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「なんで笑うのよー」


 テーブルに顔をうずめ腹をかかえて笑い転げるマコに言う。


「授業中ずっと、すっごいまじに考えてたんだから」


 マコは左手で腹を押さえたまま、パーの右手を私のまえに突き出した。もういい、なにも言うなのジェスチャーだ。


「いいかな? ウミちゃん」


 涙目でひくひくと笑い続け、バカにした口調で言う。


「なんで電車のなかでぶつかったくらいで、いちいちあやまんなくちゃいけないわけ?」


 胸を張って私はこたえる。


「だって、迷惑かけちゃったから」


 そこでまた爆笑された。


 はっきりいって、チョームカツク。


「だって、あんた、自分の立場になってよく考えてみなよ? 電車で人がぶつかったくらいで、いちいちしつこく怒ってる? 一瞬ちょっといらっとするかもしれないけど、そんなのすぐに忘れちゃうでしょ? だいいち話したこともない人間が時間をおいてあやまっても、なんのことだかぜんぜんわからないって。へたすりゃ、頭のおかしな子だって思われちゃうかもよ。電車のなかの王子さまに」


 電車のなかの王子さま?


 だから、いちいちへんなあだ名をつけるなよ。


 たしかにマコの言うことにも一理あるかもしれないが、私はぜんぜん納得できない。だってわざとぶつかったんだし、だってあれだけ怒らせちゃったじゃないか。


 その事実を考えるだけで、私はひどく胸が痛い。マコはしつこく笑っている。


「あれ? おまえたち、なにしてるの?」


 そのときだった。周囲の喧騒やマコの笑いをつらぬくように私のうしろで声がした。


「なんかすげー楽しそうにしてるな、おまえら」


 それは、聞き覚えのある男の人の声だった。


「あ……」


 笑いながらマコがひょいと顔をあげる。はずんだ声を出し、私の奥にひらひら手を振る。反射的に私もうしろを振り向いた。


「ヘンリー」


 私は動きと思考を止めた。


 なんとそこには、カレーの乗ったトレイを持った、金髪の元彼が立っていたのだ。

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