『世界の果て』アガサクリスティの謎を解け!その3

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『世界の果て』アガサクリスティの謎を解け!その3

 『世界の果て』はアガサクリスティの書いた短編の推理小説。主人公はサタースウェイト氏で、ポアロやマープルほどは知られていないが、知的な富裕層の老紳士だ。

 彼の助っ人として現れる不思議なクィン氏は副主人公といったところか。

 この『世界の果て』には2つの事件がある。(※ネタバレ注意)

 1つは過去に起こった宝石盗難の事件。もう1つは発生しかけたが未遂に終わった事件。

 どちらも解決するのだが、盗難事件のほうは事件の経緯が詳しく書かれていて、未遂に終わった事件のほうは、あやふやな形で読者の想像にまかせている。

 この未遂事件の真相を全面的に解くのが今回のミッションだ。

 ではあらすじをざっと述べみよう。

・ある公爵夫人とサタースウェイトはコルシカ島へ休暇を取りにやってきた。公爵夫人は港町で昼食中に親戚の娘を見つけ、3人で会話をした。娘は貧乏画家をしていた。娘の彼氏は宝石の窃盗容疑で懲役5年の刑となり1年が経過中だった。娘は少しふさぎ込んでいるようだった

・その公爵夫人はこの町を見物したいと思いたち、車を所有する初対面の元判事を仲間に引き込み、親戚の娘にも車を出させて、翌朝、出発した

・4人は2台の車──娘は自分の車がポンコツだからという理由で、誰も乗せなかったので、サタースウェイトと公爵夫人は車所有の元判事の車──で町を巡った

・やがて急なカーブの続く坂道を登り、高台の行き止まりで車を停めた

・その高台の行き止まり──娘が『世界の果て』と名付けている所──で、4人はサタースウェイトの友人クィンに偶然、出会った

・クィンはいった「『世界の果て』とは非常に暗示的な名前です。──これ以上はもう先に進めない場所──後ろに道はあるが、前にはなにもありません」

・さらにクィンは娘に対していった「自分で運転するんですか?度胸がありますね。このあたりはカーブがきついから何かに気を取られたり、ブレーキが効きそこなったら崖から落ちてしまいます」

・その後、娘はサタースウェイトへいった。「あのひと(クィン)の目がこわい。なにもかも見透かされているようで······」と

・高台は空気が冷えていて、雪が舞い始め、やがて本降りになった。5人は高台の安食堂に入り、そこで昼食を取ることにした

・その安食堂には先客3人──有名女優、その夫、プロデューサー(演劇)──がいた

・サタースウェイト氏らの一行5人が加わり、一緒に食事と会話が始まった

・すると、すぐに娘は「ここは暑すぎる」といって外出しようとしたが、クィンが娘を押し留めた。

・8人が昼食を取りながら会話しているうちに、その女優の宝石の盗難事件の話になった。娘の彼氏が絡んでいた事件だった。

・その後、物忘れの多い女優は、探し物──ドライパイナップル──を見つけるため、大きなバックから中身を次々と取り出してテーブルに広げた

・その多くの小物類の中に、からくり仕掛けの箱があった。元判事はその仕掛けのある箱を見て、その箱には中身が消える仕掛けがあることを女優たちのグループに教えた

・元判事がその箱を借りて、実演して見せると、箱に入れたチーズが消え──隠れ──、そして再び仕掛けを戻すとチーズが現れた。同時に盗られたはずの宝石も現れた!

・女優たち3人は、宝石は盗られたのではなく、女優が仕掛けのある箱に入れて、知らぬ間に仕掛けを動かして宝石が隠れてしまったのだろうと結論を出した。

・娘はテーブルから立ち上がり外に飛び出していった。サタースウェイトもこっそり外へ出ると雪は止んでいた

・娘はスケッチブックにクレヨンで絵──雪の万華鏡とその中央に1人の人物──を描いていた

・サタースウェイトはその素描の画を褒めた。クィン「事故は起こらないでしょう──もう今では」

・娘はまばゆいほど晴れやかな微笑でいった「事故は起こらないわ、帰りはサタースウェイトさんを乗せてあげてもいいわ」といった

──あらすじは以上。

 2つの事件のうち、宝石盗難の事件は、女優の所持するからくり仕掛けの箱にあったことで無事に解決した。

 では、もう1つの事件──娘の挙動不審な言動の裏には、なにがあったのか?

 問題となる娘の言動を抜き出してみよう。

【Q1】娘はクインの言葉──「世界の果ては、先がなく後ろに道があるだけ」「ここのカーブは急だから気を抜いたら崖から落ちてしまう」──に驚き、恐れた

【Q2】娘は女優グループ(3人)に出会うとすぐに「暑すぎる」といって外へ出ようとした

【Q3】娘はからくりの仕掛けのある箱から宝石が見つかると、外へ飛び出していった

【Q4】雪が止んだ店外で娘は一気に絵を描いた。そして「事故は起こらない。帰りは車(娘の車)に乗せてあげていいわ」と晴れやかな微笑でいった

 さて【Q1】では娘は何を恐れているのか?いずれにせよ、何かを起こそうとして、それをクィンに見破られかけていることは分かる。

 何を起こすかは、大きく3つ分類できる。

①:娘は、捕まった彼氏から箱の仕掛けを聴いて、事故を装って箱から宝石を抜き出そうと、女優たちがくるのを狙っていた

②:娘は、彼氏を刑務所へ入れられた恨みを晴らすため、事故を装って危害を加えようと、女優たちがくるのを狙っていた

③:娘は、車の転落事故を起こして死のうか迷っていて、彼氏の窃盗事件の女優たちに出会ったのは偶然だった

 つぎは【Q2】を追加して考えてみよう。娘はすぐ店から外へ出て何をするつもりだったのか?

①’:車のエンジンを暖めるために店外に出て、車を店の入口につけて再び入店し、女優の荷物ごと──仮に宝石の隠された箱がなくても──を引ったくり車に飛び乗って逃げる。

②’:店外へ出て、車に積んだ銃器を取りにいくか、もしくは車で店に突っ込んで無差別に一行をなぎ倒す。

③’:車に乗って崖へ向かって飛び込む。

 さらに【Q3】を加えて推測すると答えが半分見えてくる──箱から宝石が出てきて、娘は外へ飛び出した。

①’’:箱の仕掛けバレて宝石が見つかってしまったので犯行──奪い取るか、抜き取る作戦──を中止する

②’’:宝石が見つかったなら、彼氏の無実は完全に証明された、報復の怒りはますます増幅して自分の車へ向かう──車に武器があるのか、車で突っ込むのか

③’’:宝石が出てきて無実が証明されれば、すぐに彼氏が刑務所から出られるので、喜びを爆発させるために外に飛び出した

 この時点で②’’は完全に消去できる。なぜなら娘は飛び出した後、店内へ戻ってこないのだ。

 最後の【Q4】を加えて考えてみよう。外へ飛びてた娘は、クレヨンで素描し、晴れやかな微笑を見せている。

①’’’:宝石をゲットできなかった。悔しい!

③’’’:彼氏の無実が証明された。嬉しい!

 そう③⇒③’⇒③’’⇒③’’’が答えだ。すなわち娘は自殺を考えていた。だから往く時は誰も車に乗せずに、1人で転落しても良いと思って運転していた。

 そして宝石が見つかり、生きる希望──彼氏が戻ってくること──が、絶望を消し去った。

 帰路は安全運転する気になったので、“自分の車に乗っても構わない”といったのだ。

 これが未遂事件のほうの真相と考察する。

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