テンプレ不幸な運命は魔法で吹き飛ばすに限る

椿谷あずる

第1話

 

「お前のように魅力のない女とは婚約破棄だ!」

「えっ、そんな……」


 そんなはずはない。何度もその言葉が頭をよぎった。

 今まで私がどれだけ彼のために尽くしていたことか。でもその言葉が出る前に、私の運命はばっさりと切り捨てられた。


「ええい、今更言い訳など聞くか。さっさと目の前から去れ!」

「っ」


 私は何も言い返せなかった。

 ああ……悔しい。あんなにあんなに頑張ったのに。自分がやりたいことを放置して、彼を優先させたのに。待ちかまえていた結末は婚約破棄? 大体、その隣にいる女は誰?

 本当は反論したかった。でも私はただ感情を殺して、彼の前から立ち去ることしかできなかった。


「婚約破棄だ!」

「婚約破棄だ!」


 彼の声と、周りの声が響き渡る。

 ああ……本当に私って魅力がなかったのね。だから、こうなる運命だったのね。でもそれを素直に受け止めたくない自分がいる。だって私は精一杯彼に尽くしたじゃない。こんなにも頑張ったじゃない! ああもう! 悔しすぎる! 

 悔しくて涙が出そうになるのをぐっとこらえた。ここで泣いたら、私の今までが無駄になる気がしたから。

 許せない。突然裏切った彼も、弱い自分も。


「もっと強くなりたい……」


 ぽつりと出た言葉。これから私はどう生きていけばいいのだろう。でも私はここで人生に幕を下ろす気はない。だって私の人生はこれからなんだから。こんな時、魔法が使えたら運命ごと覆せるのに。相手の男を一瞬で消したり、呪い殺したり、最初からこんな結末無かったことにしたり、他にも……いや、待てよ。


「そうよ、私が魔法を使えるようになればいいのよ」


 どうして気づかなかったんだろう。魔法を使えるようになれば、こんな運命も覆せるじゃない! 大丈夫、私ならできるわ。この悔しさをバネに必ず魔法を覚えてみせるわ! 今からだって遅くない。これから魔法を極めて私の運命を塗り替えよう。私は天を見上げた。さっきまでの鬱屈した気持ちが嘘のように晴れた。


「は?」


 キョトンとする元婚約者。


「いきなりお前、何分からない事言って……」

「失礼」


 私はさっと背中を向けた。

 この男を相手にしている時間が惜しい。


「婚約破棄、理解しました」


 簡潔に告げる。


「それでは今までお世話になりました。ご機嫌よう」


 私は深々と礼をして、その場を去った。


「は? え?」

「きっとショックでおかしくなってしまったのですわ」

「そ、そうなのか」


 そうそう、そういう事にすればいい。元婚約者が何か言っているのが聞こえるけれど、もうどうでもいいわ。とにかく今必要なのはこの悔しさを晴らすこと。まずは自分の能力の底上げをしないといけないわね。だって元々魔法は使えないけれど、私の一族には代々魔力があるって聞いていたし。まさか使うことになるとは思わなかったけど。


「目指せ大魔法使い!」


 私は決意新たに前を向くのであった。

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