんでもなく厚く、高い防壁をブチ抜くために爆弾を持って突撃するらしい。


 そんな作戦だから、重い爆弾を持って突撃している途中にほとんどが兵士が墜とされ、仮に防壁の前まで到達しても設置している間に、至近距離から狙われ墜とされるんだという。


 そんな作戦帰ってこれないに決まっている。


「なんで...」


 なんで俺が?なぜ?どうして?


「どうして俺なんですか!理解できるように説明してください!」


「自分の胸に効いてみろ。それにもう決まったことだ。作戦は二日後だ、変わることはない。分かったら行け!」


 無慈悲にもそう怒鳴られ...部屋を追い出された。


「残念だったなウィダー!」


 声の主はガイツだった、!まさか。


「お前か!俺がこんな目に合わなくちゃならない理由は!」


「さぁ?知らないな、まっ、死なないように頑張れよ!」


 そう言って踵を返すガイツの背中を見て、俺はただただ絶望した。

 そうしてなかば放心状態で部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。


 名前も顔もよく覚えていない家族のこと、俺自身のこれから先、そして、フューレンのこと...様々なことが頭をよぎった。


「俺、何のために戦ってきたのかな」


 フューレンになんて言おう、まぁどうせすぐ知ることになるんだろうが。

 いや、もうどうでもいい。

 

 全部、諦めよう。


 ...現実逃避させてくれ。


 そして俺は眠りについた...はずなのだが。


「おーい」


 気づいたときには見たこともない白い空間で少年にも少女にも見える人物に話しかけられていた。


「おっ気づいたね」


「...あんた誰だ」


「自分ね、神」


「あっそ、で?何の用?」


 ...お前が神?んなもん信じられるか!

 こんな変な夢を見るなんて、俺、相当参ってるんだな...


「別に夢ってわけでもないのに。ま、いいや!とりあえず君には神様から『睡眠転生?』っていう特別なスキルをプレゼントしちゃうね!名前の通り、寝てるときだけ異世界に行けるスキルだよ!じゃ、頑張ってねぇ〜」


 そう一方的に言い、手を鳴らすと、自称神は消えた。


 はぁ?何がなんだか理解できなかったね。

 ま、どうせ夢だし起きたら絶望が待っている、どうでもいいや。


 そこで急に映像が途切れた...と思ったら目が覚めただけか。

 あぁ、もう少し現実逃避していたかった。

 そんなことを思いながら周りを見渡すと、すぐに異変に気づいた。


 そこには見たことのないものばかりが置いてあったからだ。


 大きな黒い板、鳥のような機械の模型、光を発するなにか、そして、どの国のものでもない服を着た男。


 驚いている彼に俺は勢いよく問い詰める。


「おい!ここはどこだ!おまえは誰だ!」


「ぼ、僕は海空うみぞら 大地だいち。ここは日本だけど...」


 ニホン?聞いたことがない国だ。


 


 


 は?じゃあ俺は本当に異世界に来ちまったのか?

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